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学園
しおりを挟む「クロエ様、どうされました?」
レベッカは走り寄ってきたクロエを向いてそう言った。
今ので息が少し切れたらしいクロエは、呼吸を整えながらレベッカの言葉に答える。
「そんな、様だなんて……。私のことは前みたいにさん付けで呼んでください」
「いえいえ、王太子様の婚約者様にそのような扱いは出来ませんから」
本当は「王太子の婚約者になるのですから、教室と廊下を走ったくらいで息を切らすのはどうかと思います」くらいの嫌味を言いたい。しかしそれを今ここで言ったところで帰ってくる言葉は想像つく。だったら面倒ごとは避けるべきだ。
それに私はもう彼女とは関係ない。……元からなかったはずだが。
他人行儀なレベッカにクロエは声のトーンを落とす。
「そんな……私も突然のことでとても驚いているのに……。レベッカ様がまさか本当に婚約解消を求めるなんて思わなくて。アラン様はすごくショックを受けていました」
……つまり、私のせいでこんなことになったと。あくまで自分は巻き込まれた側だということね。
でも同じ土俵に乗ってはいけない。
レベッカは溜息を押し殺すと、笑顔でクロエに謝った。
「ごめんなさい、迷惑をおかけして。てっきり王太子様のことがお好きなのだと……。今からでも国王様にお願いして婚約者を変えて」
「私は別にアラン様が嫌いなわけではありません!婚約者になるのは少し怖いけど……こんな私でも王太子妃になれるように頑張るつもりです!今日はこのことを伝えにきたんですっ」
クロエは一気にそう言うとまた息を切らす。
ただでさえ目立っていたのにクロエの大声でさらに視線を集めてしまう。
面倒になってきたわ……。
レベッカは相変わらず顔に笑顔を貼り付けながらクロエを見る。
「そうですか。それが聞けて嬉しいです。ですが私はもう関係ありませんので、これからは王太子様とお二人で頑張ってくださいね。では」
「あ、ま、待ってくださいっ」
「授業が始まってしまうので」
「あっ」
さっさと立ち去ってしまう。
返事に困ってウロウロとしているクロエを後にレベッカは踵を返した。
果たしてクロエがこのまま王太子の婚約者を続けられるのか、レベッカには分からない。
レベッカですら嫌気がさすほど多くのことを、これから彼女は一から頭に入れていかなければならないのだ。
でも、それもあなたが望んだことだから。
おそらくこのままだと彼女が婚約者からおろされるのはそれほど遠い未来ではないし、この国の貴族はそれほど馬鹿じゃない。……少なくとも国王陛下は。
レベッカは陛下が何を考えてこうしたのか、一応何となくだが察しがついている。そもそもあの程度の訴えですんなりと婚約解消を認めた陛下が、何も考えていないはずがない。
さて、これからどうなるのか。
こんなことを考えている時点で自分もあまり出来た人間ではないな、とレベッカは人知れず笑った。
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