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違和感
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新しい家族が来てから父は頻繁に屋敷へ帰ってくるようになった。
それもそうだ。今まで帰ってこない時は彼女たちの家へ行っていたのだから。父親にとって帰るべき場所は彼女たちのいる場所に定まっている。
そもそも父は政略結婚であった元妻との間に生まれたエミーヌのことを愛していない。
だからなるべく父が帰って来た時は顔を合わせないようにしていた。
別に嫌ってはいない。母の葬式の時も涙一つ溢さず淡々としていた時は少し恨んだけれど。
だってお母様の方はお父様を愛していた……。
政略結婚とはいえ、父を愛していた母はいつも父が帰ってこないことを嘆いていた。
嘆く母にエミーヌが寄り添うたび、彼女は「あなたじゃない」と呟く。
エミーヌはそのことがショックだったけれど、やっぱり自分を育ててくれた母のことが大好きだった。
このこともあり父が義母たちといるところを見ると、お母様のことを思い出して胸が少し痛むのだ。
でも別に義母たちのことは避けていなかった。
向こうもエミーヌに対して好意的だったし、特にヴィヴィなんかは花冠をプレゼントし合う仲になるほどまで仲良くなった。
だからエミーヌは気付くのが遅くなってしまった。少しずつ少しずつ何かがおかしくなっていくことに……。
初めに違和感を覚えたのはヴィヴィを部屋に招待したとき。出会ってからニ年が経過した頃のこと。
その時ヴィヴィは机の下に設置された引き出しの中から、エミーヌのお母様の形見のイヤリングを見つけだした。
「これ素敵」
「ええ、私のお母様の形見なの」
「良いなぁ。それ私も欲しい」
ヴィヴィはイヤリングを欲しがった。
いつもなら思い入れのないものだからと、ヴィヴィに欲しいと言われた物は全てあげていたが、これは流石にそうはいかなかった。
エミーヌがイヤリングだけは絶対にあげられないことを伝えると、ヴィヴィは泣きそうな顔になった。
「イヤリングがダメなのは、平民の私が汚いからダメなの?私ももう貴族なのに」
返ってきた言葉は予想だにしていなかったものだ。エミーヌが何度否定するもヴィヴィは考えを変えない。
「本当は私に物をプレゼントするの、今まで嫌だったんでしょう?ごめんなさい。もう迷惑をかけるようなことはしないから」
ヴィヴィの嘆く声は、外に控えていた侍女たちの耳まで届いていた。
次に違和感を感じたのは義母と屋敷の庭園で紅茶を飲んでいた時のこと。
エミーヌはそれまで義母のことをベルチェ様と呼んでいた。しかしそろそろ頃合いかとタイミングを見計らって、お義母様と呼んでみたのだ。
言ってしまった……恥ずかしい、何だか緊張する。
エミーヌは恥ずかしくなってモジモジしながら下を向いた。しかし思い切って顔を上げると、そこには酷く嫌そうな顔をした義母がいた。ドクンと心臓が波打ち冷や汗が出る。彼女の表情は完全にエミーヌを拒絶していた。
それ以来、エミーヌが義母のことをお義母様と呼ぶことはなくなった。
それもそうだ。今まで帰ってこない時は彼女たちの家へ行っていたのだから。父親にとって帰るべき場所は彼女たちのいる場所に定まっている。
そもそも父は政略結婚であった元妻との間に生まれたエミーヌのことを愛していない。
だからなるべく父が帰って来た時は顔を合わせないようにしていた。
別に嫌ってはいない。母の葬式の時も涙一つ溢さず淡々としていた時は少し恨んだけれど。
だってお母様の方はお父様を愛していた……。
政略結婚とはいえ、父を愛していた母はいつも父が帰ってこないことを嘆いていた。
嘆く母にエミーヌが寄り添うたび、彼女は「あなたじゃない」と呟く。
エミーヌはそのことがショックだったけれど、やっぱり自分を育ててくれた母のことが大好きだった。
このこともあり父が義母たちといるところを見ると、お母様のことを思い出して胸が少し痛むのだ。
でも別に義母たちのことは避けていなかった。
向こうもエミーヌに対して好意的だったし、特にヴィヴィなんかは花冠をプレゼントし合う仲になるほどまで仲良くなった。
だからエミーヌは気付くのが遅くなってしまった。少しずつ少しずつ何かがおかしくなっていくことに……。
初めに違和感を覚えたのはヴィヴィを部屋に招待したとき。出会ってからニ年が経過した頃のこと。
その時ヴィヴィは机の下に設置された引き出しの中から、エミーヌのお母様の形見のイヤリングを見つけだした。
「これ素敵」
「ええ、私のお母様の形見なの」
「良いなぁ。それ私も欲しい」
ヴィヴィはイヤリングを欲しがった。
いつもなら思い入れのないものだからと、ヴィヴィに欲しいと言われた物は全てあげていたが、これは流石にそうはいかなかった。
エミーヌがイヤリングだけは絶対にあげられないことを伝えると、ヴィヴィは泣きそうな顔になった。
「イヤリングがダメなのは、平民の私が汚いからダメなの?私ももう貴族なのに」
返ってきた言葉は予想だにしていなかったものだ。エミーヌが何度否定するもヴィヴィは考えを変えない。
「本当は私に物をプレゼントするの、今まで嫌だったんでしょう?ごめんなさい。もう迷惑をかけるようなことはしないから」
ヴィヴィの嘆く声は、外に控えていた侍女たちの耳まで届いていた。
次に違和感を感じたのは義母と屋敷の庭園で紅茶を飲んでいた時のこと。
エミーヌはそれまで義母のことをベルチェ様と呼んでいた。しかしそろそろ頃合いかとタイミングを見計らって、お義母様と呼んでみたのだ。
言ってしまった……恥ずかしい、何だか緊張する。
エミーヌは恥ずかしくなってモジモジしながら下を向いた。しかし思い切って顔を上げると、そこには酷く嫌そうな顔をした義母がいた。ドクンと心臓が波打ち冷や汗が出る。彼女の表情は完全にエミーヌを拒絶していた。
それ以来、エミーヌが義母のことをお義母様と呼ぶことはなくなった。
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