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Ⅲ 覚醒するなりそこない令嬢
第45話 学園ヒエラルキートップに君臨する(ビアンカside)
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ミリオンがかつて一人の時間を過ごし、今はビアンカが従者や学友などの取り巻きに囲まれてにぎやかな時間を過ごす王立貴族階級学園の教室。そこから華やかな令息令嬢のさざめき合う声が漏れて来る。
ビアンカが在籍するのは、成績優秀者と高い家格の者だけが集められた最上位教室だ。彼女は持ち前の向上心から優秀な光魔法の成績を収めてこの教室への在籍を獲得していた。ミリオンは学力こそ学園で1、2を争う位置にはいたけれど、当主であり父であるオレリアン伯爵が最上位教室への配属を厭い、彼女自身も魔法が全く使えない等の理由が重なり、この教室に入ることは叶わなかった。
明るい光がふんだんに差し込む日当たりの良い教室は、アーチ型の枠で象られた大きな窓が連なり、直射日光を程よく遮る上質なレースのカーテンが掛けられている。並べられた机や椅子は、平民の応接室の物よりもずっと高価でしっかりした作りの物ばかりだ。
それらを当然の様に扱う権利を持つ地位に、妾腹の子として生まれたビアンカが就くとは一体誰が想像しただろうか。ビアンカは、機嫌を取る様に媚びた笑顔を向けるクラスメイト達に愉悦感をにじませた視線を向ける。
(誰もかれも自分で勝ち取ることをしない怠け者よね。人の機嫌をとってペコペコするなんてバカみたい)
「ビアンカ様、物思いに沈んでいらっしゃるのですか?」
「あぁ、ビアンカ様のお心を煩わせるものなど、私がどれだけでも取り除いて差し上げますのに!」
彼らが熱心に話し掛けるのは、4大公爵家令息セラヒム・プロコトルスの婚約者候補であり、天使との呼び声の高いビアンカ・オレリアン伯爵令嬢だ。セラヒムの以前の婚約について語ることは禁忌とする、姿の見えない高位権力からの圧力もあって、誰も口にすることは無い。むしろ、好機だと捉える者も多い。されはさておき、先の「使徒の花祭り」では、彼女の誰よりも天使に近い風貌に王都中の注目が集まった。時の人である彼女には、あちこちから釣書が届けられているが、オレリアン伯爵は彼女こそがセラヒムの婚約者だと信じ、どれにも首を縦に振らないらしい。
「街中を照らす強力な光の魔法の使い手でおられ、更には街の治安にも貢献なさるビアンカ様には、私どもの力など些少のものでしょうけれど」
しかも、級友をはじめ世間では、ミリオンが脱走の際に放った強烈な魔法や、破落戸撃退に使用した幻影魔法をビアンカのものだと捉えていたため、彼女の評価は非常に高い。
「いいえ、大した力では有りませんのよ。天使と生まれついている私ですもの、その程度の魔法の行使なんて、どうってことありませんわ」
そしてビアンカも、敢えてそれを否定することはしなかった。
けれど残念ながらビアンカが最も評価を得たいセラヒムとオレリアン伯爵には、かの光の魔法がミリオンのモノだと知られてしまっている。幻影についても身に覚えはないが、ビアンカを象っている以上ミリオンが無関係ではないはずだ。ただ、彼らも敢えて周囲の勘違いを訂正する気は無いらしい。どちらを選んでも都合の良い筋書きが作れるように画策しているのだろう……とビアンカは理解している。
「何なりと言いつけてくださいませ、かならずやお力になって見せますわ」
「ビアンカ様の憂いごとの一端を、私たちにも聞かせてくださいませ」
ビアンカが思案に沈んでいる間も、クラスメイトの大袈裟な同調アピールは続いている。
それもそのはず、クラスメイト達は学園が掲げる目標『将来の実りある人脈を築くため、より条件の良い交流を掴み取る』を実直に実行していた。将来大きな力を得るであろう彼女の機嫌を取れば、より良い地位は確実。同じクラスに金の卵を産む鶏がいるようなもの――だから、ビアンカの態度に多少の思うところはあっても、積極的に近付いた。打算で成り立つ関係だと気付いていないのは、残念ながらビアンカ本人のみだった。
ビアンカは、いつもの取り巻き達に侮蔑の視線を送りながらも、自分で掴み取った立場を実感し笑いが零れそうになるのを何とか堪える。今からこの立場を利用して、取り巻き達が動くよう仕向けなければならないから、そのために物憂げな表情を作らなければならないのだ。
「憂えるというほどではないのですけれど……これまでの恩を忘れて勝手に家を出た愚かな義妹が、まだ私の心を煩わせるのです。姉として、家を継ぐ者として、よくよく諭してやらねばならないのに、こそこそ逃げ回って捕まらないのですわ。まったく困った愚妹です」
ほぅ……と、眉を寄せてため息を吐くビアンカに、一人の令嬢が誇らしげに口を開く。
「そう言えば、使用人から面白い話を聞きましてよ」
その言葉に、周囲の令息令嬢が悔しげな表情をする。それを、我先にと主人からの指示に応え、ご褒美を強請る飼い犬の様だと捉えたビアンカはクスリと笑いながら「何かしら?」と鷹揚に応えたのだった。
取り巻きから得た情報によれば、平民街のとある店に、ミリオンの居なくなった3ヶ月前から見慣れぬ娘が住み着いたと云うものだった。娘は、店の主人の親戚だという触れ込みのようだが、どう見ても似ても似つかぬ容姿――しかも娘の方は、平民にはありえない美しさなのだと云うことだった。
