87 / 215
第2章 火龍・水龍 編
第87話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】アイツにはお見通し
しおりを挟む『大事にするから、おとなしく過ごしててくれよなっ!』
閉まりかけた両開き扉の隙間から覗く、ファルークの人化した姿が爽やかな笑顔を向けて来る。いや、正確には半分だけ人化した格好だ。
褐色に近い肌に所々龍体の面影を残す身体は、鱗や鬣が有ることを除けば、よく引き締まっていて男神の彫像を思わせる美しい造形だ。元の西洋龍の姿を彷彿させる翼や尾、角、鋭い爪は、人型の彼にも残っている。レーナはその姿にゲームでの彼のストーリーを思い起こして、そっと溜息を吐いた。
(そう言えば、ゲームではヒロインがファルークルートに入って、好感度が上がると人化した姿を見せてくれるようになるんだったわね)
ルートに入ったわけではないのに、収監された今その姿を見せて来るとは、彼的な満足度は上がっているのだろう。レーナやアルルクらの印象は、また別として。
スパイや、怪盗が狙う、重要な物が仕舞われる大金庫もかくやと云う、大きく分厚い扉。それが、廊下側でのファルークによる操作で、滑らかに、静かに閉まって行く。
やがて両扉が中央でピタリと合わさると、その内部からヴヴヴギギ、ガチャと機械的な音が微かに漏れてきて、扉の間にあった僅かな隙間もピタリと閉じてしまった。どうやら、脱出防止を重さと大きさに任せただけの扉ではないらしい。勿論、引手やノブは無い。試しに部屋の者一同で、せーのと力を合わせて押してみるがびくともしない。
『ひくわぁー。窓もない地下の部屋に、押し込めるなんて。それで大事にするなんて、よく言うわぁー』
鼻の頭に皺を寄せたプチドラが、エドヴィンの大きく開いた襟元からひょっこり顔を出す。同じ宝珠の力の顕現であるプチドラが、あからさまに監禁対象者らにくっついていては警戒されるかもしれない――との彼女自身の主張によって隠れていたのだ。
水の精霊王ヴォディムの大きな水球を丸ごと取り込んだプチドラは、今やはち切れんばかりに膨らんだムチドラ状態。その彼女を胸元に入れたエドヴィンは、デップリとした中年親父の胴体に、ほっそりと綺麗な顔の乗った不自然な状態だ。ファルークによる追及を恐れた一同だったが、番を手に入れる以外は全く興味がないらしく、気付かれぬまま部屋に残されている。
そう、監禁されたのは、馬車ごと連れてこられた全員だ。番さえ居れば、他に多少違うものがくっついていても良いという、大雑把なファルークらしい状態となっていた。
「ご先祖様、貴女までついてこられなくとも、供の者と一緒に安全な外でお待ちくだされば良かったのに」
『えぇーっ? けどエドはレーナについてくつもりだったんでしょ? ならあたしも行くわよ』
ぷぅっと剥れるムチドラの風貌は可愛らしいが、そのまま彼の胸元に頬擦りするのを見たレーナは、彼女の首根っこを掴んで引き抜いた。
「どさくさに紛れて何やってるんですか。って言うより、最初っからエドにくっ付くのが目的でしょ」
『うふ、バレちゃった? まぁ、あたしがいる事なんて、隠れたところで同じ宝珠の力の顕現のアイツにはお見通しだものね』
「それを分かっていて尚の監禁場所か。余程自信があるんだな」
エドヴィンが険しい表情で広い部屋の内部を眺めながら呟いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】私の小さな復讐~愛し合う幼馴染みを婚約させてあげましょう~
山葵
恋愛
突然、幼馴染みのハリーとシルビアが屋敷を訪ねて来た。
2人とは距離を取っていたから、こうして会うのは久し振りだ。
「先触れも無く、突然訪問してくるなんて、そんなに急用なの?」
相変わらずベッタリとくっ付きソファに座る2人を見ても早急な用事が有るとは思えない。
「キャロル。俺達、良い事を思い付いたんだよ!お前にも悪い話ではない事だ」
ハリーの思い付いた事で私に良かった事なんて合ったかしら?
もう悪い話にしか思えないけれど、取り合えずハリーの話を聞いてみる事にした。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる