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※王太子の後悔
しおりを挟む結婚式の二週間前、最愛のカレンがいなくなったことによって俺は結婚相手を失った。しかし憤る俺に母上がかけて来た言葉はかなりキツいものだった。
「自業自得ね」
「なっ、母上。なぜこの俺がっ」
「ステラを蔑ろにしたあなたが、今度はカレン嬢に蔑ろにされたんだもの」
「……っ!」
本当にその通りで俺は否定することすら出来なかった。
ステラが冤罪であることは始めから分かっていた。分かっていて、あえて追放したのだ。なぜなら邪魔だったから。
思えば、彼女は何も悪いことをしていない。平凡だったのは能力の差のせいだと、後にカレンから聞いたこともある。
出来もしないのに毎晩必死に机にかじりついて見ていて滑稽だ、と笑いながら話していた。
その時は一緒に嘲笑していたが、カレンに裏切られた今は違う。
すまなかった、ステラ……。
後悔と懺悔。今さらどうすることもできない虚しさが俺を襲う。この言葉が彼女に届くことはもう無いのに。
「やっと、分かったかしら」
なぜ母上がステラをあんなにも必要にしていたのか、今ならわかる。
王太子妃になるのに相応しいのは、なんでも完璧にできるがために人の痛みが分からないカレンではなく、平凡だが誰よりも人の痛みを知っているステラだったのだ。
長い年月をかけようやく反省した俺に向かって母上は声をかける。
「でも安心してちょうだい、結婚式は無事行うから」
俺は意味が分からず首を傾げる。
すると母上が「入ってちょうだい」と誰かを手招きした。
美しい所作で入って来たのは一人の令嬢だった。
俺の前まで来ると丁寧に腰を折って礼をする。
「お久しぶりでございます、王太子殿下。覚えておいででしょうか?私はラドン公爵家のアラーナ・ラドンと申します」
「ああ、存じておる」
「光栄でございます。王妃様からお話は聞いていると思いますが、これから良き王太子妃となれるよう精進して参ります」
入って来た時点で少し察知はしていた。
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その顔はとても整っており美しいが、今もその赤い目で俺のことを見ている。
きっと以前の俺なら怯えて忌々しいと彼女を罵倒していただろう。しかし今回のことで俺も多くのことを学んだ。そしてその学びのために、多くのものを失った。
だから今さら怖がる気にも拒絶する気にはならない。俺にはその権利がないのだから。
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