なりそこないの黒翼天使 ~ゴースト魔法で悪いコ退治!虐げられ令嬢は、ほのぼの推し活ライフに覚醒します!~

弥生ちえ

文字の大きさ
上 下
4 / 58
I 伯爵邸の虐げられ令嬢

第4話 古本求めて裏道探索

しおりを挟む
 
 ミリオンは、屋敷の主人のお使いを頼まれた使用人の振りをしながら、街へ向かった。

 そっと便乗した通りすがりの荷馬車が真っすぐ街へ向かったのも、記憶を頼りに雑貨屋や書店が軒を並べる一角をすんなり見付けることが出来たのも、なにかに後押しされているかのような僥倖の連続だった。

 本を限られたお金で手に入れるには、古本が良いかもしれない。

 ――そう考えたものの、曲がりなりにも貴族で、それなりの店舗を訪れたことしかなかったミリオンには、古書店がどこに在るのか見当もつかなかった。

「けど、下手に誰かに声を掛けるのもまずいわよね」

 ぶつぶつ呟きながら、通りを歩いて行く使用人を伴った貴族の買い物姿をちらりと見遣る。貴族に顔は合わせたくないのだ。

 と言うのも、貴族たちは「茶会」「夜会」「舞踏会」などで交流を図っている。不思議なことにオレリアン伯爵家の長女だったはずのミリオンが、それらに参加することは許されなかった。唯一参加できた貴族との交流と言えば、14歳になってすぐ、まだ母親が生きていて一緒に参加したセラヒムとの婚約式だったか……。

 けれど、その疑問は初めて屋敷へやって来た義姉を見た瞬間、理解出来てしまった。見るからに「天使」の資質の濃いビアンカの姿。そして彼女の方が自分よりも2つ年上だという事実――そこから導かれる結論は簡単だ。父であるオレリアン伯爵は、彼女こそを家門を代表する者として表舞台に立たせたいのだと。

 だからミリオンは、貴族の義務である社交の場に積極的に出たいと主張したり、行動することは控えた。後になって振り返れば、それがビアンカの言った「伯爵家に在りながら家同士のつながりである婚約を蔑ろにし、セラヒム様のお顔に泥を塗るような真似ばかりする」と云うことになっていたのかもしれない。

 そう云った事情から、ミリオンの顔は貴族たちにはあまり知られてはいないとは思う。思いはするが、学園にも通っていたのだから子供たちとは面識があるのだ。全く知られていないわけではないから、万が一がある。

 なので、下手に周囲の人間に声を掛けたのでは、万全の対策で抜け出した家に連絡されてしまうかもしれない。だからこそ自力で店を見つけ出したかった。

(古書店ってこう、お話の中では薄暗くて細い路地裏にひっそりと建っていたりするものよね?)

 本、本! と、目当ての物を強く念じながら、チョロチョロと裏路地を小走りで進み続けると、直ぐに足を止める事になった。

「お嬢ちゃん? お母さんのお使いかい?」

 行く手を、ニヤニヤと笑う男たちに遮られてしまった。急ぐ気持ちが押さえきれずに、ミリオンが前に立った男を強く睨み付ける。すると男は軽く目を見開いて、更に距離を詰めて来た。

「ほう? こりゃあなかなかの別嬪さんじゃねぇか」
「いい掘り出しもんが見付かってラッキーだったな。天使さんに感謝しねぇと」

 そこで、ようやくミリオンは、自分の失敗を悟った。路地裏と言えば破落戸ごろつきや、表に立てない事情の者達が集まる場所だ。そう気付いたところで、人気の無い薄暗いこの場所に居るのは、ミリオンの他に、彼女を取り囲んだ破落戸が3人も。逃げるのは容易くはなさそうだ。

(捕まったら本を手に入れられなくなる!! 本―――!!!)

 最後の足掻きとばかりに、正面の男に必死の突撃を行ったミリオンだったが、あえなく後ろ襟を持ち上げられて猫の子のように宙に浮くことになった。

「離してよっ! 本を買わなきゃいけないんだからっ!」

 ジタバタするミリオンを面白そうに男達が覗き込む。

「怯えて泣き叫ぶかと思えば、本だって?」
「お嬢ちゃん、大人しくしてりゃあ本なんてた~んまり手に入るぜ」
「本当に!?」

 宙吊りのまま喜色を浮かべたミリオンに、下卑た笑みが返ってくる。

「そうそう、お嬢ちゃんくらいの器量良しならいくらでも客が付いて―――」

 ドスッ

 鈍い音が響いて、白眼を剥いた破落戸達が倒れて行く。勿論、持ち上げられていたミリオンも、一蓮托生で地面に打ち付けられるだろう。来るべき衝撃を覚悟してキュッと目を瞑るけれど、いくら待っても痛みはやってこない。


 恐る恐る目を開けると、鮮やかな色彩と美しい面立ちの少年が目に入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… ※他サイトにも掲載しています ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...