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これから

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 王太子様の結婚式が終わってから一ヶ月ほどが経ちますが、お店は以前と変わらず賑やかです。

「なぁ、最近王太子変わったと思わねえか?」
「思う思う。だって税金を減らすなんて、以前だったら絶対口にしなかったよなぁ」
「国王様に直談判したんだろ?国王様もよく認めたなぁ」
「国王様も変わられたんだろ、きっと」

 最近では、王族の評判は鰻登りです。
 新しく王太子妃となったアラーナ様も、その見た目から非難を浴びていたのが、嘘のように支持率が上がっています。
 そもそも、魔女は不吉だ、などという古めかしい風習は最初から捨てるべきだったのでしょう。
 ……アラーナ様、ありがとうございます。
 きっと私が王太子妃になった未来もあったのでしょう。でも今は、私やカレンに代わって、アラーナ様が今は立派に国を治めてくれています。
 彼女には感謝しても仕切れません。彼女のおかげで私はこうして幸せな日々を送ることができているんですから。

「……ステラ、考え事か?」

 気づけばシドさんが隣に立っていました。
 大きな手で優しく私の頭を撫でてくれます。きっと心配してくださったのでしょう。

「ごめんなさい、お仕事中に考え事なんて」
「別に構わない。今日は店を早く閉めて行きたいところがあるからな」
「行きたいところですか?」
「ああ。ステラもそこへ連れて行きたい」

 珍しいです。シドさんがそんなことを言うなんて。

「分かりました。では仕事が終わるまで、きっちり働きますね!」
「頼む」

 それからテキパキと働きます。
 店を閉めると、私は着替えてシドさんの元まで向かいました。

「どこに行くんですか?」
「秘密」

 それだけ言うと、シドさんはトコトコと歩き出しました。でも、あくまで私のペースに合わせてくれます。
 付いたのは、花が綺麗に咲き誇る小さな庭園でした。
 色とりどりのお花の香りを私はすーっと吸い込みます。

「すごく、素敵なところですね。このお花なんか、お店のテーブルに飾ったら彩りが出て良いかもしれません」
「ああ」

 シドさんは目を細めて私の話を聞いてくれます。

「……そういえば、どうしてここに?」

 ふと、疑問に思ったことを尋ねてみました。
 シドさんは何秒かの沈黙の後、ゆっくりと口を開きます。

「……好きだから」
「へっ?」

 私は突然の言葉に思わず声を上げました。

「……喜ぶと思って、連れて来たかった」
「あー、私がお花が好きだからここに連れて来たら喜ぶとら思って、連れて来て下さったんですね」
「……違う」
「では店に飾る花を一緒に選ぶ為に?」
「鈍い」
「え?」
 
 シドさんがなんて言ったか私には分かりませんでした。
 ですが、何だかとても気分が良かったので、私はシドさんに向かって満面の笑みを向けました。
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