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第2章 火龍・水龍 編
第85話 【攻略対象 水の精霊王と水龍】相容れない主張
しおりを挟む逃げるべきだ――と、レーナは心の中で叫ぶ。けれど身体は動かず、竦んだままだ。
「きっしょくわりぃなぁ!? ふざけんじゃねーよっ!! オレはプペ村で、とーちゃんと、かーちゃんみたいな所帯をレーナと持つんだからなっ!!!」
「はぁ!?」
心底嫌そうに顔を顰めて、剣を抜き放ちつつ火龍ファルークを睨み付けるアルルクの横顔に、レーナは突っ込みを入れずにはいられない。
(は? 所帯って、イミ分かってるの!? けど、アルルクよ? 分かってないわよね、きっと)
思いがけないトンデモ発言に、思考と身体機能が瞬時に回復したらしい。レーナは、飛び跳ねそうになる鼓動を勘違いだと宥めつつ、けれど村に居た時よりも随分少年らしくなった面差しに気付いてしまう。
『いいや、その力はワレから分かたれた火龍の力だ。小さきオスよ、お前はワレのものなんだよぉっ!』
「ふざけんな!!」
ファルークが伸ばした手に、アルルクが剣の一撃を叩き込む。
だが、火の宝珠の力の顕現である、絶大な力を持つ火龍ファルークには、幼い勇者の攻撃は効かなかった。固い鱗に守られた手は傷を負うことなく、硬質な音を立ててびくともしない。
『大人しく 部屋に入ってくれよぉう!』
「じょーだんじゃねぇ!! 入ったっきり一方通行の、軟禁牢獄じゃねーか!! オレは罪人じゃなけりゃあ、お前の専属使用人でもねぇ! 勝手な希望を押し付ける奴の言う事なんか、だれも聞かねぇぞ!!!」
とんでもない力の差に臆することなく牙を剥き続けるアルルクは、危なっかしく見えこそすれ、頼もしくは思えない。小さな頃から彼を見守っているレーナには特に。
「勇者って、戦うのが強くなるだけじゃなくって、気まで強くなっちゃうの!? ここで煽るなんて、理知的な判断はないの!?」
「恐れを知らず、自分の正義を貫くのが勇者だ!! 神殿のじーさんたちに そう教わった!!」
「誰よその馬鹿は!? そんなこと言うのなんて大馬鹿よ!! そんなの実行したら、勇者じゃなくって、石頭の人の話を聞かない我儘無鉄砲しか出来上がらないわよ! 今度絶対に文句言ってやる!! 無事に帰れたらぜぇったいにぃぃ!!!」
見たことのない「神殿のじーさんたち」に向けて盛大に文句を叫ぶ。勇者認定に連れて行って、剣の修行をさせたのはまだいいが、偏った教育を施してくれたおかげで大ピンチだ。何故「君子危うきに近寄らず」な教えを施してくれなかったかと、憤慨するレーナだ。
『ま、諦めるんだな? お前たち小さき者が、ワレの力を持って、ワレの前に現れたんだから、ワレの物となる運命なんだろうってな。一生大事にするからよ』
「ジョーダンじゃないわよ!! イケメン風な言い回しなんかしても、サイテーな内容にぞっとして鳥肌が立つわ!!!」
「だから、きっしょくわりぃって 言ってんじゃんかよぉぉ!!! レーナや、オレを勝手にお前の持ちもんにすんじゃねぇぇぇ!!」
ついにはレーナまでもが、アルルクと共に、火龍ファルークに向かって怒声を上げだした。様子を見ていたプチドラが、笑い転げているが、彼女を肩に乗せたエドヴィンは気が気ではない。
『なんでだよぉぉぅ! ワレの力なんだぞ!? ワレのものだろ!!』
「無理無理無理無理!!! 相手の気持ちを考えられなくて、自分の主張ばっかり押し付ける屑男なんて願い下げよ!」
「だめだだめだだめだだめだ!!! レーナを勝手に 持ちもんにするのなんか、オレがゆるさねーー!!」
感情のボルテージが最高潮に達した、プペ村幼馴染2人の勢いに、エドヴィンをはじめシュルベルツ勢は口も挟めない。
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