「君は保留だった」らしいです

カレイ

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夫の言い訳

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「僕は、本当は彼女みたいな人と結婚したかった。でも当時は手の届く存在ではなかったから、彼女ではなく君で我慢したんだ」

 静かに止まった時の中で、夫の言葉だけがヴィオラの頭の中で響く。それと同時に、ヴィオラがショックを受けていると思ったらしいルーカスは、開き直ったように、次々とヴィオラを罵倒する言葉を発し始める。

「君は確かにちょっと顔は良いけど、彼女程じゃないよね。最初はちょっと良いと思っていたけど、長く一緒にいてわかった。君は地味だし。気が利かないし。僕の想像していたような妻になれなかった。でも彼女は違った。僕の思いを尊重してくれるし、何より美しい。いわば女神なんだ。君と結婚したのは失敗だった」

 失敗……。

「僕が君と結婚したのは、なんでも言うこと聞いてくれそうだと思ったからだよ。だから君ならこれくらいのこと見逃してくれると思っていたけど……やっぱり君は心が狭いよね」
「黙って聞いていればあんた!」
「やめて、テリーヌ。もう良いのよ」

 夫の胸グラを掴みそうになるテリーヌを慌てて押さえる。
 テリーヌは勢いよくヴィオラを振り返った。

「あんた良いの!?こんだけ言われてて!何も言い返さないの!?」

 そんなテリーヌにヴィオラは笑みを浮かべたまま言った。

「知ってるテリーヌ?何を言っても響かない相手っているのよ」
「ヴィオラ……」
「もう諦めたわ。この人と一生過ごして行こうと思っていたけれど、この人は違うみたい」
「でもこのままじゃ……」
「安心してテリーヌ。ここまでされて私も黙っていられる訳じゃないわ」

 ヴィオラはさらにルーカスに歩み寄る。

「離婚しましょ、ルーク。私は侯爵家の屋敷から出て行くけど、慰謝料は貰うから」
「慰謝料?君なんかが?」

 ルーカスはいつも無意識にヴィオラのことを見下す。しかしその上から目線にももう慣れた。
 それにこっちだって負けていられない。

「えぇ、きっちり払ってもらうわ」
「馬鹿か。君たちなんかの証言で僕から慰謝料を取れるわけないじゃないか。取れるものなら取ってみなよ。僕とダリアは負けないから」

 そう言うけれど、肝心のダリア様は未だ顔を覆ったまま隠れている。
 もうバレてるのだから堂々としていれば良いものを。
 でも確かに夫の言う通りかもしれない。相手は公爵家だし、もしかすると厳しいかもしれない……。

 ……迂闊だったわ……もっと見方を増やしておくべきだったのに。

 内省するヴィオラを鼻で笑うルーカス。

「ほら」
「証人なら、ここにもいる」

 第三者の声が響く。
 その場の空気が一瞬で変わるような、重く威厳のある声。

「お、お父様!?」
「公爵様!!」

 声の主はこのパーティーの主催者でありダリア様の父でもある公爵様だった。
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