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「誰だ、あの生徒は」
「あんなに綺麗なお方、見たことないわよ」
「転入生の方かしら」
いつもとはまた違った注目を浴びながら私は廊下を歩く。
……これもこれで居た堪れないわね。
陰口を言われるのは慣れているけれど、褒められるのはムズムズする。
肩身を狭くしながら私は教室のドアを開けた。
視線が一斉に集まる。いつもはドミニク様から近づいてくるけれど、一向に話しかけてこないばかりか目を見開いて固まっている。
私はゆっくりと口を開けた。
「お、おはようございます」
そしてそそくさと席に着く。すると慌てた様子でクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「ちょ、そこはクレア様の席ですよ!」
「あ……」
……そうか。皆、私がクレアだってこと、分かっていないのね。
だからドミニク様もいつものように文句を言ってこなかったんだ。
「私はクレアです」
私がそう言うと、クラスメイトが一斉に固まった。そして数秒後に一斉に人が詰め寄ってくる。
「ク、クレア様!?」
「ど、ど、ど、どうされたのですか!?」
「その、いつもの髪型とかお化粧とか……」
「随分酷かったでしょう?」
「い、いえ、そんなことは」
「正直に言ってくれて全然構いませんよ。私自身でも思うくらいですから」
「「………」」
黙り込むクラスメイト達。
しばらくすると彼らのうちの一人が、何かを思い出したかのように私に尋ねてきた。
「あの……そういえば、昨日階段から転倒されたって聞きました」
「あっ、そうです!大丈夫でしたか?」
「ええ。ご心配ありがとうございます。ですが、軽傷ですみました」
相変わらず体は少し痛む。特に受け身を取った左腕が。
利き手じゃなくて本当に良かった……。でももう動けるくらいには元気だ。
「ご無事で良かったです!」
「ええ、本当に」
「心配していたんです」
次々に声を上げるクラスメイト達。
昨日までの私ならこんなに心配されることはなく遠ざけられていただろうに。
「それにしても、クレア様がこんなにお綺麗だったなんて……」
「これから仲良くして下さると嬉しいですわ」
「僕も、成績優秀なクレア様に苦手な教科を教えてもらいたいです」
「それだったら僕は語学の……」
「待て!」
誰かの怒声が響き渡り教室は一気に静かになる。
ドミニク様だ。
彼は大股で私の席の方へ近づいてくると、力尽くで私の手首を取り引っ張る。
「彼女は僕の婚約者だよ。僕に許可なく話しかけることなんて許さないからね」
はぁ、今更なのよね……。
顔を赤らめる彼を見ても何も感じない。彼は確かに今、クレアが求めていた表情をしているはずなのに。
昨日までの私が嘘のように、ドミニク様に対して冷めた思いしか残らなかった。
「あんなに綺麗なお方、見たことないわよ」
「転入生の方かしら」
いつもとはまた違った注目を浴びながら私は廊下を歩く。
……これもこれで居た堪れないわね。
陰口を言われるのは慣れているけれど、褒められるのはムズムズする。
肩身を狭くしながら私は教室のドアを開けた。
視線が一斉に集まる。いつもはドミニク様から近づいてくるけれど、一向に話しかけてこないばかりか目を見開いて固まっている。
私はゆっくりと口を開けた。
「お、おはようございます」
そしてそそくさと席に着く。すると慌てた様子でクラスメイトの一人が声をかけてきた。
「ちょ、そこはクレア様の席ですよ!」
「あ……」
……そうか。皆、私がクレアだってこと、分かっていないのね。
だからドミニク様もいつものように文句を言ってこなかったんだ。
「私はクレアです」
私がそう言うと、クラスメイトが一斉に固まった。そして数秒後に一斉に人が詰め寄ってくる。
「ク、クレア様!?」
「ど、ど、ど、どうされたのですか!?」
「その、いつもの髪型とかお化粧とか……」
「随分酷かったでしょう?」
「い、いえ、そんなことは」
「正直に言ってくれて全然構いませんよ。私自身でも思うくらいですから」
「「………」」
黙り込むクラスメイト達。
しばらくすると彼らのうちの一人が、何かを思い出したかのように私に尋ねてきた。
「あの……そういえば、昨日階段から転倒されたって聞きました」
「あっ、そうです!大丈夫でしたか?」
「ええ。ご心配ありがとうございます。ですが、軽傷ですみました」
相変わらず体は少し痛む。特に受け身を取った左腕が。
利き手じゃなくて本当に良かった……。でももう動けるくらいには元気だ。
「ご無事で良かったです!」
「ええ、本当に」
「心配していたんです」
次々に声を上げるクラスメイト達。
昨日までの私ならこんなに心配されることはなく遠ざけられていただろうに。
「それにしても、クレア様がこんなにお綺麗だったなんて……」
「これから仲良くして下さると嬉しいですわ」
「僕も、成績優秀なクレア様に苦手な教科を教えてもらいたいです」
「それだったら僕は語学の……」
「待て!」
誰かの怒声が響き渡り教室は一気に静かになる。
ドミニク様だ。
彼は大股で私の席の方へ近づいてくると、力尽くで私の手首を取り引っ張る。
「彼女は僕の婚約者だよ。僕に許可なく話しかけることなんて許さないからね」
はぁ、今更なのよね……。
顔を赤らめる彼を見ても何も感じない。彼は確かに今、クレアが求めていた表情をしているはずなのに。
昨日までの私が嘘のように、ドミニク様に対して冷めた思いしか残らなかった。
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