平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ

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※王太子の結婚式

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 アラーナとの結婚式の日は思ったよりずっと早く訪れた。王宮内での儀式は済まし、残るはパレードのみとなった。
 控室で俺はアラーナと話していた。

「緊張していますか?」
「アラーナこそどうなんだ?」
「まぁ、そうですね。ちょっとはしていますけれど、なんだか実感がなくて」
「そうだよな。本当に突然のことだったから」

 俺はアラーナに向き直ってあることを話す。言いづらいことだけれど、結婚する前に言わなければならないと思っていたことだ。

「すまない、アラーナ。俺が不甲斐ないばかりに、君が王太子妃という重荷を担うことになって。それも俺なんかと……。嫌だったら別に離婚し」
「軽々しく、そんなことを仰らないでください」
「アラーナ?」
「私はもう覚悟を決めております。……それに、貴方が謝るべき相手は他にいらっしゃるでしょう?」
「……!」

 ステラ。
 アラーナの言葉で俺はハッとした。
 俺の表情を見てアラーナは笑みを浮かべる。

「ですから、私になど謝る必要はございません。どこかで見てくださっているステラ様にも、これから王太子として立派な務めを果たすという態度で、謝罪を示すべきです」
「ああ」

 本当に彼女の言う通りだった。

「さぁ、行きましょう。パレードの時間です」
「ああ」

 俺はアラーナに手を差し出す。
 そして彼女をエスコートしながら馬車に乗り込んだ。
 大通りをゆっくりと馬車が進んでいく。たくさんの国民が俺たちの門出を祝福してくれていた。
 そして、パレードも終盤となった頃。

「幸せです!!」

 聞き慣れた声が俺の耳に入って来た。
 ハッと俺は声のする方を見る。
 やっぱり、ステラだった。
 ステラは俺には目もくれず、母上を一直線に見つめている。
 しかし彼女が母上から視線を外す一瞬だけ、俺は彼女と目が合う。

 ……済まなかった。

 俺は心の中で彼女に深く謝罪をした。
 婚約者であるのに蔑ろにしていたこと、彼女の努力を認めなかったこと、カレンを信じたこと……。
 今の出来事にボーッとする俺に、横からアラーナが声をかけて来た。

「……ステラ様、お元気そうでしたね」
「ああ、とても幸せそうだった」

 彼女を不幸にした俺が言うことではないが、今のステラは以前より何倍もずっと輝いていて綺麗だった。

「……アラーナ」

 俺は顔を正面に向けたままアラーナに声をかけた。

「俺は変われるだろうか。俺は婚約者を幸せにするどころか蔑んで不幸へ追いやった男だ」
「変われるかどうかは貴方次第では?……少なくとも、今の貴方は以前とは少し違うように感じられますよ」
「そうか……」

 俺は一瞬だけアラーナの方を見た。
 彼女は国民に笑顔で手を振っており、俺の方を見ようとはしない。
 でもそれで十分だった。

「今度こそ間違えない。俺はアラーナを絶対に幸せにすると決めたからな」

 俺の突然の発言に、アラーナはパッとこちらを振り返り、そして始めてくしゃりと笑った。
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