5 / 16
五話
しおりを挟む
「ふふっ、確かに普通ならショックを受けるのが当然かもしれませんね」
「ならどうして……」
「理由は簡単です。それは別に、私がカーシス様を好きなわけでも、この侯爵家に固執したいわけでもなかったからです」
スラスラと流れ出る言葉。
あぁ、我慢しなくて良いって素晴らしい。
平民になったから不敬罪にあたるかもしれないけれど、今日くらいは良いわよね。
「君は、僕のことを愛しているんじゃなかったのか?」
「いやいやいや、ないです」
カーシスは私がずっと自分のことを好きだとでも思っていたらしい。
……だから、私を断罪する時、あんなに余裕たっぷりだったんだ。
自分を好きな女が傷ついて絶望する姿を待ち望んでいたわけね。婚約者だからって、好きって訳ではないのに。
確かに会う時はお互いに愛想笑いを浮かべていたけれど、好きで笑っていた訳ではない。
むしろ丁寧な言葉遣いではあるが、それが逆に腹の中が真っ黒のように思えてならなかった。あの笑顔は私なりの防御だ。
「全くもってありえません」
「じゃあ、なんでミリィを虐げたりなんか……」
「だからそんなことしてませんって。私はただ婚約破棄したかっただけなんです」
「そんな訳ない!君は僕を好きなはずだ。そうでなければ……」
「まぁ今となってはどう思われてようがどうでも良いです。それと、今日で私はもうこの家を出ますね」
カーシスが私のことを勘違いしていようがどうでも良い。なぜなら、この先の人生に彼は全くもって関わって来ないのだから。
私はこの日のために、前々からずっと準備をして来たのだ。
「出て行く……?勘当されるって分かっていたのか?」
「はい。邪魔者がいなくなって、お二人とも清々するでしょう?」
「いや、大事な娘が……」
「無理に体裁を整えなくても大丈夫ですよ。もう勘当された身で娘でもないですし。生まれてから一度も愛されてないことくらい分かってますから。貴方たちがミリィにしか興味がないことくらい気づいていますよ」
「愛する娘」なんて笑わせに来てる。馬鹿にするのも大概にしてほしい。
私はベッドの下に隠しておいた家出用の鞄を手に取る。
「では皆さま、今までお世話になりました。どうかお元気で」
「なんだその荷物は……」
「私が下町で稼いだお金と生活必需品です。隠し通せたのはやっぱり私には侍女がいなかったからですかね!では!」
私は歩き出した。荷物は重いが気分は軽い。
元婚約者と妹の間をすり抜け、愕然とする両親を視界から外し、軽やかに廊下を……と思っていたところ、どうやら外が騒がしい。
誰か来訪者が来たようだ。
この時間帯にお客様?一体誰だろう。
段々と靴音が近づきその姿があらわになると、意外な人物だった。
「カーシス、婚約破棄の話はまとまったか?」
現れたのは、この国の第二王子シリウス様だ。どうして王子がこんなところにと聞きたい。
短く切り揃えられた銀髪に、深青色のアーモンドアイ。容姿端麗で優秀だと評判の高い方だ。
「これは、どうなっているんだ」
どうやらカーシスとグルだったらしく、私との婚約破棄を見届けに来たようだ。
本人はおそらく私が断罪されて絶望に打ちひしがれているとでも思っていたらしく、元気な私の姿を見てムスッと顔を歪めている。
「シリウス様、えっと、あの……」
カーシスはたじたじだ。
ただでさえ混乱していたカーシスなのに、さらに状況は複雑なってしまった。
「ならどうして……」
「理由は簡単です。それは別に、私がカーシス様を好きなわけでも、この侯爵家に固執したいわけでもなかったからです」
スラスラと流れ出る言葉。
あぁ、我慢しなくて良いって素晴らしい。
平民になったから不敬罪にあたるかもしれないけれど、今日くらいは良いわよね。
「君は、僕のことを愛しているんじゃなかったのか?」
「いやいやいや、ないです」
カーシスは私がずっと自分のことを好きだとでも思っていたらしい。
……だから、私を断罪する時、あんなに余裕たっぷりだったんだ。
自分を好きな女が傷ついて絶望する姿を待ち望んでいたわけね。婚約者だからって、好きって訳ではないのに。
確かに会う時はお互いに愛想笑いを浮かべていたけれど、好きで笑っていた訳ではない。
むしろ丁寧な言葉遣いではあるが、それが逆に腹の中が真っ黒のように思えてならなかった。あの笑顔は私なりの防御だ。
「全くもってありえません」
「じゃあ、なんでミリィを虐げたりなんか……」
「だからそんなことしてませんって。私はただ婚約破棄したかっただけなんです」
「そんな訳ない!君は僕を好きなはずだ。そうでなければ……」
「まぁ今となってはどう思われてようがどうでも良いです。それと、今日で私はもうこの家を出ますね」
カーシスが私のことを勘違いしていようがどうでも良い。なぜなら、この先の人生に彼は全くもって関わって来ないのだから。
私はこの日のために、前々からずっと準備をして来たのだ。
「出て行く……?勘当されるって分かっていたのか?」
「はい。邪魔者がいなくなって、お二人とも清々するでしょう?」
「いや、大事な娘が……」
「無理に体裁を整えなくても大丈夫ですよ。もう勘当された身で娘でもないですし。生まれてから一度も愛されてないことくらい分かってますから。貴方たちがミリィにしか興味がないことくらい気づいていますよ」
「愛する娘」なんて笑わせに来てる。馬鹿にするのも大概にしてほしい。
私はベッドの下に隠しておいた家出用の鞄を手に取る。
「では皆さま、今までお世話になりました。どうかお元気で」
「なんだその荷物は……」
「私が下町で稼いだお金と生活必需品です。隠し通せたのはやっぱり私には侍女がいなかったからですかね!では!」
私は歩き出した。荷物は重いが気分は軽い。
元婚約者と妹の間をすり抜け、愕然とする両親を視界から外し、軽やかに廊下を……と思っていたところ、どうやら外が騒がしい。
誰か来訪者が来たようだ。
この時間帯にお客様?一体誰だろう。
段々と靴音が近づきその姿があらわになると、意外な人物だった。
「カーシス、婚約破棄の話はまとまったか?」
現れたのは、この国の第二王子シリウス様だ。どうして王子がこんなところにと聞きたい。
短く切り揃えられた銀髪に、深青色のアーモンドアイ。容姿端麗で優秀だと評判の高い方だ。
「これは、どうなっているんだ」
どうやらカーシスとグルだったらしく、私との婚約破棄を見届けに来たようだ。
本人はおそらく私が断罪されて絶望に打ちひしがれているとでも思っていたらしく、元気な私の姿を見てムスッと顔を歪めている。
「シリウス様、えっと、あの……」
カーシスはたじたじだ。
ただでさえ混乱していたカーシスなのに、さらに状況は複雑なってしまった。
156
お気に入りに追加
6,181
あなたにおすすめの小説
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~
マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。
だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。
しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。
婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜
あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。
そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、
『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露!
そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。
────婚約者様、お覚悟よろしいですね?
※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。
※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。
家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。
水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。
兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。
しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。
それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。
だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。
そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。
自由になったミアは人生を謳歌し始める。
それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。
冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?
水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。
学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。
「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」
「え……?」
いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。
「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」
尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。
「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」
デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。
「虐め……!? 私はそんなことしていません!」
「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」
おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。
イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。
誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。
イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。
「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」
冤罪だった。
しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。
シエスタは理解した。
イザベルに冤罪を着せられたのだと……。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる