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気苦労の多い義弟
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最悪の形で別れた義弟だが、お義姉さまの姿を見て察してくれたらしい。
「エドモンドがすまない……!」
頭を下げて詫びてくれた。
お義姉さまがそんなサーファを優しくなだめる。
「サーファには助けてもらってばかりだわ。これ以上お荷物になってはいけないわね。わたくし、実はメーユ王国で生きていこうと思っているの。エドモンドだけ連れて帰って?」
爆弾発言に一同ビックリする。
そりゃ、ハポン国に戻ってもエドモンドとは縁が切れないし、私の側にいてくれたら安心するけれど、生粋の貴族のお義姉さまがどうやって生きていくのか。
「ハポン国ではわたくしも名筆の一人と言われていたのよ。これで何か身が立てられないかしら?」
なるほど、女文字をメーユ王国でこんなに優美に書く人はいない。
ハポン国に売り出している私の化粧水や整髪料、私のものに限らずハポン国の女性向けの商品の説明書を書く作業など、仕事は探せばありそうだ。
やってみないと分からないけれど、お義姉さまはつつましく暮らす人だ。きっとメーユで生きていける。
「しばらくはヘンリエッタの家にいさせてもらいたいわ」
「嬉しいわ!」
私とキャリンが声をそろえると、嬉しそうにお義姉さまは頬を染めた。
一方サーファは浮かない顔をしている。
「サーファ、二人でちょっと街に出てみない?せっかく来たんだから、観光よ」
キャリンに金色のペンダントを見せるとうなずく。
「お土産に何かいいものを買いたいわね」と言いながら市から北門を目指した。
内緒話をするなら人混みの中がいいかもしれない。
「サーファはもうすぐ結婚かしら?」
「……婚約が解消されたんだ。今回のエドモンドの件で」
浮かれた街には屋台の売り子の呼び声が響いている。
「エドモンドの贅沢で我が家は再び火の車だ。貴族の体面も保てない」
お腹に温かいものをあげよう。私は屋台の出来立ての揚げ餅を買った。
乾燥させた餅を小さく切って油で揚げて味付けしたものだ。
差し出すと、歩きながら食べるのか、と戸惑いながら口にする。
「……美味いし、辛い」
「男性に人気で、お酒に合わせる人も多いらしいのよ。お腹が空いている時に人はろくな考えにならないってキャリンも言っていたわ」
私は話を続ける。
サーファは揚げ餅の油で手をベタベタにしながら無心に食べている。
不安と悲しみでご飯ものどを通らなかったのだろう。
お義姉さまの幸せそうな姿を見て、心にひと区切りついたのならばよい。
「お金なら出すわ。エドモンドとお義姉さまは縁が切れるし、当座がしのげればいいのよね?今までの罪滅ぼしよ」
戸惑うサーファにハンカチを渡し、いくら必要か確認して、冒険者ギルドに向かう。窓口でお金を取り出してもらって革の袋に入れるとそのまま渡した。
「こんな大金、ヘンリエッタは大丈夫かい?」
「タイミングが良かったわね。今、儲かっているところなのよ」
一人でエドモンドを連れて帰るのは精神的にも肉体的にも辛いだろう。
せめて一つでも心配事をなくしてあげたいではないか。
今の貸家を買い取るつもりで貯めていたお金だったけれど、お金ならまた貯めればよいのである。
私はやりたい放題してハポン国を国外追放され、メーユ王国で今までいろんな人に助けられて救われてきた。
ここで誰かを少しだけ助けられるなら、そうしてみましょう。
「サーファはお酒が好きだったでしょう?重いけどお土産にどう?お義父さまや母さんにも分けてあげて」
評判の酒屋で何種類か邪魔にならない小瓶を買うと、一つ思いついた。
飛び切り高級な酒の小瓶を追加する。
さらに薬屋に寄って薬を数種類手に入れる。
さあ、家に帰って作業だ。
