上 下
23 / 23

二十三話

しおりを挟む
 スープは既にティアナが注いでくれていた。
 いつのまにか調理場もすっかり片付いており、ティアナがやはり優秀な侍女であると改めて認識する。
 ルイスはゆっくりとスープを飲んでいる。頬は少し赤くなっていて、きちんと温まっているようだ。

「はい、お嬢様も」

 手渡しでティアナからスープを渡されれば、器は木で出来ている。しかも木のスプーンまでついて。これもいつのまに作ったのだろう。

「ありがとう」

 私がそれを両手で受け取ると、作業を終えたサイアス様が戻ってきた。

「終わりました、一応はこれで問題ないと思います」
「お疲れ様です。はい、サイアス様も」

 ティアナは淡々とサイアス様にもスープを手渡した。
 最後に自分の分を注いでやっと席に座る。

「はぁ」

 温かいスープが体の芯にまで染み渡っていく。
 皆も同じ状況であるようで、無言でただスープを飲んでいる。

「はぁ、これがオデット様の手料理。はぁ、美味しい。でもこれ以上食べたら無くなってしまう。残しておきたいのに、どうすれば」

 ……何故かサイアス様だけ嬉しそうに何かを呟いているけれど、私にまでは聞こえない。だからティアナが呆れ顔になった理由も分からなかった。
 ルイスは時間をかけてスープを完食した。

「おかわりいる?」
「ううん、もうお腹いっぱい」

 やっぱり、まだ食が細い。これから少しずつ時間をかけていくしかないようだ。  
 ルイスはまた眠くなって来たのか目を擦る。
 眠いの?と尋ねようとする前に、私に体を預け眠ってしまった。

「そろそろ馬車に戻りましょうか?」
「ううん、もう少しこのままで」

 右側に感じるルイスの温もりが気持ちよくて私は目を細めた。
 静寂の中で焚き火の音だけが響く。
 焚き火の火を見ていると、だんだんと安心感を覚えて目がとろんとしてくる。そんな中でぼんやりと今日の出来事を思い返した。

 ……どうにかここまで来た。今日は散々な一日だったけれど、こんなにルイスと過ごせたのは初めてだ。でもこれからは、これが当たり前に……あの子を……幸せ……に……。








 オデットが眠りにつくと、倒れていく体をすかさずサイアスが受け止める。代わりにルイスはティアナによって抱き上げられた。ルイスの寝顔にティアナは微笑む。

「お二人ともお疲れのようです。サイアス様、お嬢様を馬車にお連れして……って」
「いや、このまま私の胸の中にいる方が安眠できるでしょう」

 サイアスは爽やかな笑顔をティアナに向けた。
 その腕の中にはいつのまにか、サイアスによって横抱きにされたオデットがいて、それを見てティアナが顔を顰める。

「いえ、危険ですので馬車に」
「いえいえ、私がついておりますから」
「だからそれが一番危険……」
「はぁ、オデット様の寝顔。堪らないです」

 ティアナの言葉も聞かず、サイアスは自分の腕に抱かれたオデットをじっと見つめた。そしてそのまま頬ずりをし出す。
 冷え切った目でティアナは警告する。

「捕まるのでは?」
「こんなの、ただの挨拶ですよ」
「あなたが一番の危険人物かもしれません。お嬢様もあまり鈍いとこれから先も……」
「あぁ、オデット様。私の聖女様。このままずっと触れていたい。今すぐ捉えてどこかへ閉じ込めてしまいたい」
「はぁー、上手いこと隠しているようですけど、正体がバレるのも時間の問題ですね」

 オデットやルイスは気づいていないが、サイアスはでここまで同行して来たわけではない。むしろその正反対である。
 ティアナは大きくため息を吐くと「お嬢様は簡単に騙されすぎです」と目を伏せた。




しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

window
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

処理中です...