平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ

文字の大きさ
上 下
20 / 27

※王太子の後悔

しおりを挟む

 結婚式の二週間前、最愛のカレンがいなくなったことによって俺は結婚相手を失った。しかし憤る俺に母上がかけて来た言葉はかなりキツいものだった。

「自業自得ね」
「なっ、母上。なぜこの俺がっ」
「ステラを蔑ろにしたあなたが、今度はカレン嬢に蔑ろにされたんだもの」
「……っ!」

 本当にその通りで俺は否定することすら出来なかった。
 ステラが冤罪であることは始めから分かっていた。分かっていて、あえて追放したのだ。なぜなら邪魔だったから。
 思えば、彼女は何も悪いことをしていない。平凡だったのは能力の差のせいだと、後にカレンから聞いたこともある。
 出来もしないのに毎晩必死に机にかじりついて見ていて滑稽だ、と笑いながら話していた。
 その時は一緒に嘲笑していたが、カレンに裏切られた今は違う。
 すまなかった、ステラ……。
 後悔と懺悔。今さらどうすることもできない虚しさが俺を襲う。この言葉が彼女に届くことはもう無いのに。

「やっと、分かったかしら」

 なぜ母上がステラをあんなにも必要にしていたのか、今ならわかる。
 王太子妃になるのに相応しいのは、なんでも完璧にできるがために人の痛みが分からないカレンではなく、平凡だが誰よりも人の痛みを知っているステラだったのだ。
 長い年月をかけようやく反省した俺に向かって母上は声をかける。

「でも安心してちょうだい、結婚式は無事行うから」

 俺は意味が分からず首を傾げる。
 すると母上が「入ってちょうだい」と誰かを手招きした。
 美しい所作で入って来たのは一人の令嬢だった。
 俺の前まで来ると丁寧に腰を折って礼をする。

「お久しぶりでございます、王太子殿下。覚えておいででしょうか?私はラドン公爵家のアラーナ・ラドンと申します」
「ああ、存じておる」
「光栄でございます。王妃様からお話は聞いていると思いますが、これから良き王太子妃となれるよう精進して参ります」

 入って来た時点で少し察知はしていた。
 母上はカレンの代わりに別の結婚相手を用意したのだ。
 確かこの令嬢……アラーナ・ラドンはカレンの次に優秀だった者と聞く。ステラとの婚約が決まる前は、候補としても挙がっていたらしい。
 ストレートの銀髪に赤い目。魔女の様に不吉だと貴族の間では囁かれている令嬢だ。
 その顔はとても整っており美しいが、今もその赤い目で俺のことを見ている。
 きっと以前の俺なら怯えて忌々しいと彼女を罵倒していただろう。しかし今回のことで俺も多くのことを学んだ。そしてその学びのために、多くのものを失った。
 だから今さら怖がる気にも拒絶する気にはならない。俺にはその権利がないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?

横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。 婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。 しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。 ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。 それも妹のリリーによってだった。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

処理中です...