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二話
しおりを挟むそれからと言うもの、婚約者との距離はさらに広がる一方だった。
さらに妹は私を追い詰めんばかりに、悲劇の妹を演じていた。
そんなある時、中庭の方で婚約者と妹がコソコソと会話しているのを聞いてしまった。
「僕、君が婚約者なら良かったのにな」
「私もお慕いしております。貴方を愛する気持ちはお姉様より私の方がずっと優っておりますのに」
妹は本当に本性を隠すのが上手い。実際は腹の中が真っ黒のくせに、純白な天使を演じ続けているのだから。
「君と婚約し直せたら良いのに。でも何回お願いしても、君の両親はなかなか認めてくれないよね」
「過保護なんです。私の婚約はまだ当分先で良いと言っておりますし」
「僕がその席を予約するっていうのは?」
「えぇ?でもお姉様が……」
「彼女は今でさえ君に嫌がらせをしているんだ。塵も積もれば山となる。きっと数年後には婚約破棄が簡単に出来るくらいの嫌がらせをしてくるはずだよ。だからそれまで頑張って耐えよう」
「私たちの幸せのために、ですね」
「うん、僕達の幸せのために」
二人は手を繋いで中庭の大木に寄りかかった。
「でもその後、お姉様はどうなっちゃうんでしょう。そこがちょっと心配です。やっぱり……お姉様は、たった一人の血の繋がった姉ですから」
「君は本当に、天使のように慈悲深いね」
「お父様たちは、婚約破棄なんてことがあったら勘当して侯爵家の籍から外すって言っていました。でも、それってやりすぎじゃ……」
「それが普通なんだよ。辛くても、彼女が自分で導いてしまったことなんだから」
「悲しいです……」
全部あなたが仕組んだことじゃない。
涙を浮かべている妹を睨みつけてしまいたいような気分で私は考えた。
私を嵌めて婚約破棄ね。なかなかのことを考えているじゃない。……というか、それで侯爵家から勘当されることになるのなら、私にはむしろ都合の良い話ではないかしら。
ずっとあんな所からは早く出て行きたい、自立して暮らしたい、と思っていたのだ。
でもその為には婚約者の存在が妨げとなっていた。
それに身勝手に家を出たところで、連れ戻されると思っていたし、だとしたら向うから勘当してくれる方がずっと良い。
妹の演技にイラついてしまったけれど、今のあの二人の会話は、むしろ私にとってもプラスに働くのではないか。
どうせ何もしなくても勝手に妹が動いて私を悪者に仕立て上げてくれるから、その波に乗ってさっさと婚約破棄まで行ってしまおう。
それまでに、外で暮らせていけるだけのお金もコツコツ調達して……。
そうと決まれば、婚約破棄まで我慢を続けるだけだ。
この時から、新たな一歩を踏み出すための準備が始まった。
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