殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

文字の大きさ
上 下
3 / 16

※勘違い(王太子視点)

しおりを挟む

「クロエ、これはどういうこと?」
「あ……」

 残された僕はレベッカの背中が完全に見えなくなると、クロエを振り返った。あくまで王太子として冷静に、彼女を怖がらせないように笑顔を浮かべて。
 しかしクロエはビクッと肩をふるわせ顔を俯かせて何も答えない。
 それでも僕は彼女に問うた。

「さっきは何を話していたの?怒らないから教えて。レベッカに僕と別れてって言ったの?」

 優しい口調がむしろ責められているように感じたのか、クロエは今にも泣きそうな顔をした。
 ……泣かせてはいけない!
 クロエの境遇は散々なものだった。幸せから程遠い生活を送る彼女を幸せにしてあげたい気持ちは大きい、というより弱者を救う、それが王太子である自分の義務だと思っている。
 だから彼女を傷つけるようなことはしたくない。

「怒らないから、聞かせてほしい。ゆっくりで良いから話して欲しいんだ。レベッカが君を呼び出したんじゃなくて、君がレベッカを呼び出したのか、クロエ」
「…………」

 ……駄目だ、話し出す気配がない。
 そう思った時、クロエの小さな唇が小さく震えた。

「……そうです。だってアラン様、レベッカ様にいつも冷たい態度を取られていたから……。もっと優しくしてあげて下さいって言ったんです」

 僕がレベッカに冷たい態度を取られている?
 違う、確かに厳しい口調の時もあるけど、それは僕のことを思ったうえでの行動だ。
 クロエに対しての態度はもう少し優しくして欲しかったが、それ以外に関してはレベッカは最高のパートナーといか言いようがなかった。

「それは違うよ」
「え、でもいつも、地味令嬢なんか気にかけても意味はない。王太子なのだから付き合う相手をちゃんと選べ、とか言われていましたよね?私のことは別に良いんですけど、殿下まで悪く言われていると思うとショックで……。だからカッとなってつい別れてくださいなんて言ってしまって……」
「待って。何を言ってるの?レベッカは一つのものに惑わされずに広い視点で物事を見るべきだ、としか言ってないよ」

 つい口調が強くなってしまった僕に、クロエは顔を歪ませた。

「ごめんなさい……私なんかが出しゃばって……」
「責めているわけじゃないよ。でも勘違いをしないでほしくてつい」
「良いんです、私もう殿下に近づきませんからっ。大丈夫です。一人ぼっちの生活は慣れていますから」
「待ってくれ。君が僕を思って言ってくれたことは嬉しいよ!」

 僕がそう言うと、クロエは顔をパッと上げた。前髪の隙間から見える緑色の瞳がキラキラと僕を見据える。

「……では、まだ一緒にいても良いんですか?」
「もちろんだよ」

 クロエは僕の返事が嬉しかったのか、思わず僕に抱きついてきた。

「嬉しいです!……あ、ごめんなさいっ、急にこんなことして。気持ち悪いですよね……」

 出来ればレベッカ以外の女性に触れられるのは避けたかったが、こんな状況で否定すればまたクロエは傷ついてしまう。だから拒否はしなかった。
 こうしている間にも、レベッカとの距離はどんどん離れていくのに……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

処理中です...