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Ⅱ 薫香店の看板娘
第11話 推しを探すぞ!
しおりを挟む清廉なまでの白き閃光が、一帯に満ちる。
宵闇の迫る道を、真昼よりもまだ明るく照らして、全ての物の輪郭を消し去って行く。
その光の前では、目で物を捉える者の全てが、己の身の在処さえ見失い、僅かに感じる地面の感触に辛うじて立っていることを認識するのみだった。
(行こう! 優しいあの人たちに会いに!! 自由に、わたしらしく生きられる場所に!)
ミリオンの弾む気持ちに呼応し、力強い輝きをまとう魔導書。大切に抱えたその本の異変に、気付くものはいない。けれど広範囲を覆う光の魔法は、その場に居合わせた者だけでなく、付近に住む者達にも容易に視認することができるほど鮮烈だった。
「何だ!? この強い光は!」
「こんな強い光の魔法は見たことが無いぞ!」
ミリオンを捕らえるはずの兵士らは、狼狽えるばかりで何もできない。
反対に、周囲に住む者たちは窓から射し込む強い光に、オレリアン邸の異変を察して注視した。尊い者への憧憬と羨望を込めて。
――何も見えはしなかったが、とてつもなく強い魔法が使われたことは誰の目にも明らかだったから。
ただひとつ、現場と認識が違っていたのは、その光を作り出したのが、ミリオンではなく、天使の呼び声の高いビアンカだと判断されたことだった――――
溢れた光で、街の至る所に濃くなった物陰を渡り、ミリオンはちょろちょろと駆けに駆けて郊外を目指していた。
部屋から出た途端、館全体のみならず、その周辺までもが目映い光に包まれていたのには驚いた。けれど、すれ違う兵士たちが目を瞑り、狼狽えつつも「娘を逃がすな!!」との怒声を上げていたから、慌ててその場を駆け抜けた。その時は必死で気付かなかったけど、完全に館から離れた今、改めて疑問に思う。
(なんで、わたしは平気なんだろう?)
大通りの物陰から、随分遠くなったオレリアン邸の方向を見遣れば、まだぼんやりと光を纏っているのがわかる。そして確信した――これは自分の力ではなく、他からの力で助けられたのだ・と。
(ふわぁぁ――、すごい魔法だったわ! 魔導書の……ううん、魔導書さんのおかげねっ。それともあの緑の男の子が、どこかから助けてくれたのかしら)
自分が使った魔法、とは微塵も思わない。それもそのはず、彼女は魔道書を読むようになり、家事の助けになるささやかな魔法を使うことは出来るようになった。けれども、さっきの光のように視覚を奪うほどの閃光を、長時間保たせることなど到底できない。だから、当然のように自分以外が、ミリオンのために使った魔法――との答えを導き出している。
(あの男の子が助けてくれたんなら、良いのになっ! ううん、きっとそうよ! だって、わたしを助けてくれる人なんて、ほかにいないもん。けど居なくて良いのよ! だって、わたしを助けてくれるのは、あの綺麗な緑の男の子が良いもの)
辛辣な事実をあっけらかんと自認できる程度には、達観しているミリオン。さらに、悲観的にならずに、前向きに妄想を膨らませる彼女は、危機に駆けつける緑の少年の勇姿を想像しつつ、ワクワクと周囲を見渡す。
辺りは、もうすぐ夕刻を迎えようとする暖かな朱色に包まれている。もしここにあの美しい緑髪があったなら、反対色の景色に髪の鮮やかさが強調されて、すぐに気付けるだろう。けれど、ミリオンの目に映るのは、色に多少の差異はあるものの、茶や金の髪色ばかりで、あの美しくも特徴的な緑色の髪は見当たらない。
「残念……。そう言えばあの男の子、いたずら好きの翠天の影響が……なんてことを言ってたわ。いたずらなら、こんな当たり前にヒーローが出て来る場面では会えないのかもしれないわね。もっと思いがけなくて、びっくりしちゃう様な、いたずらの遣り甲斐のある時に会えるのよ! きっと」
独り言ちたミリオンは、何かに納得して大きく頷くと、すぐさま大通りをオレリアン邸とは逆方向へ走り始めた。
いつかのような、裏道に入り込むようなヘマはしない!と意気込んでのスタートだった。けれど、そこに行かなければあの少年に再会出来ない気がして、前回の教訓はどこへやら――まだお日様も頑張ってるし、もうちょっとだけなら良いわよね!と、裏道へと足を向けたのだった。
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