2 / 23
二話
しおりを挟む
姉は誰が見ても美しいと褒め称えるだろうアメジスト色の瞳をうるうるさせて、エリオットの隣に立つ。サラサラの金髪が豪華なシャンデリアに照らされて天使の輪を作った。
「わたくしが証人です、皆様」
「実はメアリーが公爵家の実家に帰っている時に、妹君であるオデット嬢の密会現場を目撃したらしくてな」
「オーウェン様……」
そう言って姉の肩を抱き寄せたのは、この国の王太子であり、姉の夫であるオーウェン・サンジスト様。
王太子は涙目になって顔を俯かせる姉の背中を優しく撫でながら、私をギロリと睨みつけてくる。
「メアリーを泣かせる者は許さない。……例えそれが彼女の実の妹であろうとも」
凛々しい碧眼が私を捉えた。
けれど、このヒーロー気取りの金髪王太子、少し前に私にちょっかいをかけて相手にされなかった屈辱を、ここで晴らそうとしているようにしか思えない。
そしてきっとあの副騎士団長のサイアス様も爽やかな容貌からしてみれば、完全に姉の好みである。黒髪に少し垂れた赤目、目の下の泣きぼくろ。うん、完全に姉の好みだ。きっと姉の誘惑を断った腹いせに、こんな茶番劇に巻き込まれることとなったのだろう。
「聞いているのか、オデット嬢!」
「あ、はい」
いけない、いけない。
ぐるぐると頭の中で考えていたら、外の世界で話が進んでいたらしい。
王太子に厳しい視線を向けられ、私は現実に戻る。
「君がやったことは許されることではない。しかし、まだ未婚だったことや、心優しいメアリーの慈悲によって、君の罪は幾分か軽くなるだろう。……メアリー、オデット嬢の処分は君に任せるよ」
王太子は好き勝手に話を進めていく。
話を振られた姉は、涙を堪えながら口を開いた。
「わたくし、本当は妹を罰するなんて耐えられないのですっ。しかしここは王太子妃……いいえ未来の王妃として、厳しい処分を下します」
そう言うと姉は私に一歩一歩近づいてくる。慌てて周りが私が姉に危害が加えないよう壁を作るが、姉がそれを阻止して私の手を握った。
「貴方に国外追放を命じます。きっと貴方とサイアス様は運命の相手なのよね。二人でこの国を出なさい。そして二度と帰って来てはいけませんよ。……これが、今の私に出せる精一杯の答えです」
国外追放……。
てっきり死刑とまではいかなくても、幽閉されたりするものかと思っていたけれど、思ったより私には好都合な処分だ。
……それにやっとあの子も連れ出せるわ。
姉は私のことを心底嫌っているから、追い出せてスッキリしたいのだろう。
上っ面だけは立派な姉だから、家族の前ですら私に対しては優しく接していたけれど、そのおかげもあってこうして上手いこと話が進んでいるんだろう。
でもサイアス様は良いのかしら……私に巻き込まれてこんなことになったけれど、国外追放なんて嫌よね。
そう思って彼を見れば、一瞬だけ、彼が密かにニコリと微笑んだ。
「わたくしが証人です、皆様」
「実はメアリーが公爵家の実家に帰っている時に、妹君であるオデット嬢の密会現場を目撃したらしくてな」
「オーウェン様……」
そう言って姉の肩を抱き寄せたのは、この国の王太子であり、姉の夫であるオーウェン・サンジスト様。
王太子は涙目になって顔を俯かせる姉の背中を優しく撫でながら、私をギロリと睨みつけてくる。
「メアリーを泣かせる者は許さない。……例えそれが彼女の実の妹であろうとも」
凛々しい碧眼が私を捉えた。
けれど、このヒーロー気取りの金髪王太子、少し前に私にちょっかいをかけて相手にされなかった屈辱を、ここで晴らそうとしているようにしか思えない。
そしてきっとあの副騎士団長のサイアス様も爽やかな容貌からしてみれば、完全に姉の好みである。黒髪に少し垂れた赤目、目の下の泣きぼくろ。うん、完全に姉の好みだ。きっと姉の誘惑を断った腹いせに、こんな茶番劇に巻き込まれることとなったのだろう。
「聞いているのか、オデット嬢!」
「あ、はい」
いけない、いけない。
ぐるぐると頭の中で考えていたら、外の世界で話が進んでいたらしい。
王太子に厳しい視線を向けられ、私は現実に戻る。
「君がやったことは許されることではない。しかし、まだ未婚だったことや、心優しいメアリーの慈悲によって、君の罪は幾分か軽くなるだろう。……メアリー、オデット嬢の処分は君に任せるよ」
王太子は好き勝手に話を進めていく。
話を振られた姉は、涙を堪えながら口を開いた。
「わたくし、本当は妹を罰するなんて耐えられないのですっ。しかしここは王太子妃……いいえ未来の王妃として、厳しい処分を下します」
そう言うと姉は私に一歩一歩近づいてくる。慌てて周りが私が姉に危害が加えないよう壁を作るが、姉がそれを阻止して私の手を握った。
「貴方に国外追放を命じます。きっと貴方とサイアス様は運命の相手なのよね。二人でこの国を出なさい。そして二度と帰って来てはいけませんよ。……これが、今の私に出せる精一杯の答えです」
国外追放……。
てっきり死刑とまではいかなくても、幽閉されたりするものかと思っていたけれど、思ったより私には好都合な処分だ。
……それにやっとあの子も連れ出せるわ。
姉は私のことを心底嫌っているから、追い出せてスッキリしたいのだろう。
上っ面だけは立派な姉だから、家族の前ですら私に対しては優しく接していたけれど、そのおかげもあってこうして上手いこと話が進んでいるんだろう。
でもサイアス様は良いのかしら……私に巻き込まれてこんなことになったけれど、国外追放なんて嫌よね。
そう思って彼を見れば、一瞬だけ、彼が密かにニコリと微笑んだ。
74
お気に入りに追加
4,841
あなたにおすすめの小説
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。
kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」
父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。
我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。
用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。
困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。
「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
window
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる