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平民としての幸せ
しおりを挟むあれから二年が経ちました。
私は今日も元気に平民として暮らしています。……が、ここまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。
この身一つで下町に放り出された当初は正直、何かをすれば良いのか、何をすれば正解なのか、全く思いつきませんでした。
しかし以前王妃様に貸していただいた小説に平民の暮らし方が書かれていたものがあったので、それを思い出しながら出来ることをやってみました。
幸い馬車に乗る直前に王妃様が、私のドレスのポケットに宝石をいくつか入れてくださっていたので、まずはそれを売ってお金に換え、平民の衣服を買いました。次にドレスも売ってしまい、手に残ったお金で何とか食事代や宿代を賄って生活することに。
でも、そんな生活は長くは持ちません。日に日にお金は減っていくばかりです。お金を稼ぐために仕事を探すも、常識知らずな私を雇ってくれるところは現れませんでした。そしてあっという間に野宿をする日々に変わりました。それは私が覚悟をしていた以上のツラさです。
ですがそんな私に転機が現れます。きっかけはある男性の一言です。男性は手を私に差し伸べて言ったのです。
「お嬢さん、うちの店で働かないか?」
それは野宿をしていた私にとって、この上ないほど美味しい話でした。もしこの話が嘘で騙されているのだとしても、そういう運命だったのだと受け入れてしまおうと腹を括り、男性へと手を伸ばしました。
幸い彼の言葉は本当で、住み込みで働ける仕事が見つかり、その日から私は彼の店で働き始めました。そして……。
「いらっしゃいませ!」
「やぁ、ステラちゃん。今日も元気いっぱいだね」
「癒やされる~」
「お二人ともお久しぶりです!お席はこちらへどうぞ」
私はやっと、欲しかった幸せを手に入れることが出来ました。
「ありがとう。……あー、それにしてもステラちゃん、随分と成長したねぇ。初めの方の右も左も分からない状態で色々やらかしていた日々が懐かしいよ」
「私は仕事を覚えるのが遅くて……。皆さんにも沢山迷惑かけましたね」
「いやいや、見ていて面白かったし、あれで俺たちも癒やされていたから」
「今はむしろ成長しすぎて寂しいくらい」
この店に来る人は皆優しくて、不器用な私でも長い目でずーっと見守って下さいました。
人の温かさを感じたのは王妃様以来でしたが、今では多くの人が私によく接してくださいます。
「ステラちゃん、ステーキ二つ!」
「畏まりました!」
私が注文を受け取った時、ちょうど店の扉が開き客の来店を告げるベルが鳴りました。
「いらっしゃいま」
「……久しぶりだな、ステラ」
振り返ってみると、そこには縁を切ったはずの両親が私を一直線に見つめていました。
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