「美しい」と云う点に関しては、甚だ疑わしい情報であるものの、ミリオンが居なくなったのと同時期に現れた娘だというなら調べてみる価値はある。
―――少女の名は「フローラ」だという。
ビアンカが在籍するのは、成績優秀者と高い家格の者だけが集められた最上位教室だ。彼女は持ち前の向上心から優秀な光魔法の成績を収めてこの教室への在籍を獲得していた。ミリオンは学力こそ学園で1、2を争う位置にはいたけれど、当主であり父であるオレリアン伯爵が最上位教室への配属を厭い、彼女自身も魔法が全く使えない等の理由が重なり、この教室に入ることは叶わなかった。
明るい光がふんだんに差し込む日当たりの良い教室は、アーチ型の枠で象られた大きな窓が連なり、直射日光を程よく遮る上質なレースのカーテンが掛けられている。並べられた机や椅子は、平民の応接室の物よりもずっと高価でしっかりした作りの物ばかりだ。
それらを当然の様に扱う権利を持つ地位に、妾腹の子として生まれたビアンカが就くとは一体誰が想像しただろうか。ビアンカは、機嫌を取る様に媚びた笑顔を向けるクラスメイト達に愉悦感をにじませた視線を向ける。
(誰もかれも自分で勝ち取ることをしない怠け者よね。人の機嫌をとってペコペコするなんてバカみたい)
「ビアンカ様、物思いに沈んでいらっしゃるのですか?」
「あぁ、ビアンカ様のお心を煩わせるものなど、私がどれだけでも取り除いて差し上げますのに!」
彼らが熱心に話し掛けるのは、4大公爵家令息セラヒム・プロコトルスの婚約者候補であり、天使との呼び声の高いビアンカ・オレリアン伯爵令嬢だ。セラヒムの以前の婚約について語ることは禁忌とする、姿の見えない高位権力からの圧力もあって、誰も口にすることは無い。むしろ、好機だと捉える者も多い。されはさておき、先の「使徒の花祭り」では、彼女の誰よりも天使に近い風貌に王都中の注目が集まった。時の人である彼女には、あちこちから釣書が届けられているが、オレリアン伯爵は彼女こそがセラヒムの婚約者だと信じ、どれにも首を縦に振らないらしい。
「街中を照らす強力な光の魔法の使い手でおられ、更には街の治安にも貢献なさるビアンカ様には、私どもの力など些少のものでしょうけれど」
しかも、級友をはじめ世間では、ミリオンが脱走の際に放った強烈な魔法や、破落戸撃退に使用した幻影魔法をビアンカのものだと捉えていたため、彼女の評価は非常に高い。
「いいえ、大した力では有りませんのよ。天使と生まれついている私ですもの、その程度の魔法の行使なんて、どうってことありませんわ」
そしてビアンカも、敢えてそれを否定することはしなかった。
けれど残念ながらビアンカが最も評価を得たいセラヒムとオレリアン伯爵には、かの光の魔法がミリオンのモノだと知られてしまっている。幻影についても身に覚えはないが、ビアンカを象っている以上ミリオンが無関係ではないはずだ。ただ、彼らも敢えて周囲の勘違いを訂正する気は無いらしい。どちらを選んでも都合の良い筋書きが作れるように画策しているのだろう……とビアンカは理解している。
「何なりと言いつけてくださいませ、かならずやお力になって見せますわ」
「ビアンカ様の憂いごとの一端を、私たちにも聞かせてくださいませ」
ビアンカが思案に沈んでいる間も、クラスメイトの大袈裟な同調アピールは続いている。
それもそのはず、クラスメイト達は学園が掲げる目標『将来の実りある人脈を築くため、より条件の良い交流を掴み取る』を実直に実行していた。将来大きな力を得るであろう彼女の機嫌を取れば、より良い地位は確実。同じクラスに金の卵を産む鶏がいるようなもの――だから、ビアンカの態度に多少の思うところはあっても、積極的に近付いた。打算で成り立つ関係だと気付いていないのは、残念ながらビアンカ本人のみだった。
ビアンカは、いつもの取り巻き達に侮蔑の視線を送りながらも、自分で掴み取った立場を実感し笑いが零れそうになるのを何とか堪える。今からこの立場を利用して、取り巻き達が動くよう仕向けなければならないから、そのために物憂げな表情を作らなければならないのだ。
「憂えるというほどではないのですけれど……これまでの恩を忘れて勝手に家を出た愚かな義妹が、まだ私の心を煩わせるのです。姉として、家を継ぐ者として、よくよく諭してやらねばならないのに、こそこそ逃げ回って捕まらないのですわ。まったく困った愚妹です」
ほぅ……と、眉を寄せてため息を吐くビアンカに、一人の令嬢が誇らしげに口を開く。
「そう言えば、使用人から面白い話を聞きましてよ」
その言葉に、周囲の令息令嬢が悔しげな表情をする。それを、我先にと主人からの指示に応え、ご褒美を強請る飼い犬の様だと捉えたビアンカはクスリと笑いながら「何かしら?」と鷹揚に応えたのだった。
取り巻きから得た情報によれば、平民街のとある店に、ミリオンの居なくなった3ヶ月前から見慣れぬ娘が住み着いたと云うものだった。娘は、店の主人の親戚だという触れ込みのようだが、どう見ても似ても似つかぬ容姿――しかも娘の方は、平民にはありえない美しさなのだと云うことだった。
「美しい」と云う点に関しては、甚だ疑わしい情報であるものの、ミリオンが居なくなったのと同時期に現れた娘だというなら調べてみる価値はある。
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