婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ

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七話

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 私は淡々と今までのことを述べていく。
 両親は妹ばかりを可愛がり私は冷遇されていたこと。
 婚約者のカーシスは私ではなく妹を好いていたこと。
 極め付けに、私が平民になる決意をした、中庭でのあの出来事。
 毎回カーシスたちの「それは違う」という言葉が入るものの、それが王子に無視されていると気づいた彼らは次第に静かになっていった。
 全てを話終えると、カーシスの顔もミリィの顔も両親の顔も青かった。

「そうか……そなたはそんなつらい境遇に置かれていたのだな」

 王子は哀れみの視線を私に向けてくる。でも私は別に、同情して欲しいわけでもこれを機に助けて欲しいわけでもない。むしろ改善を要求しなかったのは私の作戦でもある。

「さぞかし辛かっただろう」
「いえ、そうでもないです。むしろ早くから関係修復を諦めることができたので、お金を稼ぐ時間がたっぷりありましたし。……ただ、妹に私の手作りクッキーを盗まれたときは流石に腹が立ちましたけれど」

 私の言葉に全員が驚く。
 特にミリィは、ただでさえ青くなっていた顔色がさらに血色を失っていく。

「い、いえ。あれは私が作ったものですの。お姉様は勘違いしているんです、きっと」

 それでもまだ言い訳をしようとするあたりがミリィらしい。
 するとカーシスもそれに便乗する。

「そうだ、君は勘違いしている。あの時僕も側にいたから分かるよ。ミリィがクッキーを僕に持って来た後、君は同じクッキーを持って来たんだ。ミリィのクッキーの余りを盗んで」
「お姉様ひどいです。そんなに私を罪を着せたいのですか?」

 ミリィはいつもの調子を取り戻したようだ。
 わざとらしく泣き出した妹を見て私は目を丸めた。

「罪なんか着せたくないわよ。でも実際、あのクッキーは私が作ったもの。誰も信じないけれど」
「信じられるわけないだろ。馬鹿だね、リディー」

 出た、カーシスの上から目線。
 でも私はもういくらでも言い返せる。

「カーシス、貴方こそ可哀想に。簡単に騙されてしまって」
「カーシス様を侮辱しないでくださいお姉様。そして、取り返しがつかなくなる前にどうか罪を認めになって……」

 側から見れば聖女のように見えるかもしれないが、言ってることは滅茶苦茶だ。ミリィの言葉は到底頷けるものではない。 
 私はミリィに目線を移した。

「ねぇ、私見てたわよ。ミリィ、あなた、毎回私の作ったお菓子を盗んではカーシスにあげていたけれど、いったい何がしたかったの?ずっと不思議なのよ」
「だから、それは違います!あれは私が作ったものですっ」
「そんなにカーシスに気に入られたかったのね。言ってくれれば、分けてあげたのに」
「お姉様、嘘を仰らないでっ」

 ミリィはどうしても自分がお菓子を作っていたことにしたいらしい。
 多分これ以上この話を続けても埒があかない、と思った私はミリィとの会話を諦める。
 すると、それまでずっと黙っていた王子が口を開いた。

「なら、今ここでクッキーでも作ってみればどうだ。そうすれば真実は明らかになるはずだ」
 
 
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