3 / 23
三話
しおりを挟む
サイアス様の笑みを見て私は固まる。
……え、国外追放、嫌じゃないのかしら。
もしかしてサイアス様も私と同じように、この国から離れたがっているの?
家族との亀裂?でも確かサイアス様は平民上がりよね。実力でこの地位まで来た凄い方なのに、そんな簡単に国外追放を認めてしまって良いのかしら。
私にはサイアス様の考えが読めない。
「オデット、聞いているの?オデット!……駄目だわ、放心状態になってる」
私の手を握ったままでいる姉が、手を振って私に声をかけてくる。
考え出すとぼーっとして周りが見えなくなるのは私の癖だけれど、どうやら今の場面では私が国外追放にショックを受けてしまっているように見えるらしい。
私を置いて話は進んでいく。
「無理もないだろう。しかしこれも自分で蒔いた種。自業自得だ。それに一番の被害者はエリオット君だと思うしね」
「……確かにそうよね。妹だから情が湧いてしまうけれど、一番辛いのは浮気されたエリオットよね」
「いえ僕は、結婚する前に判明して良かったと思ってます。迅速に対応してくださったお二人には頭が上がりません」
「やめて、頭を下げないで。謝るのはこっちの方なのよ」
「ああ。オデット嬢と君の婚約の破棄は既に認められている。昨日のうちに書類も完成させたしな。だから君は早いうちに良い人を見つけると良い」
「お心遣いに感謝します」
ある程度話がまとまると今度はまた私に視線が集まる。
ぼーっと成り行きを見ていた私は、突然視線が集まったことにハッとして後ろに下がった。
それを逃さまいと、いつのまにか後ろに控えていた両親に今度は捕まる。
姉を溺愛する両親は、私の存在はどうでも良いものとして扱っていた。姉の言い分しか信じないので、私が怒られることなんて姉が嫁ぐまで日常茶飯事だった。
見目麗しく理想の夫婦と名高い二人だけれど、彼らの裏の顔を知っている私からすれば悪魔でしかないと思っていた。
目の前の両親を見てみれば、お母様は華奢な体を震わせて涙を浮かべている。その様子は姉とそっくりでやっぱり親子なのだと感じられる。
お父様は冷めた目で、そこに軽蔑だけを込めて私を見ている。
「メアリーはこんなに立派なのに……わたくし、育て方を間違えたみたいだわ」
「お前はっ……この馬鹿者っ!」
パシンッ。
会場中に響き渡るほど大きな音が鳴った。
殴られたと感じたのは割とすぐで、けれど一瞬の出来事に会場の時が止まったように音すらも消える。
静寂の中で倒れて行くうちに見えたのは、動揺する大衆の中で唯一微笑みを浮かべた姉の姿。だけれども次の瞬間には「オデットっ!!」なんて悲鳴をあげている。
気づけば私の体は床に倒れ込み、次いで右頬がヒリヒリと痛みだした。
……え、国外追放、嫌じゃないのかしら。
もしかしてサイアス様も私と同じように、この国から離れたがっているの?
家族との亀裂?でも確かサイアス様は平民上がりよね。実力でこの地位まで来た凄い方なのに、そんな簡単に国外追放を認めてしまって良いのかしら。
私にはサイアス様の考えが読めない。
「オデット、聞いているの?オデット!……駄目だわ、放心状態になってる」
私の手を握ったままでいる姉が、手を振って私に声をかけてくる。
考え出すとぼーっとして周りが見えなくなるのは私の癖だけれど、どうやら今の場面では私が国外追放にショックを受けてしまっているように見えるらしい。
私を置いて話は進んでいく。
「無理もないだろう。しかしこれも自分で蒔いた種。自業自得だ。それに一番の被害者はエリオット君だと思うしね」
「……確かにそうよね。妹だから情が湧いてしまうけれど、一番辛いのは浮気されたエリオットよね」
「いえ僕は、結婚する前に判明して良かったと思ってます。迅速に対応してくださったお二人には頭が上がりません」
「やめて、頭を下げないで。謝るのはこっちの方なのよ」
「ああ。オデット嬢と君の婚約の破棄は既に認められている。昨日のうちに書類も完成させたしな。だから君は早いうちに良い人を見つけると良い」
「お心遣いに感謝します」
ある程度話がまとまると今度はまた私に視線が集まる。
ぼーっと成り行きを見ていた私は、突然視線が集まったことにハッとして後ろに下がった。
それを逃さまいと、いつのまにか後ろに控えていた両親に今度は捕まる。
姉を溺愛する両親は、私の存在はどうでも良いものとして扱っていた。姉の言い分しか信じないので、私が怒られることなんて姉が嫁ぐまで日常茶飯事だった。
見目麗しく理想の夫婦と名高い二人だけれど、彼らの裏の顔を知っている私からすれば悪魔でしかないと思っていた。
目の前の両親を見てみれば、お母様は華奢な体を震わせて涙を浮かべている。その様子は姉とそっくりでやっぱり親子なのだと感じられる。
お父様は冷めた目で、そこに軽蔑だけを込めて私を見ている。
「メアリーはこんなに立派なのに……わたくし、育て方を間違えたみたいだわ」
「お前はっ……この馬鹿者っ!」
パシンッ。
会場中に響き渡るほど大きな音が鳴った。
殴られたと感じたのは割とすぐで、けれど一瞬の出来事に会場の時が止まったように音すらも消える。
静寂の中で倒れて行くうちに見えたのは、動揺する大衆の中で唯一微笑みを浮かべた姉の姿。だけれども次の瞬間には「オデットっ!!」なんて悲鳴をあげている。
気づけば私の体は床に倒れ込み、次いで右頬がヒリヒリと痛みだした。
76
お気に入りに追加
4,840
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。
kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」
父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。
我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。
用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。
困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。
「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」
身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません
おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。
ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。
さらっとハッピーエンド。
ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。
婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる