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なつめ

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久遠類 編

美術館1

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「中では騒いだりしないこと。
館内は好きに見ていいって話だから。」

そう言うと先生は足早に階段を上がって行ってしまった。

「美術館っていうか……」

「横じゃなくて縦に長いからビルみたい」


私たちがそう言ってると火憐はただ面倒臭そうにフロントの椅子に腰かけた。

「あたしはダルいからパス。みんなで行ってきなよ」

そう言うと腕を組み目を閉じてしまった。
ここで寝るつもりなんだろうか…。

おい!って起こそうとしたがその手は澄華に止められた。

「…火憐一昨日から寝不足みたいで、そっとしていてあげてっ…」

そういうことなら仕方ないか。
確かによく見ると目の下に隈ができていた。

「私、一応先生に火憐のこと伝えてくるから先に見て回っててっ」

「私も一緒に行くよ!」

蛍が澄華に駆け寄る。

レポートを書かなくちゃいけないからみんなで先生を探す訳にもいかない。

「私と蓮巳で見て回って火憐の分のレポートも書いとくよ」

私がそう言うと澄華がニコッと笑った。
ずっと思っていたけれど澄華は華がある子だ。
名前が、っていう話ではなくその容姿だ。
私服もいつもオシャレだし、髪も器用に結ってある。
その笑顔に少し癒されつつ、私は蓮巳の方を向く。

蓮巳と仲を深める。
という決意で。

あんな夢今更見るのが不思議だ。それに蓮巳は元から少し変わっていて、そんなところも蓮巳らしいところなのだ。

「蓮巳。行こっか」

「蛍。私は蛍と行くから類は澄華と先生のところに行って。」


「えっ」


私の言葉を遮るように蓮巳はそう言った。

蛍も困惑している。

唖然としている私たちをよそに蓮巳は蛍の腕を取り連れて行ってしまった。

気持ちが焦る。


そんなに、そんなにも私のことが嫌いだった…?



どっと汗が吹き出し、何も考えられなくなる。

なんなんだ。なんなんだ一体。


「ちょっとっ……類大丈夫?」

俯く私を覗き込むように澄華が尋ねる。

顔を上げると、澄華の目が不安そうにこちらを見ている。

そうだ。こんなことしてる場合じゃない。


「うん。私のことはいいから早く先生に言いに行こう」


振り絞った声は震えていないだろうか?

私の口角は上手く上がっているだろうか?

プリントを持つ手に力は入ってないだろうか?

確認したくて堪らなくなったが、ぐっとこらえ私は澄華を急かした。


「先生いないね…」

探しても探しても見つからない。

途中もしかしたら蓮巳たちに会うのではないかと少しヒヤヒヤしたが、蓮巳どころか人を1人も見かけないのだ。

澄華は気づいているだろうか?
そう聞こうとした時

『類』

「えっ」

 


なにかに呼ばれたような気がした。

声のする方へ吸い込まれるかのように私の足が動く。

そうして足を止めたのは1つの絵の前である。

廃退した海底都市のような風景が描かれた絵画。



美しいからなのか、はたまた寂れたその都市に恐怖を感じたからか
それとも、夢で沈んでいった記憶が海への恐怖心を作ってしまったのか。

理由は様々だ。

私は様々な理由で取り憑かれたようにその絵画をただ呆然と見ていた。


「蓮巳はどうして私のことが嫌いなんだろう」


あろうことか、絵画を見つめていた私の口から蓮巳の名が出た。

わからない。なぜそんなことを呟いたのかも。


まるで絵画に答えを尋ねるかのように聞いた。

もちろん返事は返ってこない。


ただ、その絵画はどんどん私に近づいてきているような気がする。

距離が近くなる。

海底都市が近く。

海水が近い。

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