COSMOS

なつめ

文字の大きさ
上 下
10 / 11
久遠類 編

怪物

しおりを挟む


「ただいまー。」


私は家に帰ってきた。

部活に顔を出しづらく…いや厳密に言うと蓮巳に会いたくなかったため保健室で本を読んだあとに家に帰った。


「えっ…」


入ってすぐに気づいた。


スニーカーが1足。



このスニーカーには見覚えがある。

いや、見覚えどころではない。

だってこれはーーーー


「類、おかえりなさい。」


おばあちゃんがそう言って近づいてくる。


何かを訴えるようにスニーカーとおばあちゃんを見比べると、おばあちゃんは笑った。


「ーー今ね、蓮巳ちゃんが来てるの」


「なんで」


"なんで"なんておかしな言葉だ。


幼なじみの蓮巳が私の家に来るなんてしょっちゅうのことじゃないか。

「なんでって…。

…アパートの下でね、類のこと探してキョロキョロしてたから。一緒に晩ご飯でも食べない?って誘っちゃった」



ーーああ神様いったい私が何をしたって言うんだ。


再び目眩がした。


どうにか靴を脱ぎ恐る恐る家の中へと入る。


自分の家なのにこんなに恐ろしいと感じたことははじめてだった。


リビングの使い古された木製のテーブルとイス。

蓮巳がちょこんと座っていた。



「おじゃましてます」


そう言うと柔らかく笑った。





箸は進まないし、ご飯は喉を通らない。


ただ目の前に座る蓮巳のことが気になって仕方がない。


「相変わらずご飯美味しいですね、こんな美味しいご飯が毎日食べられるなんて類が羨ましいです。」


普段の蓮巳なら絶対に言わないであろうお世辞を零して私の知らない笑顔で笑っていた。



ーー目の前の蓮巳はだれ?


ーー蓮巳は蓮巳でしょ。


ーーでもこんな顔して笑う子だった?


ーーじゃあ、目の前の蓮巳はなんなの?


ーーきっと蓮巳じゃなくて…本当はーー




そこまで思考が膨れ上がって


もう食事どころではなかった。





食後。


おばあちゃんが食器を洗っている。


今しかない。


聞くなら今だ。




「蓮巳。あのさ」



「類。」


だかその言葉は遮られた。



「類、最近変な夢見てない?」



それは突然の問い。


思わず飛び退きそうになったが

その衝動を抑える。


「見てない、けど?」


精一杯振り絞ってそう答えた。

だが、蓮巳は


「嘘。知ってるから、類が奇妙な夢を見てるってこと。」


ーーそういえば、私が奇妙な夢を見ていることを話した人物は蛍だけ。



美術館に行った時

【蛍に聞きたいことがあったから。】


あの時に蛍に聞いたの?


「…そうだよ。でもだったらなに?」


私の問いかけをよそに蓮巳は自分のカバンを漁り始めた。


その様子をただ見つめる。


蓮巳はしばらくすると



一冊の本を取り出した。


「クトゥルフの呼び声…」


その表紙を見た私は思わず口からその言葉が零れていた。


その言葉を蓮巳が聞き漏らすわけがなかった。


「どうして類がこの本を知っているの?」


その目は幼なじみに向ける目ではなかった。

きつく睨むように私を見つめてくる。


おかしい。やっぱり蓮巳の様子が変だ。



「私はこの本を澄華から借りた。」


澄華はあの時みんなにも本を貸してあげると言っていた。


「私、類のことがずっと嫌いだった。」


聞きたくなかったその言葉だけは。


今すぐ耳を塞いでしまいたい。でも手は動かない。
蓮巳の言葉を聞けと言わんばかりに。


「理由がわかったの。類がクトゥルフの信者だからだって。」

そう言った蓮巳は私をきつく睨んだ。


こんな顔知らない。


蓮巳はこんな顔しない。



違う。目の前にいるのは、蓮巳じゃない!



「…行って。」


私は拳を強く握った。


「出て行って!」








蓮巳が私を嫌いだと言った。


辛く深く海に沈んでいく。


『類』



誰かが呼んでいる。私のことを。



『怪物が蓮巳のフリをしている。』



声は頭に響く。



ーー怪物?

『怪物を殺せ。そうすれば蓮巳は元に戻る。』

ーー今の蓮巳が怪物?


ーーでもそうなら、もしそうなら全部説明できる。

ーー蓮巳が最近おかしいのも

その怪物とやらが蓮巳のフリをして生活しているからだ。



ーーそうに違いない。




ーー絶対にそうだ。




やっと海の底にたどり着いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

S県児童連続欠損事件と歪人形についての記録

幾霜六月母
ホラー
198×年、女子児童の全身がばらばらの肉塊になって亡くなるという傷ましい事故が発生。 その後、連続して児童の身体の一部が欠損するという事件が相次ぐ。 刑事五十嵐は、事件を追ううちに森の奥の祠で、組み立てられた歪な肉人形を目撃する。 「ーーあの子は、人形をばらばらにして遊ぶのが好きでした……」

Gゲーム

ちょび
ホラー
──参加する為の条件は【神】に選ばれること── 参加するだけで1000万円を貰える夢のようなゲーム「Gゲーム」。 特設されたガチャから出てくるミッションをこなせばさらに賞金が上乗せされ、上限もない。 但しミッションに失敗すると罰金があり、賞金が減額されてしまう。 Gゲームの最終目標は決められたエリアで1週間過ごす事。それだけ。 これは【神】に選ばれそんなゲームに参加した少年少女の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

618事件 まとめ

島倉大大主
ホラー
こちらは618関連のまとめページを転載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

処理中です...