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第2章 火龍・水龍 編
第95話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】第2形態変化は断固拒否
しおりを挟むレーナは混乱していた。
ファルークを止めたい。拘束から逃れたい。――とは思った。それから、アルルクやエドヴィンや、聖霊姫みたいに戦う力が欲しいとも思った。
そこまで考えて、はたと気付いた。
(その流れで、樹海での聖霊姫の戦う姿を思い浮かべたのよね)
うねうねと、踊る根っこを操って攻撃を繰り出した彼女の姿。レーナは、そんな風に何かを護る力があれば良いのにと切望した。
―― そうだよ! 君の望みに、僕が手を添えたんだ ――
「待って!?」
レーナは視界に映る、ロープか触手の如く変化した髪と、目の前を得意気に舞う虹色蝶に交互に視線を走らせる。
(護れても、モブどころか人間の尊厳を守れていないのは大問題じゃない!?)
大前提として平凡村娘でありたいレーナとしては、今の状態変化は問題しかない。
―― えぇー、君のためなのに不満なの? ――
『こんなものぉぉぉ! ワレの熱い思いの前では無力だぁぁっ!!』
リュザスに気を取られている隙に、火龍ファルークが拘束を解くために火を吐こうと口を開く。両腕を搦め捕るレーナの髪を焼き切るつもりなのだ。
「ちょっ! やば!!」
―― ほら、レーナ! 次はどうする? もう一房、髪を操ってあの口を閉じさせる? ――
焦るレーナにうきうきした声が、更なる人外への道を提案する。
「やだから、やだからねぇっ!」
叫び終わらぬ間に、目の前に紅蓮の塊が現れた。朱色の光がじりじりと肌を焼き、生命の危機を感じるには充分すぎる威力が、眼前に迫る。
その恐怖感に触発されたのか、持ち主の意思とは裏腹に、火龍ファルークの前肢を拘束するのとは別の一房がするりと持ち上がる。
「わたしはモブなのよぉぉぉーーー!」
レーナの心の奥底からの叫びが、力となって迸《ほとばし》る。
「やめろぉぉぉーーーー!!!」
アルルクの叫びが響き、レーナと火龍の間に飛び込んだ彼と火の塊が交錯する。
ばしゅぅっ
熱した鉄板に水滴が弾けた音――それを何倍にも強めた炸裂音が鳴り、辺りが濛々とした水蒸気に包まれる。真っ白な蒸気は、音から高温に違いないことが察せられる。
だが、吹き抜ける風によって高温の蒸気が晴れると、そこには怪我一つない者たちの姿が現れた。
『お主、何をやった……?』
ヴォディムが愕然と呟き、見張った両目がしっかりとレーナを捉える。同行者らを守ろうとした彼女は両手を前に突き出し、そこから薄い水の膜を張って、シャボン玉の如く空間を作り出していた。
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