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厨房の人々
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「何です?」
「お話が一つ」
料理長の言葉に張り詰めた空気が流れる。
「我々の雇い主は伯爵様です。ですので、我々は今まで伯爵家の複雑な家庭環境について触れず、伯爵様が嫌っておられるエミーヌ様にも極力関わらないようにしてきました」
エミーヌに味方すると、おそらく自分は職を失う。
それは正しい見解だと思う。
「伯爵家の屋敷では、ヴィヴィ様とベルチェ様のお二人が大変好かれております。対してエミーヌ様は、お二人を平民だと蔑む酷いお方だと失礼ながら噂では流れております」
「知ってるわ」
「でも私めの目から見ると、やはり真実は違うのです。それは我々が作る料理を召し上がる姿を見れば一目瞭然です。ヴィヴィ様やベルチェ様は料理を出すと何故かいつも何かを残します。それを問うと「やっぱり平民上がりの私には、貴族の食べる食事は合わない」などと言うだけ。ですがエミーヌ様は嫌いなものですら残したことがなく、いつも完食して下さっていましたよね」
「えぇ、食べ物を粗末にすることは嫌いなの。頂いた命は誠意を持って完食すべきだと教わりましたもの」
「我々はこの違いを見て、今の現状にどうしても違和感を抱いてしまっていたのです」
つまり、ヴィヴィの義母の本性に気づいていたということだろう。
気づけば料理長の隣にズラリと厨房の人々が並ぶ。
「……エミーヌ様、いえお嬢様、今までの態度をどうかお許しください。本当に申し訳ございませんでした」
一斉に頭を下げられエミーヌは慌てるが、冷静さを取り戻して言った。
「どうか皆さん顔を上げて。その言葉が聞けただけで嬉しいわ」
「お嬢様……」
「でも、これからも私を無視してちょうだい」
「何故……」
「この屋敷に味方がいるって分かっただけで十分なのよ。それに貴方たちがいなくなる方が嫌」
「……っ!」
「だからお父様なんかに目をつけられないようにね。貴方たちの作る料理、楽しみにしているわ」
きっと毎日食事をするたびに皆の顔が浮かぶのだろう。その度に、彼らの存在を思い出すことができる。
なんて有意義な時間。
エミーヌは深く頭を下げ続ける料理長達に見送られ、自室へと戻っていった。
自室に着くと父はもう出ていったらしく、部屋は静寂に包まれていた。
何故か外にいた侍女がたどたどしく怪しい雰囲気を感じたが、エミーヌは気にせずそのままベッドに横になった。
頬を冷やしたまま眠るのは体勢が変になってかなり厳しかったが、それでもなんとか眠りにつくことができた。
朝……眠いわ。
エミーヌはいつものように早朝に目を開けた。
背伸びをして起きあがる。
いつものように身支度をして、朝食を食べに行こうと部屋の扉に手をかけて、あることに気づく。
「えっ、何これ、開かないじゃないっ!」
どうやらエミーヌは部屋に閉じ込められたらしい。
「お話が一つ」
料理長の言葉に張り詰めた空気が流れる。
「我々の雇い主は伯爵様です。ですので、我々は今まで伯爵家の複雑な家庭環境について触れず、伯爵様が嫌っておられるエミーヌ様にも極力関わらないようにしてきました」
エミーヌに味方すると、おそらく自分は職を失う。
それは正しい見解だと思う。
「伯爵家の屋敷では、ヴィヴィ様とベルチェ様のお二人が大変好かれております。対してエミーヌ様は、お二人を平民だと蔑む酷いお方だと失礼ながら噂では流れております」
「知ってるわ」
「でも私めの目から見ると、やはり真実は違うのです。それは我々が作る料理を召し上がる姿を見れば一目瞭然です。ヴィヴィ様やベルチェ様は料理を出すと何故かいつも何かを残します。それを問うと「やっぱり平民上がりの私には、貴族の食べる食事は合わない」などと言うだけ。ですがエミーヌ様は嫌いなものですら残したことがなく、いつも完食して下さっていましたよね」
「えぇ、食べ物を粗末にすることは嫌いなの。頂いた命は誠意を持って完食すべきだと教わりましたもの」
「我々はこの違いを見て、今の現状にどうしても違和感を抱いてしまっていたのです」
つまり、ヴィヴィの義母の本性に気づいていたということだろう。
気づけば料理長の隣にズラリと厨房の人々が並ぶ。
「……エミーヌ様、いえお嬢様、今までの態度をどうかお許しください。本当に申し訳ございませんでした」
一斉に頭を下げられエミーヌは慌てるが、冷静さを取り戻して言った。
「どうか皆さん顔を上げて。その言葉が聞けただけで嬉しいわ」
「お嬢様……」
「でも、これからも私を無視してちょうだい」
「何故……」
「この屋敷に味方がいるって分かっただけで十分なのよ。それに貴方たちがいなくなる方が嫌」
「……っ!」
「だからお父様なんかに目をつけられないようにね。貴方たちの作る料理、楽しみにしているわ」
きっと毎日食事をするたびに皆の顔が浮かぶのだろう。その度に、彼らの存在を思い出すことができる。
なんて有意義な時間。
エミーヌは深く頭を下げ続ける料理長達に見送られ、自室へと戻っていった。
自室に着くと父はもう出ていったらしく、部屋は静寂に包まれていた。
何故か外にいた侍女がたどたどしく怪しい雰囲気を感じたが、エミーヌは気にせずそのままベッドに横になった。
頬を冷やしたまま眠るのは体勢が変になってかなり厳しかったが、それでもなんとか眠りにつくことができた。
朝……眠いわ。
エミーヌはいつものように早朝に目を開けた。
背伸びをして起きあがる。
いつものように身支度をして、朝食を食べに行こうと部屋の扉に手をかけて、あることに気づく。
「えっ、何これ、開かないじゃないっ!」
どうやらエミーヌは部屋に閉じ込められたらしい。
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