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Ⅲ 覚醒するなりそこない令嬢
第40話 リヴィが来ない
しおりを挟むミリオンの驚愕の声に、困った笑みを浮かべたリヴィオネッタだったが、「やっぱりミリには敵わないなぁ」と苦笑するだけで理由を話してはくれない。
それでも、久し振りの2人での採取に心踊り、気持ちが嬉しさで満ち溢れたのはミリオンだけでは無かったらしく、ちょっぴりくすんだリヴィオネッタも、キラキラした笑顔を見せる。
「やっぱりミリのそばが良いな。ミリの穏やかな優しさに癒されるし、悪意をはね除けるくらい純粋で真っ直ぐなところも、可愛くて頼もしいから」
などと言われた日には、多少のくすみに感じた引っ掛かりも吹き飛んでしまう。
結局その日は何も深く追及することなく、日暮れまでたっぷりと2人の時間を堪能して、帰宅を待ち構えていた薫香店主コゼルトを十二分に心配させたのだった。堪能と言ったところで、これまでと同じく林中を素材を求めて2人で延々駆け回るだけの、とてもミリオン寄りな時間だったから、リヴィオネッタがこっそり溜息を吐いたのは仕方がない。
そうして採取復帰初日から、朝から日暮れまでの長時間を林で過ごしたことで、薫香店の面々を心配させてしまったけれど、採取した成果を見せれば、休養前以上の完熟・熟成・美品の数々にミリオンの完全復調を確信し、胸を撫で下ろしたようだった。
翌日。
朝早くからお弁当と魔導書を背負い籠に入れたミリオンが、林への小径に繋がる薫香店の裏木戸を開ける。
「無理は絶対だめだからね!」
「旦那様に心配を掛けたりしたら、俺が黙ってないからな!」
薫香店の3人が見送りに姿を見せるけれど、ミリオンの心配をするコゼルトに対し、ペシャミンは心配性なコゼルトを案じての立ち会いだ。ミリオンは彼の威嚇が大切な店主を思い遣ってのことだと分かっているから、向けられた悪態も微笑ましくしか感じられない。だから仏頂面のペシャミンにも心からの笑みを向け「いつも通りの元気なお見送り、ありがとうございます!!」と明るく告げて林へ向かったのだった。
この日の林も、朝から暖かな日差しが降り注ぐ絶好の採取日和だった。
(早速リヴィを呼ばなきゃ。けどあんまり朝早くから続けて呼ぶと、迷惑かしら)
昨日は魔法を込めての呼び出しを早く試してみたくて、悩むことなく朝からリヴィオネッタに呼び掛けてしまったが、効果を確認した今では、ちょっぴり冷静に考えて怖じ気付いたミリオンだ。
(うぅ~悩むわ! けどやっぱり会いたい! 迷惑……だったり、忙しかったりしたらリヴィも姿を見せないだろうし。うん、悩まずにやってみよう!!)
気合いを入れて魔導書を抱え、昨日と同じように心の中で呼び掛ける。
…………。
「あれ? も一回」
…………。
「んんんん?? 気合いが足りなかったかしら?よしっ、も一回っ!!」
…………。
「――っっ! なんでっ!?」
ついさっき自ら「迷惑だったり、忙しかったりしたら姿を見せない」などと言っていたのも忘れて、愕然と叫ぶ。
「がーん……もしかしてリヴィ、わたしの呼び出しが迷惑だった!? もしかして怒ってたりする!? それとも何か事件に巻き込まれてたりしたら……。そうよ! 昨日あれだけくすんでたリヴィだもの! 何かあったのかもしれないのに、会えたのが嬉しすぎてくすみの原因を放っておいたわたしのミスよね!」
ならば、くすみを放置した不首尾の後始末をしなければ、推しであるリヴィを愛でさせてもらう身として、もらうだけで返さない不義理な人間になってしまう。そうなった場合、自分が許せない――と、独自の理論を脳内展開する。
「よし! リヴィの声を聴いて現状把握するわ!」
弾む声で揚々と宣言したのは、断じて楽しんでいるからではない。良くないことに見舞われてくすんでいたかもしれないリヴィオネッタを助けるために必要な現状把握だ。来てくれないならせめて声だけでも聞こうなんて浮ついた気持ちの表れではない―――断じて。多分。
「ふふふん♪ リヴィはどうしてるのかなぁ~?」
浮ついた気持ちからではなかったはずなのに、やっぱり推しの声が聞けると思うと、気持ちがフワフワしてしまう残念テイストなミリオンだ。とは言え、浮かれる気持ちが高まる想いを後押しして、集音魔法行使の集中力をも押し上げる。
すると、すぐにはっきりとリヴィオネッタの声が聞こえて来た。
『朝から寝ぼけたことを言わないでくれ。私は自由で在りたいだけなんだ! 義務は果たす。無責任などと言われても、そうしなければ私は正気で居る自信は無い。――はぁ!? 見合いって……それは何度も断っているだろう? 身分も望まぬ私に何の政略相手を宛てがう気なんだ!』
(み・あいっ!? 見合いって、婚約を前提にしたアレのことよね!??)
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