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五話
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「ふふっ、確かに普通ならショックを受けるのが当然かもしれませんね」
「ならどうして……」
「理由は簡単です。それは別に、私がカーシス様を好きなわけでも、この侯爵家に固執したいわけでもなかったからです」
スラスラと流れ出る言葉。
あぁ、我慢しなくて良いって素晴らしい。
平民になったから不敬罪にあたるかもしれないけれど、今日くらいは良いわよね。
「君は、僕のことを愛しているんじゃなかったのか?」
「いやいやいや、ないです」
カーシスは私がずっと自分のことを好きだとでも思っていたらしい。
……だから、私を断罪する時、あんなに余裕たっぷりだったんだ。
自分を好きな女が傷ついて絶望する姿を待ち望んでいたわけね。婚約者だからって、好きって訳ではないのに。
確かに会う時はお互いに愛想笑いを浮かべていたけれど、好きで笑っていた訳ではない。
むしろ丁寧な言葉遣いではあるが、それが逆に腹の中が真っ黒のように思えてならなかった。あの笑顔は私なりの防御だ。
「全くもってありえません」
「じゃあ、なんでミリィを虐げたりなんか……」
「だからそんなことしてませんって。私はただ婚約破棄したかっただけなんです」
「そんな訳ない!君は僕を好きなはずだ。そうでなければ……」
「まぁ今となってはどう思われてようがどうでも良いです。それと、今日で私はもうこの家を出ますね」
カーシスが私のことを勘違いしていようがどうでも良い。なぜなら、この先の人生に彼は全くもって関わって来ないのだから。
私はこの日のために、前々からずっと準備をして来たのだ。
「出て行く……?勘当されるって分かっていたのか?」
「はい。邪魔者がいなくなって、お二人とも清々するでしょう?」
「いや、大事な娘が……」
「無理に体裁を整えなくても大丈夫ですよ。もう勘当された身で娘でもないですし。生まれてから一度も愛されてないことくらい分かってますから。貴方たちがミリィにしか興味がないことくらい気づいていますよ」
「愛する娘」なんて笑わせに来てる。馬鹿にするのも大概にしてほしい。
私はベッドの下に隠しておいた家出用の鞄を手に取る。
「では皆さま、今までお世話になりました。どうかお元気で」
「なんだその荷物は……」
「私が下町で稼いだお金と生活必需品です。隠し通せたのはやっぱり私には侍女がいなかったからですかね!では!」
私は歩き出した。荷物は重いが気分は軽い。
元婚約者と妹の間をすり抜け、愕然とする両親を視界から外し、軽やかに廊下を……と思っていたところ、どうやら外が騒がしい。
誰か来訪者が来たようだ。
この時間帯にお客様?一体誰だろう。
段々と靴音が近づきその姿があらわになると、意外な人物だった。
「カーシス、婚約破棄の話はまとまったか?」
現れたのは、この国の第二王子シリウス様だ。どうして王子がこんなところにと聞きたい。
短く切り揃えられた銀髪に、深青色のアーモンドアイ。容姿端麗で優秀だと評判の高い方だ。
「これは、どうなっているんだ」
どうやらカーシスとグルだったらしく、私との婚約破棄を見届けに来たようだ。
本人はおそらく私が断罪されて絶望に打ちひしがれているとでも思っていたらしく、元気な私の姿を見てムスッと顔を歪めている。
「シリウス様、えっと、あの……」
カーシスはたじたじだ。
ただでさえ混乱していたカーシスなのに、さらに状況は複雑なってしまった。
「ならどうして……」
「理由は簡単です。それは別に、私がカーシス様を好きなわけでも、この侯爵家に固執したいわけでもなかったからです」
スラスラと流れ出る言葉。
あぁ、我慢しなくて良いって素晴らしい。
平民になったから不敬罪にあたるかもしれないけれど、今日くらいは良いわよね。
「君は、僕のことを愛しているんじゃなかったのか?」
「いやいやいや、ないです」
カーシスは私がずっと自分のことを好きだとでも思っていたらしい。
……だから、私を断罪する時、あんなに余裕たっぷりだったんだ。
自分を好きな女が傷ついて絶望する姿を待ち望んでいたわけね。婚約者だからって、好きって訳ではないのに。
確かに会う時はお互いに愛想笑いを浮かべていたけれど、好きで笑っていた訳ではない。
むしろ丁寧な言葉遣いではあるが、それが逆に腹の中が真っ黒のように思えてならなかった。あの笑顔は私なりの防御だ。
「全くもってありえません」
「じゃあ、なんでミリィを虐げたりなんか……」
「だからそんなことしてませんって。私はただ婚約破棄したかっただけなんです」
「そんな訳ない!君は僕を好きなはずだ。そうでなければ……」
「まぁ今となってはどう思われてようがどうでも良いです。それと、今日で私はもうこの家を出ますね」
カーシスが私のことを勘違いしていようがどうでも良い。なぜなら、この先の人生に彼は全くもって関わって来ないのだから。
私はこの日のために、前々からずっと準備をして来たのだ。
「出て行く……?勘当されるって分かっていたのか?」
「はい。邪魔者がいなくなって、お二人とも清々するでしょう?」
「いや、大事な娘が……」
「無理に体裁を整えなくても大丈夫ですよ。もう勘当された身で娘でもないですし。生まれてから一度も愛されてないことくらい分かってますから。貴方たちがミリィにしか興味がないことくらい気づいていますよ」
「愛する娘」なんて笑わせに来てる。馬鹿にするのも大概にしてほしい。
私はベッドの下に隠しておいた家出用の鞄を手に取る。
「では皆さま、今までお世話になりました。どうかお元気で」
「なんだその荷物は……」
「私が下町で稼いだお金と生活必需品です。隠し通せたのはやっぱり私には侍女がいなかったからですかね!では!」
私は歩き出した。荷物は重いが気分は軽い。
元婚約者と妹の間をすり抜け、愕然とする両親を視界から外し、軽やかに廊下を……と思っていたところ、どうやら外が騒がしい。
誰か来訪者が来たようだ。
この時間帯にお客様?一体誰だろう。
段々と靴音が近づきその姿があらわになると、意外な人物だった。
「カーシス、婚約破棄の話はまとまったか?」
現れたのは、この国の第二王子シリウス様だ。どうして王子がこんなところにと聞きたい。
短く切り揃えられた銀髪に、深青色のアーモンドアイ。容姿端麗で優秀だと評判の高い方だ。
「これは、どうなっているんだ」
どうやらカーシスとグルだったらしく、私との婚約破棄を見届けに来たようだ。
本人はおそらく私が断罪されて絶望に打ちひしがれているとでも思っていたらしく、元気な私の姿を見てムスッと顔を歪めている。
「シリウス様、えっと、あの……」
カーシスはたじたじだ。
ただでさえ混乱していたカーシスなのに、さらに状況は複雑なってしまった。
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