平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ

文字の大きさ
上 下
14 / 27

感謝

しおりを挟む

 元両親が訪れた日から何日か経ちましたが、私は変わらずシドさんのお店で働いています。

「ステラちゃん、今日もステーキ!」
「俺も」
「こっちは水をちょうだい」

 あれからこの店の悪評が広がることはなく、むしろ今まで以上に店内はお客さんで賑わっています。
 お陰で毎日忙しなく働いていますが、これ以上のやりがいはありません。

「ステラちゃん、これうちの畑で取れた野菜!余ったからいっぱい貰っていって」
「わぁ、こんなにいっぱい。ありがとうございます。シドさんに美味しく料理して貰って、明日の特別メニューで出そうかなぁ」
「そいつぁ良い。明日も来ないとだけれど」
「私のとこの卵も持っていっていいよ」
「俺のところの小麦もあるぞ」
「嬉しい!ありがとうございます」

 皆さん親切で、何故か以前より頂き物をすることが増えました。お陰でシドさんも私も大喜びで、日替わりメニューを作ろうかなどと話し合っています。


 昼過ぎになり、少しずつお客さんが減ってきました。その時、来客を告げるベルが鳴ります。

「いらっしゃいませ……って、皆様、お揃いでどうしたのですか!?」

 振り返ると、そこにはかつて私が公爵家にいた時に屋敷に仕えてくれていた兵隊さんたちがいました。

「お久しぶりです、ステラ様」
「お元気そうで何よりです」

 ペコペコと頭を下げられて私は動揺してしまいます。

「ちょっ、やめてください。そんなに畏まる必要はないですよ。様なんて付けなくて良いですから!というよりむしろ付けない方がありがたいです」
「た、確かにそうですね」
「じゃあ、ステラちゃん……とか?」
「いや、ステラさんだろ」
「呼び捨ては……」
「「「絶対駄目だ!」」」

 店内がまた一気に賑わいます。
 ガヤガヤと騒ぐ兵隊さんたちに私は尋ねます。

「あの、それにしてもどうしてここに?」

 私の言葉に、それまで騒がしかった店内が一瞬でシーンと静まり返ります。しばらくして兵隊さんの一人が重々しく口を開きました。

「正式に公爵家の取り潰しが決まったんです。今回はそのことの報告でここに」
「そうですか、公爵家が……」

 ある程度のことは元両親から話されたので知っていました。しかし、仕事場を失った彼らはもうなるのでしょう。

「皆さん、お仕事は……」
「ありがたいことに王妃様が取り計らって下さっていて、皆新しい仕事は決まっています」

 さすが王妃様です。
 やはり王妃様は素晴らしいお方です。
 
「良かったです」
「ええ。それで……あの、もし迷惑でなければ、これから僕たちもこの店に来て良いですか?」
「もちろんです!」

 ノーと言うはずがありません。

「よっしゃあ!」
「俺、毎日通っちゃうかも」
「俺も」
「ありがとう、ステラちゃん!」

 嬉しそうに騒ぐ兵士さんたちに私は自然と笑顔が溢れていました。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

幼なじみのとばっちりに巻き込まれ、そんな彼女に婚約者を奪われるまでしつこくされ、家族にも見捨てられた私に何を求めているのでしょう?

珠宮さくら
恋愛
カミーユ・サヴィニーは、幼なじみに婚約者を奪われることになった。 実母はそんなことになった結果だけを見て物凄く怒っていた。そして、勘当でも、修道院にでも行かせようとして、恥を晒した娘なんて、家に置いておけないとばかりに彼女の両親はした。実の兄は我関せずのままだった。 そんなカミーユのことを遠縁が養子にしたいと言い出してくれたことで、実家との縁を切って隣国へと行くことになったのだが、色んなことがありすぎたカミーユは気持ちに疎くなりすぎていたからこそ、幸せを掴むことになるとは思いもしなかった。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

処理中です...