殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

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分かりました、別れます

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「こ、婚約者様なら、ア、アラン様にもっと親切にしてあげてください!アラン様は繊細なお方なんですぅ。それが出来ないのなら、アラン様とは別れてくださいっ」

 目に大粒の涙を溜めて、侯爵令嬢クロエはレベッカを見据えた。
 地味令嬢と呼ばれているだけあって両目を隠す黒くて長い前髪と猫背が特徴的で、側から見れば私が彼女を呼び出しいじめている様に見えるだろう。
 私、レベッカ・ドルセーヌは公爵家の生まれで、王太子の婚約者を務めている。つり目がちな紫の目とストレートの銀髪はまるで魔女の様だと怖がられることもある。
 だから口を開いたレベッカに、クロエはヒッと身を縮こませた。

「何を言っているのです?貴方の意思で私と殿下が婚約破棄など出来るわけないでしょう」
「わ、わかっています!私みたいな地味で何の取り柄もない様な人間が完璧なレベッカ様に物申すことが、いかに無礼かなんて」
「私は別に貴方が地味だからそう言ったのではありません。常識から考えて無理だと言ったのであって……」
「で、でも本当は私のことよく思ってませんよね?成績も人並みだし見た目に至っては普通以下ですし」

 レベッカはクロエが苦手だった。
 何故ならクロエは自分は地味だ無能だという割に、何の努力もしていないのだ。

「貴方が地味なのは努力をしていないからです。元はとても可愛らしいんですから、前髪をピンで留めて背筋をピンと伸ばせば少しは変わるのでは?」
「で、でも私、お義母様とお義姉様に侍女を付けてもらうことすらさせて貰えなくて」
「……私が言ったことは別に、侍女がいなくても貴方自身がすれば良いと思ったことなのですが」
「でもそんなことしたら、なんて言われるか……」
「学園の中でだけそうしたらどうです?」
「でもそんなの……」

 クロエはレベッカが何か言うたびに震えながら小さく首を振る。口癖は「でも」だ。
 やっぱり言っても無駄だった……とレベッカが一つ溜息を吐いた時。

「クロエここにいたのか!……レベッカも」
「アラン様っ」

 突然現れたアラン様……殿下に驚きもせずクロエはまるで助けが来たかの様な声を上げた。
 殿下は困り顔でスカイブルーの瞳を交互にレベッカとクロエに向ける。

「この状況は……?」

 殿下から見ればクロエは悲しそうな顔をしているのに対してレベッカは不機嫌そうに見えるだろう。
 殿下は訝しげにレベッカを見た。

「まさか君、クロエに……」

 勘違いも甚だしい。
 でも私の婚約者であるはずのこの男は可哀想なものに弱いのだ。

「クロエはただでさえ侯爵家で酷い扱いを受けているのだから、優しくしろと言ったはずだよね、僕」
「私はただクロエさんに呼び出されてここに居るだけです」
「そんな嘘、僕には通用しないよ。じゃあなぜクロエはこんなに震えている?……クロエに謝るんだ。レベッカ」

 優しい口調、でも何処か棘を含む声で、殿下はレベッカを諭した。
 
「……もう良いです」
「え、なに?聞こえないよ」

 耳を澄ました殿下にレベッカは満面の笑みを向けた。

「もう良いです。全て私が悪かったんです」
「レベッカ?」
「貴方さっき、殿下と別れてくださいと言いましたね」

 レベッカの言葉に殿下は目を見開く。

「え?何を言ってるんだ?」
「そ、それはレベッカ様が……」

 慌てて弁解しようとするクロエを遮って、レベッカは告げた。

「分かりました、別れましょう」
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