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第3章 乙女ゲーム始動 編

第132話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】モブは裏方として世界のために尽力する

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「はぁ!? なんで教えてくれなかったの!?」

『何回も! ちゃんと確かめたくて、王子のところに行ってって言ってるのにっ、聞かなかったのはレーナでしょ!!』

 確かに覚えはあるレーナだ。メイン攻略対象にやたら近付きたがるプチドラに、憤慨さえしていた。

「そうでした……ごめんなさい」

『分かればよろしい』

 しゅんと俯いたレーナに、宙に浮かんだプチドラがエヘンと胸を張って見せる。

「ってことは、よ? 今、王都では『陽』『大気』『土』の宝珠オーブに問題が起きてるってこと!?」

『あるべき【陽】が無く、無いはずの【大気】があるのが、さしあたっての問題かしら。【土】のは、まぁ弱ってるだけだから何とかできるんじゃない? あたしをこんな風にしたレーナなら』

『僕、を……助けてくれるの!』

 プチドラの言葉に、表情を輝かせたアルマジロがすかさず声を挟む。弱りながらも、この機会を逃すまいとの強い意思が現れている。

『仕方ないわよね? ね、レーナ、何かあるんでしょ? 良いアイディアが。最高神さまのためにも!』

 強引な話運びに呆気にとられていたレーナだが、最高神リュザスを引き合いに出されては、やる気を見せないわけにはいかない。レーナの頑張りの源は、玲於奈れおなで叶わなかったリュザスとの邂逅にあるのだから。世界ダンテフォールが滅びては、彼を探すことができない。

「ヒロインでも宝珠オーブ3つ分の問題が、まとめて襲来なんてしなかったのに……」

 はぁ、と深い溜め息が溢れる。12回も攻略した玲於奈でも、こんな展開に遭遇したことはなかった。けれど、やる気がない訳ではない。

(もしかしたらゲームでも、わたしみたいなモブが、人知れず舞台を整えてたのかもね。裏方には裏方でちゃんとやるべき務めがあるってことね)

 すがる目で、こちらを見詰めてくるアルマジロ。巨大ではあるが、不思議な愛らしさもあるつぶらな瞳に、レーナは苦笑を浮かべる。

「世界の強制力にも困ったものね……」

『ぶつぶつ言わないのー! ほら、早くアイディアを出す!』

「わかったってば、リュザス様のためだもの。穏やかな平凡モブ村娘生活を謳歌するために頑張るわ」

 レーナの言葉に反応してか、髪飾りから歓喜の気配が湧き出る。バルザックと、アルマジロは即座に反応して息を飲むが、土の宝珠オーブ問題解決に考えを巡らせるレーナは気付かない。そもそも魔力に鈍感なレーナだから、気付くはずもない。

「この気配に彼女は気付いていない……? それに……貴女たちは、主人と使い魔の関係ではないですよね。レーナさんの能力も、彼女の自覚していない何かがありそうですし。この際です、ちゃんと教えていただけますか?」

 考え込んだレーナをよそに、バルザックが話し掛けたのはプチドラだ。

『ぽっと出のあんたに、あたしの大切な子孫が気に掛けるレーナのことを教えてあげるつもりはないわ。けど……そうじゃなくても、女って秘密が多い方が魅力的なんだから。教える必要はないわよね?』

「……そう、ですね。私としたことが、レディに失礼なことを申しました。では、少しでも貴女方の魅力の秘密に近付けるよう、努力する許可をいただけますか?」

『ふふっ、悪くないわね』

 見た目は、肩乗りサイズのプチドラと、紫髪の妖艶な貴公子のちぐはぐな光景。なのに含みを持たせた笑いを向け合う一組は、場にそぐわない艶っぽい雰囲気を漂わせる。

「いやいや、わたしに面倒な問題を振っておいて、何で攻略対象せんせいと、宝珠の化身プチドラちゃんが良い雰囲気を作ってるの!?」

 思考の海から浮上したとたん、そんなものを目にしたレーナが、抗議の声をあげるのも仕方がない。

『あらレーナ、早かったわね。ごめんね、良い女は魅力を隠しきれないから。で? 何かアイディアは浮かんだ?』

「浮かんだわよ」

 憮然としながら、告げたのはその一言だけ。もとより、望む結末を求めて12回もの攻略をするレーナなのだ。クリア方法を考え、実行することは嫌いではない。むしろ、遣り甲斐を感じる性質だ。

「アルマジロはまだここにこうやって存在してるから、自分自身で解決するのが一番! その後押しをするわ。題して『ヒーローは、ピンチにやって来る』計画よ!」

 嬉々としてアイディアを語り出した。
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