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十二話
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王子がここに来た訳が分かったところで、私はこの場を去ろうと決める。
これ以上ここにいてもすることはないし、最後にお菓子も作れたし。
私は家出鞄を抱えたまま立ち上がった。
「では殿下、私はこの辺で。これ以上殿下のお手を煩わせるわけにもいけませんし」
「待て、どこに行くつもりだ」
「とりあえず宿など寝泊まりできるところに」
嘘だ。本当はあの頃働いていたのと同じパン屋で住み込みで働くことが決まっている。店主のギルバートさんとその奥さんのシーラさんは娘が出来たみたいで嬉しいと喜んでくれた。
……私も嬉しい。
長い間お世話になりっぱなしだった人たちだ。これから少しずつ恩を返していきたいと思っている。
笑顔を貼り付けた私に、王子は真顔を向けてきた。
「行くところがないなら、俺のところに来ればよい」
「なっ、なんでお姉様がっ」
王子の爆弾発言にミリィが思わず声を上げる。驚いたのは私も同じだ。
俺のところって王宮でしょ!?絶対に行きたくない。私は下町で平民として幸せに生きるって決めたんだから。
貴族の生活からさっさと解放されて自由になりたいのが本音だ。
前世からしてみれば、この世界はやっぱりちょっと堅苦しい。
「い、いえいえ、滅相もございません!ご心配なく!」
「だが……」
「お姉様の言う通りです!お姉様はもう平民になった身です。そんな人を王宮に連れていけば、殿下が批判を喰らってしまいます!」
私は殿下のことを心配して言っているんですよ、とばかりの妹の力説に私は頷く。
……妹よ、今回ばかりは同意する。
良いよ、その意気で王子を説得してくれ。
「お姉様が王宮になど行ってしまったらきっと……」
ウルウルとミリィの目に貯まる涙。
相変わらず宝石のように美しいそれも、王子には効かない。
「さっきから気になっていたが、俺は別に王宮に来いと言っているわけではない。俺の公爵家の屋敷に来いと言っているのだ」
王子……シリウス王子は確かに公爵の位を持っていた。彼の兄……つまり第一王子殿下が王太子として即位されてから、彼も公爵の身となったそうで、きっとその時に屋敷を与えられたのだろう。でも……。
「いえいえ大丈夫です」
「……そうか?」
「それより私、ミリィたちに言いたいことが」
そうだ、最後に一言くらい言わせてもらおう。もう会うこともなくなるし、ちょっとくらいなら許されるだろう。
ミリィが泣き止み、王子が静かになったところで、私は口を開く。
「では最後に。ミリィもカーシスも、幸せになりたいって思う気持ちはわかるけれど、これからは節度を守りなさいね。こんな阿呆らしい茶番に付き合えるの、私くらいしかいないですよ」
二人を見れば、口をポカンと開けて呆然としている。
両親には別に言いたいこともない。
今だ時が止まったように動かない彼らを置いて、私は部屋を去った。
これ以上ここにいてもすることはないし、最後にお菓子も作れたし。
私は家出鞄を抱えたまま立ち上がった。
「では殿下、私はこの辺で。これ以上殿下のお手を煩わせるわけにもいけませんし」
「待て、どこに行くつもりだ」
「とりあえず宿など寝泊まりできるところに」
嘘だ。本当はあの頃働いていたのと同じパン屋で住み込みで働くことが決まっている。店主のギルバートさんとその奥さんのシーラさんは娘が出来たみたいで嬉しいと喜んでくれた。
……私も嬉しい。
長い間お世話になりっぱなしだった人たちだ。これから少しずつ恩を返していきたいと思っている。
笑顔を貼り付けた私に、王子は真顔を向けてきた。
「行くところがないなら、俺のところに来ればよい」
「なっ、なんでお姉様がっ」
王子の爆弾発言にミリィが思わず声を上げる。驚いたのは私も同じだ。
俺のところって王宮でしょ!?絶対に行きたくない。私は下町で平民として幸せに生きるって決めたんだから。
貴族の生活からさっさと解放されて自由になりたいのが本音だ。
前世からしてみれば、この世界はやっぱりちょっと堅苦しい。
「い、いえいえ、滅相もございません!ご心配なく!」
「だが……」
「お姉様の言う通りです!お姉様はもう平民になった身です。そんな人を王宮に連れていけば、殿下が批判を喰らってしまいます!」
私は殿下のことを心配して言っているんですよ、とばかりの妹の力説に私は頷く。
……妹よ、今回ばかりは同意する。
良いよ、その意気で王子を説得してくれ。
「お姉様が王宮になど行ってしまったらきっと……」
ウルウルとミリィの目に貯まる涙。
相変わらず宝石のように美しいそれも、王子には効かない。
「さっきから気になっていたが、俺は別に王宮に来いと言っているわけではない。俺の公爵家の屋敷に来いと言っているのだ」
王子……シリウス王子は確かに公爵の位を持っていた。彼の兄……つまり第一王子殿下が王太子として即位されてから、彼も公爵の身となったそうで、きっとその時に屋敷を与えられたのだろう。でも……。
「いえいえ大丈夫です」
「……そうか?」
「それより私、ミリィたちに言いたいことが」
そうだ、最後に一言くらい言わせてもらおう。もう会うこともなくなるし、ちょっとくらいなら許されるだろう。
ミリィが泣き止み、王子が静かになったところで、私は口を開く。
「では最後に。ミリィもカーシスも、幸せになりたいって思う気持ちはわかるけれど、これからは節度を守りなさいね。こんな阿呆らしい茶番に付き合えるの、私くらいしかいないですよ」
二人を見れば、口をポカンと開けて呆然としている。
両親には別に言いたいこともない。
今だ時が止まったように動かない彼らを置いて、私は部屋を去った。
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