なりそこないの黒翼天使 ~ゴースト魔法で悪いコ退治!虐げられ令嬢は、ほのぼの推し活ライフに覚醒します!~

弥生ちえ

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Ⅲ 覚醒するなりそこない令嬢

第53話 なりそこないの黒翼天使

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「ちょ! ミリ、苦しいの!? 僕の防御の魔法が効いていないの!?」
「だ・だい、だいじょっぶね! 噛み締めてただけね!!」
「は!? 何それ!?」

 必死で伝えた「大丈夫!」は、若干訝しがられてはいたが何とか伝えることが出来た。その証拠に、心配に曇っていたリヴィオネッタの表情には、苦笑が混じっている。危機的状況は変わりないのに2人の間にだけは、ほのぼのとした穏やかな空気が漂う。

 ――が、対照的にギリリと唇を噛みしめる者がいた。

「あんたはいつだってそう……どんなに追い込んでも、痛めつけてもっ、そうやって余裕ぶってるのが気に入らないのよ―――――!!!」

 ビアンカは2人をしっかりめ付けて、悲鳴にも似た声で喚き散らす。すると、彼女から一段と暗い靄が溢れ出した。

「ミリ! 気を付けて、攻撃が来るよ」

 言うと同時にミリオンを庇おうと抱き込んだリヴィオネッタだが、元焔使えんしの老婆は「違うな」と否定の言葉を口にする。

「これは攻撃ではないぞ。見よ! 心根と同じく、黒く醜悪に染まった魔力が、黒い繭となって使徒の魂を喰らい尽くさんとするぞ!! 娘が、堕ちる」

 険しい表情の老婆が予告した通り、黒い靄がビアンカに纏わりついて、彼女の髪を、皮膚を黒く爛れさせて行く。

「何で!? 嘘よ! 私は美しい天使のはずなのに、なんでこんな汚い跡が付いていくの!? 私は天使なのよ!! 誰もに傅かれる存在なのよ!! ふざけないでよ!! 何もなかったから、手に入れるために必死で頑張ったのよ! 私だけ、何も手に入れられないままなんて冗談じゃないわ! 許さない、あんただけ幸せになんてさせない!! ミリオン――――――!!!」

 ビアンカの真っすぐすぎる欲望の叫びに、堕ちかけた天使の魔法が呼応して、繭の形に纏まり掛けていた黒い靄が、内部から放たれた漆黒の光の帯に突き破られる。

「全部、私のものよ! 私が好きにするのよ!!」

 光を吸い込む黒い魔法の帯は、触れるものすべてを破壊する勢いで、部屋中を飛び交い、壁を突き崩して屋敷もろとも崩落させて、中に居る人間たちをも巻き込もうとする。自分の身よりもミリオンの安全を優先するリヴィオネッタに、容赦なく瓦礫が飛弾となって襲い掛かった。 

「ミリ!危ない!!」
「リヴィ! わたしを庇わなくて良いからっ! あなたに怪我をさせたくないっ」

 必死で言い募るミリオンに、窮地を感じさせない温かな笑顔が向けられる。

「護らせてよ。ミリオンのお陰で僕にも覚悟ができたんだから。大切なものを守るには力が要るし、楽しく笑える毎日を送るためにも力が要る。だから僕は翠天になった」

 ミリオンの目の前で、美しい翠の翼が大きく広げられる。荒れ果てた屋敷の中なのに、その翼に守られるミリオンからは、眼前の風景全てがとても神々しく見える。ほぅ、とため息を吐いたミリオンはキラキラ輝く憧れに満ちた視線を、真っすぐリヴィオネッタに向けた。

「やっぱりリヴィは初めて出会った時と変わらず、とってもキレイで神々しくて尊くて――全部が素敵すぎる推しだわ! のんびり守られる気には、とてもなれないもの。リヴィに出会えてから、わたしは踏み出す力をもらえて、本当に安心して穏やかにいられるようになったの。この穏やかで癒される毎日を、わたしも自分で護りたい!」

 力強く告げるミリオンは、憧れと信頼に溢れた眩しい笑顔を浮かべる。リヴィオネッタは、ふわりと見守る様な柔らかな笑みで応えつつ、そっとミリオンの両手を取った。

「ミリ……一緒に行ってくれる?」
「うん、リヴィ!」

 手に手をとった二人がビアンカに真っ直ぐ歩を進める。

 荒ぶる彼女の攻撃魔法が襲い掛かって来るが、徐々に強さを増す翠と白銀の光を纏った二人の前に、攻撃は当たらずに霧散する。

 そしてついにビアンカの包まれる黒い繭に、ミリオンとリヴィオネッタは重ねた両手を押し当て――――

「ビアンカ、あなたに教えてあげたい。奪ったものは、本当の意味であなたの物じゃない。奪うだけじゃあ、幸せにはなれないのよ!」

 ミリオンの力強い言葉と同時に、あふれた眩い閃光が、迸る。

 光によって、真っ黒に染まったビアンカも、血に塗れたオレリアン伯爵とセラヒムも、瓦礫の散乱する周囲さえも清浄に塗り替えられて行く。



 傷は癒され、砕けた煉瓦は砂に還り、憎しみに染まった人の心は穏やかに凪いで行く。







 間違いなくその力は、安寧をもたらす黒い翼の「黒天こくてん」のものだった。
 優しい白銀の光の中、ミリオンの背に顕れた艶やかな黒い翼が羽ばたく。

 その場に居た者たちは、虐げ見下していたはずのミリオンが輝かしく昇華するのを、畏怖と憧憬を持ってただ茫然と見詰めた。
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