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水の中でキヤイルの腕を離すと、ネリーはゆっくりとポーズを取った。
メドジェの踊りは少ししか分からない。
自分の一番一生懸命に踊れるセイランの琴とイズールの歌声を思い出す。
国一番の歌劇場での人生で一番の出来だった舞を踊ろうと決めていた。
水は自分の動きを全く妨げず、むしろ体が動きやすいように感じる。
舞えば舞うほどに水がまばゆく、濃くなってゆく。
白い衣がゆったりと消えてゆく。
光の中でネリーはかぷかぷという不思議な笑い声を聞いた。
輪郭がぼんやりしたものたちが、ネリーの周りをくるくると回る。
キヤイルが目の端に入る。
キヤイルもまた輪郭のぼんやりしたくるくる回るものたちに包まれていた。
舞い続けるネリーに近づき、キヤイルが抱きしめた。
二人の周りを光る水が流れてゆく。
輪郭がぼんやりしたものが光をためて輝き始める。

「こんなに魔力が満ちるなんて」

キヤイルがつぶやく。
ネリーは分からないが、そうなのであろう。
ただ、こんなに快いものがあるのかと思う。
大小の輪郭がぼんやりしたものたちが、水の中でそこかしこに光を集めていた。
山の奥底を流れる水の中、共に世界の果てまで巡っていくようだ。
長いようで短いような時間が過ぎて、ネリーは水に溶けてゆくような自分を手放した。
ネリーが意識を失ったのに気づいたキヤイルが、ネリーを強く抱きしめたまま、神を帰す歌を歌い始めた。
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