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記憶
しおりを挟む「お前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
私が七歳の時、お父様はそう言いました。
今まで構われることはほとんどなく最低限の業務連絡しかしてこなかったお父様の初めてのお呼び出しに、嬉しさと緊張を覚えていたのに、お父様の放ったその言葉は、グサリと私の胸に糸も簡単に深く突き刺さりました。
「カレンは体が弱いのにも関わらず、勉学も裁縫も家庭教師からお褒めの言葉を頂いている。まだダンスを踊ることは厳しいが、ダンスくらい出来なくたって他がこの出来ならそれほど問題はない。……それに比べて」
その当時、やっと体調が安定しつつあった妹のカレンが、教育を受け始めたところでした。一緒にレッスンを受けることもあった私は、カレンの習得の速さにとても驚きました。
私もあのくらい習得が早ければ良かったのに。
どんどんカレンに追い抜かれていってしまうことが悲しくて、寝る時間を削って勉強することもありました。
「聞いているのか」
お父様が私を見下ろしました。その目は冷たくて、そんな目をされることが悲しくて、鼻がツーンとしてしまったのを今でも覚えています。
きっとこれから怒られるのだと一瞬で悟りました。
「お前は褒めの言葉を頂くどころか成長が遅いと言われる始末だ。カレンと違って体も丈夫なはずなのに、きっと怠けているからだろう」
「……ごめんなさい」
「全くだ。お前を王太子の婚約者にしてしまった自分を呪いたい。よほどカレンの方がふさわしいではないか」
自分が両親に愛されていないことはわかっていました。
カレンの世話が大変だとしても、私への扱いがあまりにも無下だったのです。
でも幼き日の自分はそのことを無意識に認めまいと、これは私が成長できるように敢えて厳しくしてくれているのだと、無理矢理思い込んでいたのです。
「はぁ、これ以上私をがっかりさせるな。分かったならさっさと出て行け。私はカレンに渡すものがあるからな」
お父様の右手には小さな箱がありました。お父様はそれを愛おしそうに眺めています。きっと彼女が欲しがっていた宝石でも手に入れたのでしょう。
「……はい、お父様」
私は小さくお辞儀をしてその場を立ち去りました。
部屋に戻りしばらく経つとやがて聞こえてきたのは楽しそうな笑い声。
窓の方をそっと向くと、庭園で妹が父親に抱かれながらお花を積んでいる姿が目に映りました。隣でお母様がお花の入った籠を持っています。
あそこに自分も入れたら……。
でも、私と目が合った途端お父様とお母様の視線が鋭くなったのをみて、私は思ったのです。
私が彼らに愛される人など来ないのだと。
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