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※王太子の違和感
しおりを挟むクロエが僕の婚約者になってからちょうど一ヶ月がたった。彼女はほぼ毎日王宮に来て王妃教育のレッスンを受けているが、どれも出だしはいまいちだった。
僕はクロエのレッスンが一通り終わった後、書斎で教師陣から感想を尋ねていた。
「ダンスにおいて、クロエ様は集中力も体力も圧倒的に足りませんわ」
「語学学習の時間中、クロエ様が途中で何回も気分を悪くされていましたのでお医者様に診てもらいましたところ、特に悪いところはどこにもありませんでしたよ」
「クロエ様の歩き方の癖が直らないので、コルセットを毎日つけて頂くことにしました」
教師陣からの言葉は褒め言葉が一つもなかったが、何かしらクロエの力になろうと尽力してくれている辺り優しさを感じる。
リミットは刻一刻と近づいてきている。レベッカが幼少期からゆっくりと吸収していったことを、クロエはもの凄いハイスピードで覚えていかなければならない。もう分かるだろうが、それはとてつもなく大変なことだ。
「皆、ありがとう。クロエも頑張るって言っていたし、傷つけない程度に彼女を鍛えてあげて」
「はい。私、レベッカ様が好きでしたので今回は乗り気ではありませんが、中途半端な固まるを王太子妃にするなんて許せません。全力でサポートさせて頂きますわ!」
「あんなに鍛えがいのある方は初めてですわ。私も頑張りますね」
教師陣との話で、僕の胸はクロエへの期待で膨らんだ。
彼女が努力をして、どんな素敵な人になっていくのだろうか。それを近くで見てみたい。しかし……。
「アラン様っ!皆さん私のことをよく思っていないようで……っ」
教師陣と入れ替わるように僕の書斎を訪ねてきたクロエの発言に、一気に現実に引き戻された。
どうしてそんな勘違いを?教師陣は厳しいながらもクロエを支えようと尽力するつもりなのに。
「クロエ、それは違うよ」
「でも、皆さん、接し方が怖かったっていうか」
「それはクロエに厳しくしているからだよ」
僕がそう言うと何故かクロエは顔を歪まさせる。
「やっぱりこんな地味で取り柄のない私が婚約者だなんて、よく思っていらっしゃらないんだわ。だからあんなに厳しく」
「違うよ。厳しくされるのは、期待をかけられている証。頑張ってついていけば絶対立派になれるよ!」
「期待だなんて……そんな訳ないです。だってこの部屋に来る時にすれ違ったんですけど、睨まれたんです。きっと私のことがお嫌いなんです」
結局最後までクロエがぼくの言葉を理解してくれることはなかった。
それから、頑張ると張り切っていた割に今日は体調が悪いから休むだとか、先生が怖いからだとか、何かと理由をつけてレッスンを休むことが多くなった。
僕がクロエへの違和感に確信を持ち始めたのはそれくらいの時だった。
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