【短編集】おとなし男子の悪役転生!ヒロインとか興味ないので筋トレしてたら、恋愛フラグが乱立してたみたいです。

弥生ちえ

文字の大きさ
上 下
6 / 17
3.ヒロインとか興味ないので筋トレしてたのに、家族が破滅フラグを立ててしまうみたいです。

俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

しおりを挟む
 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

 王妃様に危険が及ばない場所まで、彼女を運ぶこと――稀代の悪人ブラックマン伯爵の手から王妃様を助けることだ。

 俺はひた走る。月明かりが僅かに差し込む王城の渡り廊下に、カッカッカッと床を踏み鳴らす、ヒールの固い音を響かせて。



 王様が隣国との合同軍事演習で、城を留守にしている今夜――常に権力と財力の拡大を狙うブラックマン伯爵は、この日を好機と捉え、この国の最高権力の一翼を葬り去ろうと動いた。

 狙うのは、軍部を引き連れ、強力な護衛に守られつつ隣国に接する辺境へ赴いた王様……ではない。王城に残る王妃様だ。

 彼女を葬り、手の内の者を国王の後添えにさせようと画策しているのだ。

 既に第一の矢は放たれ、王妃には致死の呪いが掛けられてしまった。ブラックマン伯爵の家宝「3分間ヌーベル」で操られた魔導士によって。だが彼は、魔導士らしく抵抗し、伯爵が即死の呪いを掛けさせようとしたところを、朝日が昇るまで効果を発揮しない致死の呪いに留めた。

 とは言え、王妃様の命が危ういことには変わらない。さらに伯爵は、確実に王妃様の命を奪うべく、この王城内に何人もの暗殺者を送り込んでいる。

 物音のしない薄暗い城内のそこここには、親父の息のかかった腕利き暗殺者らの気配が潜んでいる――はずだ。筋トレばかりしてきた俺に分かる訳はない。だが、俺はその悉くから、王妃様を護らねばならない!

 俺の破滅フラグ回避をするために!!




 初めましての皆様のために、ちょっと自己紹介しておこう。

 俺ことヒロイキ・アークドールは、泣く子も黙る、どっかのマフィア顔負けの黒い噂のたえないブラックマン伯爵家の長男だ。親父の妾の一人から生まれた。

 そしてこの世界は、俺が前世、命の灯を落とす寸前までのめり込んでいたギャルゲー『ラブ☆きゅんメモリアル~ファンタジック学園編~』そのものだった。ついこの前の入学式で、その事実に気付いた俺の驚愕を分かってくれるか!?

 ただゲーム世界の住人になったのなら、攻略対象たちに会えるのが楽しみで仕方なかっただろう。けど俺の役どころは、数多の婦女子とキャッキャウフフとハッピーライフを謳歌する「ヒーロー」……ではなく、「悪役」兼「当て馬」だったんだ!!

 悪役を育てるのに相応しい毒親っぷりを遺憾なく発揮してくれたアークドール伯爵のお陰で、小さい頃から食うに困り、体罰に悩まされ、流血沙汰を飽きるほど見せられた俺に、更なる追い打ちとかひどすぎねぇ!? そりゃあ、荒んで悪役になっちまうぞ! リア充爆発しろってな!!

 だが俺は、前世から引き続いてのとんでもないコミュ障で、女子どころか同性でも陽キャは無理な大人し男子だ。「筋トレ」だけが友達のシャイボーイだ。




 その俺が、王城の長い廊下を、床を引きずるくらい長く、ヒラヒラしたスカートをたくし上げて全力疾走している。首にかかる長い後れ毛が汗で張り付いて気持ち悪いし、結い上げた髪も意外に重量があるから、疾駆する身体の重心を狂わされて厄介だ。

「待て! 貴様、母上ではないな!!」

 角を曲がったところで鋭い声が投げつけられ、待ち構えていた誰かが急に目の前に現れた。

 やばい! やばすぎる!! 今の俺の姿は、誰がどう見ても、この国の王妃様なはずだ。その俺に「母上・・ではないな」なんて呼び掛ける人間なんて、もの凄ーく限られている。

 しかも、今のは俺の知っている声だった。

「答えろ。お前は何者で、何故母上の姿をとっている?」

 詰問する声までもが、透き通った天上の音楽のごとき美しさだ。凛と通った声は本当に空の彼方まで響いているんじゃないだろうか……。ああ、やっぱり現れたのはボンキュッボンの超メリハリ女神、同級生でもあるクリスティアナ姫だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...