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感謝
しおりを挟む元両親が訪れた日から何日か経ちましたが、私は変わらずシドさんのお店で働いています。
「ステラちゃん、今日もステーキ!」
「俺も」
「こっちは水をちょうだい」
あれからこの店の悪評が広がることはなく、むしろ今まで以上に店内はお客さんで賑わっています。
お陰で毎日忙しなく働いていますが、これ以上のやりがいはありません。
「ステラちゃん、これうちの畑で取れた野菜!余ったからいっぱい貰っていって」
「わぁ、こんなにいっぱい。ありがとうございます。シドさんに美味しく料理して貰って、明日の特別メニューで出そうかなぁ」
「そいつぁ良い。明日も来ないとだけれど」
「私のとこの卵も持っていっていいよ」
「俺のところの小麦もあるぞ」
「嬉しい!ありがとうございます」
皆さん親切で、何故か以前より頂き物をすることが増えました。お陰でシドさんも私も大喜びで、日替わりメニューを作ろうかなどと話し合っています。
昼過ぎになり、少しずつお客さんが減ってきました。その時、来客を告げるベルが鳴ります。
「いらっしゃいませ……って、皆様、お揃いでどうしたのですか!?」
振り返ると、そこにはかつて私が公爵家にいた時に屋敷に仕えてくれていた兵隊さんたちがいました。
「お久しぶりです、ステラ様」
「お元気そうで何よりです」
ペコペコと頭を下げられて私は動揺してしまいます。
「ちょっ、やめてください。そんなに畏まる必要はないですよ。様なんて付けなくて良いですから!というよりむしろ付けない方がありがたいです」
「た、確かにそうですね」
「じゃあ、ステラちゃん……とか?」
「いや、ステラさんだろ」
「呼び捨ては……」
「「「絶対駄目だ!」」」
店内がまた一気に賑わいます。
ガヤガヤと騒ぐ兵隊さんたちに私は尋ねます。
「あの、それにしてもどうしてここに?」
私の言葉に、それまで騒がしかった店内が一瞬でシーンと静まり返ります。しばらくして兵隊さんの一人が重々しく口を開きました。
「正式に公爵家の取り潰しが決まったんです。今回はそのことの報告でここに」
「そうですか、公爵家が……」
ある程度のことは元両親から話されたので知っていました。しかし、仕事場を失った彼らはもうなるのでしょう。
「皆さん、お仕事は……」
「ありがたいことに王妃様が取り計らって下さっていて、皆新しい仕事は決まっています」
さすが王妃様です。
やはり王妃様は素晴らしいお方です。
「良かったです」
「ええ。それで……あの、もし迷惑でなければ、これから僕たちもこの店に来て良いですか?」
「もちろんです!」
ノーと言うはずがありません。
「よっしゃあ!」
「俺、毎日通っちゃうかも」
「俺も」
「ありがとう、ステラちゃん!」
嬉しそうに騒ぐ兵士さんたちに私は自然と笑顔が溢れていました。
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