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番外編 ※妹と結婚式2
しおりを挟む結婚式当日の朝。
やっと、この日が来たわ。
この五日間、もぬけの殻だった実家に寝泊まりしながらこの日を待ち続けた。
食事は辛うじてドレスのポケットに入っていた貨幣を使って買っていた。
パンは硬いしお肉は脂っこい。平民の食事は私の舌には全く合わず辛かったけれど、それも今日で報われるはずだと思って我慢し続けた。
「今日は待ちに待った王太子殿下の結婚式だね」
「調子に乗って大量にパンを作りすぎてしまったよ」
「問題ない問題ない。午後にはパレードがあるし、大通りに売りに出ればすぐに売り切れちまうさ」
「俺たちは祝いに王太子とアラーナ様が生まれた年のワインを買ったぜ」
「そりゃあ良いね、うちらにも分けてくれよ」
「ああ良いぞ。だがパレードが終わってからな」
下町は朝から大層賑わっている。
私は路地を歩きながら祝いの言葉を口に出す平民たちを睨みつけた。
「馬鹿な平民ね。あの女は魔女なのよ」
その言葉に反応して、平民は皆私を振り返った。
「なんだいお前」
「失礼なやつだね」
「嬢ちゃん、どうせ容姿のせいで勝手に決めつけてんだろう?」
「魔女だなんて信じるの、今じゃお堅い貴族様くらいだってのにさ」
理解力のない平民たち。
やっぱり血筋が悪いとオツムの方もゆるくなるのかしら。いやでも、お姉様は血筋が良くても出来損ないだったから関係ないわね。
この人たちもお姉様と同じ。
せっかくだから優しい私が教えてあげる。
「いいえ、あの女に国を任せたらこの国は終わるわ。だって、本当なら私がエリック様……王太子殿下と結婚するはずだったのだもの!」
さあ、未来の王妃にひれ伏しなさい。今なら、汚い言葉遣いも作法も寛大な心で許してあげるから。
そう思って彼らを見ると……。
「ギャハハ!」
「嬢ちゃん、冗談きついね!」
「でも残念なことに、それは妄想だよ」
「嬢ちゃん、ドレスまで着ちゃって着飾っているみたいだけど、現実に戻りな」
「私は王太子妃になる女よ、無礼者!」
ガハハと笑い飛ばされ、私の拳が怒りで震えた。
妄想?何を馬鹿げたことを。
すると一人の男が言った。
「なぁ、もしかしてこの嬢ちゃん……噂のカレン嬢じゃないか?」
「カレン嬢?」
「殿下の元婚約者の公爵令嬢で、砂漠の国の王と駆け落ちして勝手に婚約破棄をしたとかいう」
「あー、確かに。一時、噂になっていたよな。嬢ちゃんは、ドレスも元は高価そうなもの着てるし、もしかしたら……」
「そうよ、私がカレンよ。貴方たちはカレン様と呼びなさい。私は優しいから教えてあげるけれど、あなた達、騙されているわよ」
私の言葉にまた平民たちは笑い出した。
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