22 / 27
※王太子の結婚式
しおりを挟むアラーナとの結婚式の日は思ったよりずっと早く訪れた。王宮内での儀式は済まし、残るはパレードのみとなった。
控室で俺はアラーナと話していた。
「緊張していますか?」
「アラーナこそどうなんだ?」
「まぁ、そうですね。ちょっとはしていますけれど、なんだか実感がなくて」
「そうだよな。本当に突然のことだったから」
俺はアラーナに向き直ってあることを話す。言いづらいことだけれど、結婚する前に言わなければならないと思っていたことだ。
「すまない、アラーナ。俺が不甲斐ないばかりに、君が王太子妃という重荷を担うことになって。それも俺なんかと……。嫌だったら別に離婚し」
「軽々しく、そんなことを仰らないでください」
「アラーナ?」
「私はもう覚悟を決めております。……それに、貴方が謝るべき相手は他にいらっしゃるでしょう?」
「……!」
ステラ。
アラーナの言葉で俺はハッとした。
俺の表情を見てアラーナは笑みを浮かべる。
「ですから、私になど謝る必要はございません。どこかで見てくださっているステラ様にも、これから王太子として立派な務めを果たすという態度で、謝罪を示すべきです」
「ああ」
本当に彼女の言う通りだった。
「さぁ、行きましょう。パレードの時間です」
「ああ」
俺はアラーナに手を差し出す。
そして彼女をエスコートしながら馬車に乗り込んだ。
大通りをゆっくりと馬車が進んでいく。たくさんの国民が俺たちの門出を祝福してくれていた。
そして、パレードも終盤となった頃。
「幸せです!!」
聞き慣れた声が俺の耳に入って来た。
ハッと俺は声のする方を見る。
やっぱり、ステラだった。
ステラは俺には目もくれず、母上を一直線に見つめている。
しかし彼女が母上から視線を外す一瞬だけ、俺は彼女と目が合う。
……済まなかった。
俺は心の中で彼女に深く謝罪をした。
婚約者であるのに蔑ろにしていたこと、彼女の努力を認めなかったこと、カレンを信じたこと……。
今の出来事にボーッとする俺に、横からアラーナが声をかけて来た。
「……ステラ様、お元気そうでしたね」
「ああ、とても幸せそうだった」
彼女を不幸にした俺が言うことではないが、今のステラは以前より何倍もずっと輝いていて綺麗だった。
「……アラーナ」
俺は顔を正面に向けたままアラーナに声をかけた。
「俺は変われるだろうか。俺は婚約者を幸せにするどころか蔑んで不幸へ追いやった男だ」
「変われるかどうかは貴方次第では?……少なくとも、今の貴方は以前とは少し違うように感じられますよ」
「そうか……」
俺は一瞬だけアラーナの方を見た。
彼女は国民に笑顔で手を振っており、俺の方を見ようとはしない。
でもそれで十分だった。
「今度こそ間違えない。俺はアラーナを絶対に幸せにすると決めたからな」
俺の突然の発言に、アラーナはパッとこちらを振り返り、そして始めてくしゃりと笑った。
525
お気に入りに追加
7,830
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです
珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。
令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?
田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。
受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。
妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。
今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。
…そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
それなのに必死になる王太子殿下。
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる