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婚約者
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「聞いているのか、ステラ!」
殿下の声に私はハッと我に帰ります。
嫌なことを思い出してしまいました……。
幼少期の辛い記憶。なるべく思い出さないようにしていたことなのに、殿下との会話の途中で思い出すなんて……。
私は慌てて謝ります。
「すみません、聞いていませんでした」
「話もロクに聞けないとはな。本当にお前のようなやつが婚約者だなんて。俺が不憫すぎると思わないか?」
「……申し訳ありません」
殿下、この国の王太子にして私の婚約者であるエリック様は、青い眼で鋭く私のことを鋭く睨み付けました。
そこからは私への嫌悪が読み取れます。理由は単純、私が出来損ないだから。
「お前じゃなくてカレンが良かった」
これが殿下の口癖です。美しく賢明な妹に殿下は心底惚れ込んでいて、今日私の屋敷に訪ねて来たのも、私に会いにきたのではなく妹に会うためです。
しかし生憎今、妹は出かけており、彼女が帰ってくるまで間「仕方ないから相手にしてやる」と殿下に言われて、一緒にお茶をしているところです。
……正直、私も殿下が苦手です。
紅茶を淹れれば「普通。強いていうならまずい。使用人の淹れる紅茶の方がまだマシだ」と一喝され、その後はひたすら私への侮辱と妹への賛美を対比して聞かされる。気が遠くなり、私もつい昔のことなんか思い出してしまいました。
「ほんとに、なんでお前が先に生まれたんだろうな。カレンが先に生まれていれば、俺は彼女と婚約出来たのに……」
でもエリック様に同情もします。だって自分で言うのも虚しいですけれど、秀でているものがないただの凡人の私と、容姿、学力、作法、全てにおいて秀でている妹を比べたら、そりゃあ妹の方が断然良いに決まってますから。
だから否定はしないのです。
「それにしてもカレンはまだ戻らないのか?そろそろ戻ってきてもーー」
「エリック様っ!」
暗い雰囲気の客室に、突如明るい声が響き渡りました。
妹です。サラサラの金髪と緑の瞳をキラキラさせて殿下の元へと小走りで近づきます。殿下もそれに合わせてソファから立ち上がりました。
「カレン!会いたかったぞ!!」
「私もです、エリック様!!従者から殿下がいらしたっていう声を聞いて、急いで帰って来たんです!」
「そうかそうか。ほんと、お前は健気で可愛いなぁ」
殿下は先ほどまでとは打って変わり、声を高くして優しい口調で妹の頭を撫でました。
「殿下、お待たせしてしまったようで……」
「ディゼン公爵、こちらこそ悪かったな、急に押しかけて」
「とんでもございません」
少し遅れてディゼン公爵ーーお父様が部屋に入ります。
「妻はまだ買い物を続けたいとのことでしたので、今日は私だけですが」
「構わん構わん。俺はカレンに会えれば良いんだからな。公爵夫人に宜しく伝えておいてくれ」
「ありがたきお言葉。ーーところで殿下、何かご不満はありませんでしたか。突然の来訪にこちらも準備不足で……何せ安心して殿下を任せられる者が一人もいないものですから」
チラッとお父様は私を見ました。私はあえて目を合わせないように窓の外を見ます。
「確かに不満はあった。しかしカレンに免じて今回は見逃してやろう」
「ありがとうございます!!さ、さっ、カレン、殿下に紅茶を淹れて差し上げろ」
「わかったわお父様。ちょっと緊張するけど、頑張って淹れるわ!」
「殿下、カレンの淹れるお茶は評判が良いんです」
「もう、お父様!そうやってハードルあげないでよ!」
「ははっ、それは楽しみだなぁ!是非とも飲んでみたい」
仲良く会話をする3人。
その中でお父様は言葉ではなく目で、私に「退出しろ」と合図をして来ました。
ーー御役目ごめんというところでしょうか。まぁ、ここにいても居たたまれないですしね。それにこんな状況になることは珍しくありませんから、殿下も妹も退出する私に気づいたところで無関心でしょうし……。
ーーさっさと出ましょう。
私はそそくさとソファから腰を浮かし、静かにその場から立ち去りました。
殿下の声に私はハッと我に帰ります。
嫌なことを思い出してしまいました……。
幼少期の辛い記憶。なるべく思い出さないようにしていたことなのに、殿下との会話の途中で思い出すなんて……。
私は慌てて謝ります。
「すみません、聞いていませんでした」
「話もロクに聞けないとはな。本当にお前のようなやつが婚約者だなんて。俺が不憫すぎると思わないか?」
「……申し訳ありません」
殿下、この国の王太子にして私の婚約者であるエリック様は、青い眼で鋭く私のことを鋭く睨み付けました。
そこからは私への嫌悪が読み取れます。理由は単純、私が出来損ないだから。
「お前じゃなくてカレンが良かった」
これが殿下の口癖です。美しく賢明な妹に殿下は心底惚れ込んでいて、今日私の屋敷に訪ねて来たのも、私に会いにきたのではなく妹に会うためです。
しかし生憎今、妹は出かけており、彼女が帰ってくるまで間「仕方ないから相手にしてやる」と殿下に言われて、一緒にお茶をしているところです。
……正直、私も殿下が苦手です。
紅茶を淹れれば「普通。強いていうならまずい。使用人の淹れる紅茶の方がまだマシだ」と一喝され、その後はひたすら私への侮辱と妹への賛美を対比して聞かされる。気が遠くなり、私もつい昔のことなんか思い出してしまいました。
「ほんとに、なんでお前が先に生まれたんだろうな。カレンが先に生まれていれば、俺は彼女と婚約出来たのに……」
でもエリック様に同情もします。だって自分で言うのも虚しいですけれど、秀でているものがないただの凡人の私と、容姿、学力、作法、全てにおいて秀でている妹を比べたら、そりゃあ妹の方が断然良いに決まってますから。
だから否定はしないのです。
「それにしてもカレンはまだ戻らないのか?そろそろ戻ってきてもーー」
「エリック様っ!」
暗い雰囲気の客室に、突如明るい声が響き渡りました。
妹です。サラサラの金髪と緑の瞳をキラキラさせて殿下の元へと小走りで近づきます。殿下もそれに合わせてソファから立ち上がりました。
「カレン!会いたかったぞ!!」
「私もです、エリック様!!従者から殿下がいらしたっていう声を聞いて、急いで帰って来たんです!」
「そうかそうか。ほんと、お前は健気で可愛いなぁ」
殿下は先ほどまでとは打って変わり、声を高くして優しい口調で妹の頭を撫でました。
「殿下、お待たせしてしまったようで……」
「ディゼン公爵、こちらこそ悪かったな、急に押しかけて」
「とんでもございません」
少し遅れてディゼン公爵ーーお父様が部屋に入ります。
「妻はまだ買い物を続けたいとのことでしたので、今日は私だけですが」
「構わん構わん。俺はカレンに会えれば良いんだからな。公爵夫人に宜しく伝えておいてくれ」
「ありがたきお言葉。ーーところで殿下、何かご不満はありませんでしたか。突然の来訪にこちらも準備不足で……何せ安心して殿下を任せられる者が一人もいないものですから」
チラッとお父様は私を見ました。私はあえて目を合わせないように窓の外を見ます。
「確かに不満はあった。しかしカレンに免じて今回は見逃してやろう」
「ありがとうございます!!さ、さっ、カレン、殿下に紅茶を淹れて差し上げろ」
「わかったわお父様。ちょっと緊張するけど、頑張って淹れるわ!」
「殿下、カレンの淹れるお茶は評判が良いんです」
「もう、お父様!そうやってハードルあげないでよ!」
「ははっ、それは楽しみだなぁ!是非とも飲んでみたい」
仲良く会話をする3人。
その中でお父様は言葉ではなく目で、私に「退出しろ」と合図をして来ました。
ーー御役目ごめんというところでしょうか。まぁ、ここにいても居たたまれないですしね。それにこんな状況になることは珍しくありませんから、殿下も妹も退出する私に気づいたところで無関心でしょうし……。
ーーさっさと出ましょう。
私はそそくさとソファから腰を浮かし、静かにその場から立ち去りました。
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