独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

文字の大きさ
上 下
150 / 215
第3章 乙女ゲーム始動 編

第151話 【攻略対象 隠しキャラ?】誘惑のクラウディオ王子

しおりを挟む

 本来のクラウディオ王子も、不愛想なことはない。王族らしく凛とした佇まいの中にも、安心感を与える穏やかな笑みを湛えた好青年だ。けれど宣言をして後、彼のとった表情は、甘く妖艶で、見た者は魅了されずにいられない――そんなものだった。

「レーナ! 見ちゃだめだ!!」
「くっ! あれは危険だ!! すでに何人かのご令嬢は手遅れだっ」

 アルルクとエドヴィンが、なにやらとんでもない事を叫び、両脇からレーナの頭を押さえ付ける。

「まさかわたしのせい!? 王子はどうなっちゃったの!? シルヴィアさんは!?」

 床しか視界に入らないレーナの声に、シルヴィアが「私は大丈夫です!!」と応えるのが聞こえる。次いで、そろそろと這った格好でシルヴィアがレーナの視界に入り込んで来た。

「レーナさんっ、ごめんなさい……。私っ、色々とひどいことをして……。教会で――多分、今のクラウディオ様と同じ声を聞いたあたりから、おかしな考えに誘導されるようになってしまって……」

 悲痛と羞恥がい交ぜになり、赤面しながら苦痛に耐えるように顔を歪ませるシルヴィアが、ちらちらと背後へ視線を向ける。おそらく、王子の姿を見て、黒いリュザスに操られていた少し前までの自身に重ねているのだろう。

「君たちも私の元へ戻っておいで。傍にいてくれる。それだけで君が私の力となるんだ。アルルク君も学院の垣根など飛び越えて私の元に来ておくれ」

 クラウディオ王子の甘やかな声が、こちらに向けられると同時に、レーナの頭を押さえ続ける2人の手が小刻みに震える。「ぅぐ」「やば」などと不穏な呟きが聞こえるが、床しか目に入らないレーナに状況を確認する術はない。レーナの代わりに状況確認をしてくれそうなシルヴィアは、更に顔を真っ赤にして目を見開いているだけだし、プチドラも『はわわわ』などと意味をなさない声を上げて、答えを返してくれる余裕は無さそうだ。

(いやいや、おかしな展開になってるよね!? これまでは、攻略対象を堕としてハーレムを狙おうと行動してたのは、ヒロインのシルヴィアだったけど……。その実行役が王子に変わったってことは――よ?)

「エドヴィン。君のエメラルドの瞳は、慈悲深き光で私を導いてくれる。
 アルルク。君の炎の如く力強い存在感は、私に勇気を与えてくれる」

 どちらかの手が、レーナを抑える力を抜いたのが伝わって来る。

「君たちは私の心の中でいつも輝いているんだ。責務の重圧に耐えながらも、それに真摯に向き合う時、心の支えとなる君の名が唇から零れ落ちるんだ」

 甘く切ない言葉が、レーナの側から2人を絡め取ろうと強力な呪文の如く繰り出される。レーナの頭に置かれた手が伝える動揺は、クラウディオ王子の口撃が続けば、何れは陥落してしまうことを意味する気がして――レーナの心臓がドクンと跳ねた。

 もしかすると、エドヴィンやアルルクが王子のところに行ってしまうかもしれない。

 それを想像して、動揺すると同時に否定する。

(ちがうちがう! そうじゃない!! エドヴィンはリュザス様探しで、情報や交友関係で力を貸してくれるドリアーデ辺境伯の嫡男なのよ! アルルクはリュザス様探しで、どんな遠くでも、馬車なんかよりずっと速く連れて行ってくれる移動手段ドラゴンで! だから、とっても頼りになる存在ってことで・さ!? 好きとかとはまた別枠でっっ)

「さあ」

 甘やかに呼びかけるクラウディオ王子が、こちらに近付く気配がする。さらに頭上に残された手もピクリと震えて感触が離れたところで、堪らずレーナは勢いを付けて顔を上げた。

「2人は大事な人なんだから!! 連れてっちゃダメーーー!!」

 大声で叫んでしまってから、周囲の――特に至近距離の2人から向けられた驚愕の視線に、失態を悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】私の小さな復讐~愛し合う幼馴染みを婚約させてあげましょう~

山葵
恋愛
突然、幼馴染みのハリーとシルビアが屋敷を訪ねて来た。 2人とは距離を取っていたから、こうして会うのは久し振りだ。 「先触れも無く、突然訪問してくるなんて、そんなに急用なの?」 相変わらずベッタリとくっ付きソファに座る2人を見ても早急な用事が有るとは思えない。 「キャロル。俺達、良い事を思い付いたんだよ!お前にも悪い話ではない事だ」 ハリーの思い付いた事で私に良かった事なんて合ったかしら? もう悪い話にしか思えないけれど、取り合えずハリーの話を聞いてみる事にした。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...