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久遠類 編
鍵
しおりを挟む「おはよう、類。
……蓮巳は?」
登校中にたまたま門の前で蛍と会った。
いつも一緒にいるはずの蓮巳がいないことに蛍は訝しげな目をしてこちらを伺っている。
「そんなことより蛍さ。
…私が見た夢のこと蓮巳に話した?」
自分が思っていたよりも低い声でそう尋ねた。
蛍の肩がびくりと反応した。
分かりやすい。
「……うん、話したけど。ダメだった?」
別に蛍が悪いわけではない。
よく考えれば"誰にも言わないで"なんて言わなかったんだから。
「美術館行った時、蓮巳に何を聞かれたの?」
いや、蓮巳の振りをした怪物に。
「言いたくない!」
蛍にしては大きな声だった。
それは拒絶の目。
その目を見ると蓮巳を思い出してしまう。
「そ、そっか」
だが、蓮巳がするのとでは訳が違う。
いつもなら考えられない人物である蛍がその目を向けることに私は酷く気迫負けしてしまった。
「2週間後の運動会では美術部が活躍するから、心しておけよー」
部活の時間。
千川先生が意気揚々とそう言った。
「要するに、雑用係ってことだろ。」
火憐が不機嫌そうにそう唸った。
その通りだ。
毎年毎年、千川先生が雑用係を名乗り出てしまうせいで運動会は特に美術部が忙しくなるのだ。
「運動部にやらせとけよ。あしたたちは"美術部"なんだから。」
火憐の意見に全員が同意だった。
千川先生が無言で火憐の前に立った。
「…なんだよ。」
火憐は喧嘩でもするかのように先生を睨んだ。
先生はその視線に臆することもなく、だが怒るわけでもなくただなんでもないように
「九栗は元バレー部なんだから頼りにしているぞ」
そう告げてまた教卓に戻った。
「くそっ」
火憐はいつになく機嫌が悪くなってしまった。
こうなってしまえば誰にも手はつけられない。」
運動会の前日。
私たちは準備に駆り出されていた。
「体育館を昼休憩のスペースとして使うらしいから掃除をしてくれ」
千川先生はそう言って体育館の鍵を渡してきた。
どうやら私たち5人で掃除をしてほしいっことらしい。
私たちは渋々体育館へ移動した。
「あれっ…鍵開かない…」
私が鍵を回しても扉が開く気配はなかった。
どうしよう、と言っていると
蛍は私から鍵をひょいっと取り上げると
「私先生に言ってくる。」
と足早に行ってしまった。
蛍の姿が遠くなっていく。
「どうだかな。」
腕を組み壁にもたれかかっていた火憐がそう言った。
その言葉の意味を聞く前に蓮巳が駆け出した。
「えっ、蓮巳ぃ??」
澄華が大きな声を出す。
その声が聞こえたのか聞こえてないのか、蓮巳は何故か蛍を追って走り始めた。
私たち3人は呆然とする。
「はぁ…。」
火憐はまるで呆れたような声を出す。
しばらくして鍵を持った蓮巳が帰ってきた。
蓮巳は結構な速度で走ってきたが、息ひとつ乱れていなかった。
「蛍は?」
私がそう聞くと、蓮巳は
「さあ?」
と薄く笑った。
ー怪物!
「蛍になにをしたの?」
考えるより先に手が動いていた。
蓮巳の両肩を掴んでしまった。
「別に…。何もしてないけど?」
私と蓮巳が睨み合う。
相手は怪物だ。
こんな素手ではどうにもならない。
そんなの分かってる。
でも私は蓮巳を睨み続けた。
「すとーーーっぷ!!」
澄華が私と蓮巳の間に割って入る。
落ち着こう、ね?
と宥められ、私の興奮も少し落ち着いてきた。
だが、蓮巳を見ると涼しげな顔をしている。
その顔を見るとまた怒りが沸きあがる。
正直、自分がなんでこんなに嫌悪感を出しているのかわからない。
「なにしてるの?」
そうこうしていると、千川先生を連れた蛍が帰ってきた。
その手には鍵が握られていた。
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