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第1章 精霊姫 編

第42話 【攻略対象 辺境伯令息】根っこ相手に超苦戦

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「ひっ……! 精霊姫ドライアド様がお怒りに」

「何てことだ」

 領兵らが顔を青くして見詰める先では、地面から突き出た木の根に、レーナが肩を貫かれている。

 どう見ても、自然現象ではない。何者かが意志を持って植物を用い、レーナを攻撃したのだ。彼女を襲った根は、ほこらから地中を這って近付き、害意を持って突き出されたようだった。

「いた……くない! 治るっ!!」

 我儘わがまま娘に負けて堪るかと、レーナが力強く宣言すれば、突き刺さったはずの根が彼女の身体を境にして前後の地面にぼたりと落ちる。

(ああああ……治っちゃった。取り込んじゃった。今度は木だよ!? 痛くなくなったけど、これって大丈夫なの!?)

 今更ながら、内心で盛大に慌てふためくレーナだ。

 ―― 大丈夫なんじゃない? 僕の見込んだレーナだもん。それにもうちょっと頑張ったら、役に立つもの・・が来そうだし ――

 再び頭の中に青年の声が響く。

「どこがっ・大 丈夫っ だっ……て!?」

 頭の中の声に返事をしながら、ニョキニョキと地面から突き出しては引く木の根を躱す。飛び退き、後退り、必死の体捌きで祠から大きく距離を取れば、不自然に言葉が途切れる。舌を噛みそうだが、青年の呑気で勝手な言い草に反論せずにはいられなかった。

 レーナを狙って、禍々しく捻じれ尖り、黒く変じた木の根が次々に地面から突き出してくる。即死でなければ――ある程度・・・・までの自分の傷なら「治る」と念じ、呟けば修繕リペアできるとレーナは考えている。魔物にやられた腹の傷は本当に深かったから。けれど、刺されば痛い。だから、そんなものに進んで当たりたいとは思わないのだ。

(閉じ籠った精霊姫が出てくるように煽ったのはわたしだけどさぁ! 痛いのは嫌だってば。リュザス様が信じてくれるのは嬉しいんですけど!!)

 のんびりとして笑みさえ含んでいそうな青年の声に、レーナは心の中でひっそりと悪態を吐く。けれど、その間も地中から次々に木の根が彼女目掛けて突き出て来るから、必死で避ける。根の狙いは、彼女の煽りの甲斐あってか、レーナただ一人だ。執事や領兵は近付こうとしても、根がやんわりと脚に絡み付いて押し留めている。彼女への扱いとは雲泥の差だ。

 いつの間にか祠の周りは、地中から突き出た木の根にグルリと取り囲まれ、祠を胴にしたタコの様になっていた。

 祠を囲んで、屋根よりも高く上空へ延ばされた根は、近付けないレーナを嘲笑うかのようにウネウネと揺れて踊る。

「もぉもぉもぉっ! 煽ってんじゃないわよぉぉ」

 自分のことを棚に上げて、腹立ちを込めて叫ぶレーナの声が森に木霊する。煽れば簡単に現れるかと思った精霊姫とエドヴィンは、未だ現れる気配もない。だから多分に焦りもあった。
 とは言え、ここが彼らの籠る場所でないとは思ってはいない。自ら一緒に確かめに行くことを提案したリュザスが、彼らの居る場所へ案内していると信じているレーナだ。祠に近付けさせない様に、これだけの抵抗を受けるのも信憑性の裏付けになっている。

 固く閉ざした祠の扉の奥には、間違いなく精霊姫とエドヴィンが居る。

 そう確信しながらも近付けずにいるのは、祠を取り囲んだ「踊る根」が、レーナの些細な動きを追って右へ左へと照準を絞って動くからだ。今は50メートルほどの距離を取って様子を見ているが、近付けば必ず攻撃してくるだろう。
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