婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ

文字の大きさ
上 下
1 / 16

一話

しおりを挟む
 私の家では妹が可愛がられるのが当たり前だった。サラサラの金髪に長い睫毛に縁取られた緑色の目。
 平凡な容姿の両親から生まれた玉のように清らかな娘。
 儚いものの象徴のような美しい容姿をした一つ下の妹は、生まれてすぐに両親を魅了した。
 しかし私はと言うと蛙の子は蛙。
 両親に似た平凡な容姿である。
 その影響で両親は私に関心がなかったし、会うとしても小言くらい。この屋敷の最高権力者である両親に怯え、使用人は誰も近寄って来なかったので侍女も私にはつけられなかった。
 ただ救いだったのは、食事などの最低限の生活はきちんと保障されていたこと、私には前世の記憶があったことの二つだ。
 特に後者のお陰で、子供ながらに大人の精神力を持ってしてこの状況に耐えることが出来ていた。
 妹は自分が優遇されていることを自覚しており、それを良いことによく私につっかかってきては泣いて帰っていって、私が両親に怒鳴られるよう仕組んでいた。
 ……いや、本当に記憶があって良かった。
 なければ、一生心に傷を負う羽目になっていただろう。
 

 ある時、私に婚約者が出来た。
 婚約者は初めこそ私と仲良かったが、すぐに妹と頻繁に会うようになっていった。
 彼が私より妹に気があるのは明らかだった。
 なぜなら贈り物を持って来ても、私には安物の紅茶、妹には彼女と同じ瞳の色の宝石を送っていたからだ。
 そもそも私は何度も妹の方が婚約者に相応しいと思っていた。一度それを両親に伝えたところ、妹はもっと格上の方と婚約させるからダメだと言って否定された。
 それでも、やはり妹と婚約者の距離は近かった。
 私はある時、婚約者の希望でお菓子を作ることになった。
 前世でお菓子作りが趣味だった私は、その記憶を頼りにアイスボックスクッキーを作った。
 でも、クッキーが綺麗に焼き上がり冷ましている間の数時間、事件が起こった。
 クッキーがほとんど無くなっていたのだ。
 私は犯人の予測を立てながら、かろうじて残っているものをラッピング袋に入れた。
 それから婚約者にクッキーを渡しにいくと、そこには妹がいた。
 私は嫌な予感を感じながらも、彼にクッキーを渡す。

「これ、頼まれていたお菓子です。クッキーを作ってみました」

 でも、帰って来た婚約者の声は冷たかった。

「これは、君の妹が作ってくれたものじゃないのか?先程、君の妹からクッキーを貰ったが、君が持ってるそれは彼女が作ったものと瓜二つだ」

 彼は私の手から乱暴にクッキーを奪うと、ラッピングをビリビリ剥がし、クッキーを一つつまんで口に入れた。

「ほら、同じ味」

 彼の疑いの目は私に向いた。
 妹は私と目が合うと、微笑んで首を傾げた。

「お姉様?」

 それは、全てを知り尽くした上での言葉で。
 私はいたたまれなくなってその場から早歩きで逃げ出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】貴族の矜持

仲村 嘉高
恋愛
「貴族がそんなに偉いんですか!?」 元平民の男爵令嬢が言った。 「えぇ、偉いですわよ」 公爵令嬢が答える。 「そんなところが嫌なんだ!いつでも上から物を言う!地位しか誇るものが無いからだ!」 公爵令嬢の婚約者の侯爵家三男が言う。 「わかりました。では、その地位がどういうものか身をもって知るが良いですわ」 そんなお話。 HOTで最高5位まで行きました。 初めての経験で、テンション上がりまくりました(*≧∀≦*) ありがとうございます!

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

処理中です...