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浮気現場

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「あの人が……。そうなのね」

 つまり私たちの出会いは必然じゃなくて、夫によって仕組まれたものであったと。
 それなのにルーカスは……。
 落ち込むヴィオラの腕をテリーヌは掴む。

「ねぇ見て。あの二人庭園へ行こうとしてるわ。追いかけなきゃ!」

 見れば夫と公爵令嬢ダリア様がひっそりと会場を抜け出している。
 テリーヌに腕を引かれるまま、ヴィオラも後を追うことに。
 美しい薔薇園で抱き合う二人を、ヴィオラたちは見つからないように体を潜めて観察する。

「ダリア……僕の女神ダリア……」
「ルーカス、駄目よ。人に見つかったら……」
「ここには誰も来ないさ。僕たち二人きりだよ」
「そう、良かった。愛してるわ、ルーカス」
「僕もだよ。言葉では言い尽くせないほどに、君のことを愛している。妻よりもずっと……」

 目を背けたくなるような熱い抱擁に、テリーヌが思わずヴィオラの両目を覆った。

「連れてきて言うのも何だけど、あなたにとっては目に毒だわ」
「平気よ、彼への想いはもう途絶えているもの」
「というより、ルーカス様って言葉のセンスが独特ね」
「言えてるわ」

 ヴィオラはテリーヌの手を外す。
 テリーヌはハッとして感心するように言った。

「あんたは強いわね。憎みたくなるくらいに逞しいわ。実際に憎んでいたのだけれど」

 小声で話しているつもりだったけれど、テリーヌの声が聞こえてしまったらしい。

「だ、誰かそこにいるのか!?」

 慌てた様子でルーカスは周りをキョロキョロと見回し出した。対してダリア様は顔を見られないように必死だ。

「あ、バレたわ。どうする、動物の鳴き真似でもする?」

 どうしようか尋ねてくるテリーヌに対して、これ以上隠し通すのは無意味だと思い、私は歩き出した。

「ヴィ、ヴィオラ!?」
「私もいますよ」

 驚く夫に、テリーヌが私を守るようにして立ちはだかる。
 そんな中でもヴィオラは意外と冷静で、「あ、テリーヌって敬語使えたんだ」なんて考えていた。

「今の現場、しっかり見ていましたわ」
「ち、違うんだこれは向こうから無理矢理……」
「ありきたりな言い訳なんて、つまらないですね。どうせならもっと面白いことおっしゃって下さいな」
「………」
「まぁ良いです。それより……」

 テリーヌが気遣うようにヴィオラを見る。
 ヴィオラはテリーヌの前に出るように一歩踏み出した。
 夫は額に汗を浮かべている。

「君、パーティーには来ないんじゃ……」
「あなたに同行したいって頼んでも許可が取れませんでしたので、テリーヌに頼んだんです。彼女は快く引き受けて下さいました」
「…………」

 黙り込むルーカス。
 いつもは怖くて大きな存在に思えていたけれど、今目の前にいる彼は思った以上に小さい。
 ヴィオラはそんな彼に優しく話しかける。

「どうしてこんなことを?」

 すると、返ってきた言葉は信じられないもので。

「君は保留だった」

 私の時は静かに止まった。
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