不思議そうに私を見るサーファに私は高級な酒の小瓶を振った。
「これをエドモンドに差し上げてちょうだい」
「エドモンドがすまない……!」
頭を下げて詫びてくれた。
お義姉さまがそんなサーファを優しくなだめる。
「サーファには助けてもらってばかりだわ。これ以上お荷物になってはいけないわね。わたくし、実はメーユ王国で生きていこうと思っているの。エドモンドだけ連れて帰って?」
爆弾発言に一同ビックリする。
そりゃ、ハポン国に戻ってもエドモンドとは縁が切れないし、私の側にいてくれたら安心するけれど、生粋の貴族のお義姉さまがどうやって生きていくのか。
「ハポン国ではわたくしも名筆の一人と言われていたのよ。これで何か身が立てられないかしら?」
なるほど、女文字をメーユ王国でこんなに優美に書く人はいない。
ハポン国に売り出している私の化粧水や整髪料、私のものに限らずハポン国の女性向けの商品の説明書を書く作業など、仕事は探せばありそうだ。
やってみないと分からないけれど、お義姉さまはつつましく暮らす人だ。きっとメーユで生きていける。
「しばらくはヘンリエッタの家にいさせてもらいたいわ」
「嬉しいわ!」
私とキャリンが声をそろえると、嬉しそうにお義姉さまは頬を染めた。
一方サーファは浮かない顔をしている。
「サーファ、二人でちょっと街に出てみない?せっかく来たんだから、観光よ」
キャリンに金色のペンダントを見せるとうなずく。
「お土産に何かいいものを買いたいわね」と言いながら市から北門を目指した。
内緒話をするなら人混みの中がいいかもしれない。
「サーファはもうすぐ結婚かしら?」
「……婚約が解消されたんだ。今回のエドモンドの件で」
浮かれた街には屋台の売り子の呼び声が響いている。
「エドモンドの贅沢で我が家は再び火の車だ。貴族の体面も保てない」
お腹に温かいものをあげよう。私は屋台の出来立ての揚げ餅を買った。
乾燥させた餅を小さく切って油で揚げて味付けしたものだ。
差し出すと、歩きながら食べるのか、と戸惑いながら口にする。
「……美味いし、辛い」
「男性に人気で、お酒に合わせる人も多いらしいのよ。お腹が空いている時に人はろくな考えにならないってキャリンも言っていたわ」
私は話を続ける。
サーファは揚げ餅の油で手をベタベタにしながら無心に食べている。
不安と悲しみでご飯ものどを通らなかったのだろう。
お義姉さまの幸せそうな姿を見て、心にひと区切りついたのならばよい。
「お金なら出すわ。エドモンドとお義姉さまは縁が切れるし、当座がしのげればいいのよね?今までの罪滅ぼしよ」
戸惑うサーファにハンカチを渡し、いくら必要か確認して、冒険者ギルドに向かう。窓口でお金を取り出してもらって革の袋に入れるとそのまま渡した。
「こんな大金、ヘンリエッタは大丈夫かい?」
「タイミングが良かったわね。今、儲かっているところなのよ」
一人でエドモンドを連れて帰るのは精神的にも肉体的にも辛いだろう。
せめて一つでも心配事をなくしてあげたいではないか。
今の貸家を買い取るつもりで貯めていたお金だったけれど、お金ならまた貯めればよいのである。
私はやりたい放題してハポン国を国外追放され、メーユ王国で今までいろんな人に助けられて救われてきた。
ここで誰かを少しだけ助けられるなら、そうしてみましょう。
「サーファはお酒が好きだったでしょう?重いけどお土産にどう?お義父さまや母さんにも分けてあげて」
評判の酒屋で何種類か邪魔にならない小瓶を買うと、一つ思いついた。
飛び切り高級な酒の小瓶を追加する。
さらに薬屋に寄って薬を数種類手に入れる。
さあ、家に帰って作業だ。
不思議そうに私を見るサーファに私は高級な酒の小瓶を振った。
「これをエドモンドに差し上げてちょうだい」
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