元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ

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婚約者

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 エミーヌはあの場を退散すると自室に戻り学園用の鞄を手に取った。
 鏡の前で軽く髪の毛を整え身だしなみをチェックする。
 それが済むと屋敷を出て馬車へと乗り込んだ。

「ま、待ってください、お姉様!」

 突如後ろから声をかけられ振り向くと、慌ててこちらへ向かってくるヴィヴィの姿がエミーヌの目に映った。
 ヴィヴィは馬車に駆け込んでくると、はぁはぁと息を整える。
 その後ろから父と義母がゆったりと歩いて来る。こちらまで来ると、馬車に乗り込んで口を開いた。

「ヴィヴィを置いていくつもりだったか」
「いえ、てっきり別の馬車に乗るものなのかと……」

 厳しい父の声にエミーヌは驚く。なぜならエミーヌは今まで一度も彼らと同じ馬車に乗ったことがなかったからだ。
 彼らが出かける時エミーヌはいつも留守番を任されていた。
 だから「置いていく」などという考えが、いつも置いていかれる側のエミーヌには無かったのだ。
 それでもエミーヌの返答に父は不機嫌そうにエミーヌを睨んだ。

「今日はヴィヴィの入学式だ。義妹を少しでも祝おうという気持ちはないのか」

 ないのかと問われれば「ない」というのがエミーヌの答えだ。
 私の入学式には来なかったくせに、何が義妹を祝う心はないのか、よ。
 笑みを貼り付けたままエミーヌは心の中で毒づいた。

「これから学園への登下校は、お前と同じ馬車にヴィヴィを乗せる。死ぬ気でヴィヴィを守れ」
「もうお父様。そんな怖いこと言わないの。……でもお姉様、これからよろしくお願いしますね?」
「ヴィヴィを宜しくね、エミーヌちゃん」

 全力で拒否したかった。
 でも従わなければ面倒なことになると分かりきっているので、エミーヌは泣く泣く引き受けた。気分は最悪だった。
 馬車の中は、いつもよりさらに近い状態で三人の会話が聞こえて来た。耳を傾けるのも嫌だと思ったエミーヌは、ずっと窓の外に見える気の本数を数えることに専念していた。



 学園に着くとエミーヌはロバートを探した。早く家族から解放されたい気持ちとロバートに会いたい気持ちが合わさる。ロバートはすぐに見つかった。

「ミーちゃん!」

 大きくこちらに手を振って駆け寄ってくるロバートの姿を捉え、エミーヌは無意識に笑みをこぼした。
 こちらも大きく手をふり返す。
 ちなみに何故エミーヌなのにミーちゃんなのかと言うと、ロバートだけが呼べる愛称を探した結果こうなったかららしい。

「久しぶり」
「ええ、春休みは会えなかったものね」
「僕の都合がなかなか合わなくて……ごめんね」
「良いのよ、気を遣わなくて」
「ミーちゃんは相変わらず優しいなぁ」

 ロバートは少し会っていない間にまた背が伸びたようだった。
 遅めに成長期が来た彼は学園に入った十六歳くらいから徐々に背が伸び始め、この一年でかなりの高身長にまでなっているが、まだまだ背は伸び続けるようだ。
 爽やかな茶髪緑目。幼かった顔つきは凛々しさを増して、この一年でいっきに大人の男性になっている。

 相変わらず格好良いわぁ。でもこれで意外と甘えん坊なところがまたツボなのよねぇ。

 呑気なことを考えていたエミーヌは、ヴィヴィがロバートを凝視していることに気づかなかった。
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