元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ

文字の大きさ
上 下
6 / 19

入学式

しおりを挟む
「なに今の……」

 去っていくヴィヴィの背中を嫌そうに見ながら、ロバートは吐き捨てるようにそう言った。
 エミーヌは怒らないでとロバートの背中をさする。

「いつものことよ」
「ミーちゃんから話は聞いていたけれど、実際目にするとこんなにも不快なものなんだね」
「慣れたらそうでもなくなるわよ」
「どうしてそこまでミーちゃんを悪者にしたいのかな」
「私が気に食わない存在なのは確かよね」
「分かった。ミーちゃんが魅力的なところばっかりあるからだ」
「……!」

 ロバートはたまに、スルリととんでもないことを言ってのける。
 エミーヌは突然の言葉に目を丸くした。

「そんな訳ないわよ。お父様からの愛だって私は持っていないし、美しさもあの子の方が勝ってるわ」
「ミーちゃんは自分を下に見過ぎ。もうちょっと自信持ってくれない?……まぁ、この天然さが好きなんだけども」
「それよりも、そろそろ入学式が始まる時間じゃないかしら。皆集まってるわよ。早く行きましょう」
「そうだね」

 ロバートといるとエミーヌはよく喋り笑った。本来、こちらがエミーヌの本当の姿だ。
 絶対に、誰にも教えてあげない。
 僕の特権だから。そう思いながらロバートは彼女の背中を追いかけた。




 入学式が始まると早速、新入生代表の言葉に選ばれたヴィヴィが壇上に上がった。
 入試試験で一位を取ったヴィヴィが前に酷く父に褒められているところを、そういえば見かけたなとエミーヌはぼんやりと思い出す。
 ちなみに去年はロバートがこの挨拶をした。普段はヘラヘラ笑っていて優秀さを感じさせないのに、代表の挨拶をすると聞いた時はかなり驚いたものだ。
 でも考えてみれば確かにロバートは頭の回転が速いし、なんでもそつなくこなしてしまうところがある。考えられないことはなかった。

 ヴィヴィはと言えばこの子も天才タイプで、あまり勉強しているところを見たところがない。エミーヌが何時間もかける問題を、ヴィヴィはいとも簡単に解いたりする。
 だからヴィヴィがスピーチをすると聞いても、エミーヌはそんなに驚かなかった。
 ヴィヴィは緊張を感じさせない爽やかな表情で挨拶を進めていく。
 その可愛らしい声と冷静さに皆が感心する。
 先程の騒動が嘘かのように思わせる素晴らしいスピーチに、ヴィヴィに対する好感度は高くなっていた。

「結構悪い子じゃないかも」
「ていうか、かなり可愛い」

 なんて声がちらほらと聞こえてくるが、中にはヴィヴィのことをよく思わない者もいる。
 このパルカード王国の第二王子であるエドモンや、彼の友人である数人の令息だ。
 特にエドモンはプライドが高く、負けなど知らなかったので、この結果に満足していないようだった。

 面倒なことにならなければ良いけれど……とエミーヌはヴィヴィと彼らを見ながら思った。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

【完結】婚約破棄? 正気ですか?

ハリネズミ
恋愛
「すまない。ヘレンの事を好きになってしまったんだ。」 「お姉様ならわかってくれますよね?」    侯爵令嬢、イザベル=ステュアートは家族で参加したパーティで突如婚約者の王子に告げられた婚約破棄の言葉に絶句した。    甘やかされて育った妹とは対称的に幼い頃から王子に相応しい淑女に、と厳しい教育を施され、母親の思うように動かなければ罵倒され、手をあげられるような生活にもきっと家族のために、と耐えてきた。  いつの間にか表情を失って、『氷結令嬢』と呼ばれるようになっても。  それなのに、平然と婚約者を奪う妹とそれをさも当然のように扱う家族、悪びれない王子にイザベルは怒りを通り越して呆れてしまった。 「婚約破棄?  正気ですか?」  そんな言葉も虚しく、家族はイザベルの言葉を気にかけない。  しかも、家族は勝手に代わりの縁談まで用意したという。それも『氷の公爵』と呼ばれ、社交の場にも顔を出さないような相手と。 「は? なんでそんな相手と? お飾りの婚約者でいい? そうですかわかりました。もう知りませんからね」  もう家族のことなんか気にしない! 私は好きに幸せに生きるんだ!  って……あれ? 氷の公爵の様子が……?  ※ゆるふわ設定です。主人公は吹っ切れたので婚約解消以降は背景の割にポジティブです。  ※元婚約者と家族の元から離れて主人公が新しい婚約者と幸せに暮らすお話です!  ※一旦完結しました! これからはちょこちょこ番外編をあげていきます!  ※ホットランキング94位ありがとうございます!  ※ホットランキング15位ありがとうございます!  ※第二章完結致しました! 番外編数話を投稿した後、本当にお終いにしようと思ってます!  ※感想でご指摘頂いたため、ネタバレ防止の観点から登場人物紹介を1番最後にしました!   ※完結致しました!

とある侯爵令息の婚約と結婚

ふじよし
恋愛
 ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。  今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです

麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。 母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。 「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。 このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。 弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した―― 全3話

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...