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3話
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自分でメイクをしてみようと思っても、まずはこの厚化粧を落とすべきよね。
私は化粧台に置いてあるメイク落としを手に取ってそれを適量ガーゼに取ると、ゆっくりと顔に付けた。
私の突然の行動に侍女たちが慌てて駆け寄ってくる。
「ク、クレア様?な、にを!」
「化粧を落としているだけよ」
「それなら私たちが」
「結構よ。これからは自分の身支度くらい自分でできるようにならなくては」
「ですがクレア様は公爵家の……」
あれこれと煩い侍女たちを私は覚めた顔で振り返ると一言だけ告げた。
「少なくとも、私を騙すような貴方たちの手は借りないわ」
侍女たちの顔の血の気がサーと引いていく。
私がニッコリと笑って「出て行ってちょうだい」と言うと、すぐさま退出していった。
それから私は一人でてきぱきと化粧を落とし、髪も解いて入浴した。
素顔になった私……クレアを見てみれば、そちらの方がよほど可愛かった。縦巻きロールもサラサラのストレートになって手触りが柔らかい。大きな青い目は宝石のようにキラキラしている。
「何これ、凄い美少女じゃない!今は少しお肌が荒れているけれど、化粧をやめればすぐに綺麗になれそうね」
私は浴室の中で一人で興奮していた。
その後、静かになった侍女たちに頼んで、部屋に食事を持ってきてもらった。侍女たちは未だ青白い顔で私を見ているが、私は気にせず黙々と食べ進めていった。
食事を終えると、歯磨きや最低限のことを済ませ、私は早めに寝ることにした。
やっぱり睡眠がお肌には大切よね。
クレアは美に対して、気を使う方向を間違っていただけだ。プライドの高い彼女は、侍女たちの煽てに上手いこと操られてしまっていた。だから今度こそ、彼女のためにもちゃんと美しくなろう。
そう思って私は目を閉じた。
「クレア様……本当にそのような格好で学園へ?」
「えぇ」
「あの、やめといた方が……」
「ご忠告ありがとう。でももうこれで良いのよ」
翌日ーー私は侍女たちが戸惑う中、身だしなみを整えていた。
唇には薄くリップを塗った。他に化粧はなし。今はまずお肌を休めることが先だから。髪の毛もストレートのまま軽く編み込みを入れて、香水は付けない。
ーーよし、完璧!
いつもの何倍も可愛い自分を見て、私はニッコリと笑った。
ーー侍女たちの意見に騙されてきた私だけれど、今の方が何倍も良いわ。
健気な少女は、ただ周りに言われるがまま必死に背伸びをして婚約者に好かれようとした。おかしいと思うこともあった。でも自分たちより経験のある侍女たちの方が正しいと思った。
それが前までの私。
ーーでも侍女を信じたのはあくまで私。決定権は私にあったのに。
だから私は彼女たちをこれ以上責めたりはしない。……調査をするつもりではあるけれど。
「行ってくるわね」
戸惑う侍女たちを置いて、私はそのまま屋敷を後にした。
私は化粧台に置いてあるメイク落としを手に取ってそれを適量ガーゼに取ると、ゆっくりと顔に付けた。
私の突然の行動に侍女たちが慌てて駆け寄ってくる。
「ク、クレア様?な、にを!」
「化粧を落としているだけよ」
「それなら私たちが」
「結構よ。これからは自分の身支度くらい自分でできるようにならなくては」
「ですがクレア様は公爵家の……」
あれこれと煩い侍女たちを私は覚めた顔で振り返ると一言だけ告げた。
「少なくとも、私を騙すような貴方たちの手は借りないわ」
侍女たちの顔の血の気がサーと引いていく。
私がニッコリと笑って「出て行ってちょうだい」と言うと、すぐさま退出していった。
それから私は一人でてきぱきと化粧を落とし、髪も解いて入浴した。
素顔になった私……クレアを見てみれば、そちらの方がよほど可愛かった。縦巻きロールもサラサラのストレートになって手触りが柔らかい。大きな青い目は宝石のようにキラキラしている。
「何これ、凄い美少女じゃない!今は少しお肌が荒れているけれど、化粧をやめればすぐに綺麗になれそうね」
私は浴室の中で一人で興奮していた。
その後、静かになった侍女たちに頼んで、部屋に食事を持ってきてもらった。侍女たちは未だ青白い顔で私を見ているが、私は気にせず黙々と食べ進めていった。
食事を終えると、歯磨きや最低限のことを済ませ、私は早めに寝ることにした。
やっぱり睡眠がお肌には大切よね。
クレアは美に対して、気を使う方向を間違っていただけだ。プライドの高い彼女は、侍女たちの煽てに上手いこと操られてしまっていた。だから今度こそ、彼女のためにもちゃんと美しくなろう。
そう思って私は目を閉じた。
「クレア様……本当にそのような格好で学園へ?」
「えぇ」
「あの、やめといた方が……」
「ご忠告ありがとう。でももうこれで良いのよ」
翌日ーー私は侍女たちが戸惑う中、身だしなみを整えていた。
唇には薄くリップを塗った。他に化粧はなし。今はまずお肌を休めることが先だから。髪の毛もストレートのまま軽く編み込みを入れて、香水は付けない。
ーーよし、完璧!
いつもの何倍も可愛い自分を見て、私はニッコリと笑った。
ーー侍女たちの意見に騙されてきた私だけれど、今の方が何倍も良いわ。
健気な少女は、ただ周りに言われるがまま必死に背伸びをして婚約者に好かれようとした。おかしいと思うこともあった。でも自分たちより経験のある侍女たちの方が正しいと思った。
それが前までの私。
ーーでも侍女を信じたのはあくまで私。決定権は私にあったのに。
だから私は彼女たちをこれ以上責めたりはしない。……調査をするつもりではあるけれど。
「行ってくるわね」
戸惑う侍女たちを置いて、私はそのまま屋敷を後にした。
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