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十四話 ルイス視点

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「今日から貴方はわたくしの犬よ、ルイス」

 それまで関わりのなかったメアリーお姉様は、ある時突然僕の目の前に現れた。そうして使用人に命令して、鞭で痛めつけられる僕を見て笑った。

「ああかわいいっ、ずっとこうしてみたいと思っていたの!似合うわ、ルイス」

 メアリーお姉様の目はあまりに狂気じみていて、僕は今までにないくらいの恐怖と絶望を感じた。
 その日から、今までの躾の比じゃないくらいの地獄が幕を開けた。
 僕は部屋に閉じ込められ、両親が会いに来ることもなくなった。
 姉さんも「ルイス」と助けに来てくれたけれど、メアリーお姉様に上手く言いくるめられた両親に連れ戻されてしまった。
 姉さんがそばにいなくなったことで、僕の不安はより大きいものとなっていった。

「わたくしのどこがいけないと言うの?教えて、ね?」
「完璧なわたくしにケチを付けるなんて、死刑ものですわ!」

 王太子妃教育のストレスから、メアリーお姉様はその鬱憤を僕で晴らすようになった。
 優しい口調とはかけ離れた凄まじい数の暴力。機嫌が良い時は頭を撫でられたりするけれど、それすらも僕は恐怖だった。姉さんに撫でられる時はあんなに気持ち良いのに。
 僕の心はあっという間にズタボロになり、食事も全くと言って良いほど喉を通らなくなった。
 いつまでこんな地獄が続くのだろうか。いつもそう思った。
 姉さんがいない時によく部屋の鍵が開き、姉さんとティアナが僕の元にかけつけてくれた。姉さんは毎晩隙を見て、扉の前まで来てお話をしてくれたし、僕が怪我しないようにと「力」を与えてくれた。
 結局半年後、メアリーお姉様は王城での暮らしが決まり結婚前に公爵家を出ることとなった。
 ようやく僕は解放されると思ったのも束の間、待っていたのは両親からの厳しい躾。部屋を出られることはなかったけれど、メアリーお姉様の時よりは怖くなかった。
 でもこの暮らしに、僕はそろそろ限界を迎えようとしていた。
 体は数歩歩くだけでやっとだし、流石に心ももう疲れ果てていた。これ以上耐えられる気がしない。そう思っていた。
 でも僕には姉さんがずっとそばにいた。
 扉越しだったけれど、その存在は僕にとってはかけがえのないものだった。
「ルイス、待ってて。もう少ししたら迎えに行くから」
 ある日姉さんはそう言った。
 僕はその言葉に自然と涙と笑みが溢れていて、いつか姉さんとここを飛び出して幸せな生活を手に入れることを想像するようになった。
 そうして時は経ち……。

「ルイス!ルイス!」

 いつもとは違い、慌てた様子の姉さんの声が僕の耳に届いた。
 
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