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発展
しおりを挟むグラッド子爵に話しかけたのは、茶髪茶目の背の高い男性だった。優しそうな垂れ目が印象的だ。
グラッド子爵は小さな舌打ちをした。
「それはそれはご丁寧にありがとうございます。……ではヴィオラ嬢、また後で」
後で、は一生来ない。ヴィオラは心の中でグラッド子爵にそう返す。
そして去っていく背中が見えなくなるまで見送ると、ホッとひとりでに胸を撫で下ろした。
た、助かったー!
本当に危なかった。
もう少しで取り返しのつかないことになるところだった。
テリーヌ、あなた、まさかここまで仕組んできているとは。
油断してしまったが、テリーヌにはやっぱり近付くべきではないのだ。
彼女はというと、様子を伺っていたのだろう、遠くの方から悔しそうにこちらを見ている。
ヴィオラはすぐさま彼女を視界から外し、男性に頭を下げた。
「助かりました、ありがとうございます」
「いえいえ、お力になれたのなら良かったです。どうやら困っているように思われまして」
優しい方だと思った。
あの状況で助けに来てくれるなんて、本当に格好良い。
「あの、でも良かったんですか? デリントン侯爵が呼んでいらした、と言ってしまって」
「あぁ、咄嗟に吐いてしまった嘘ですが、侯爵とは知り合いなので大丈夫だと思います。あの方はとても頭の切れる方なので、きっとうまく収めてくれることでしょう」
「なら良かったです」
「はい」
「「…………」」
それから数秒間、二人の間に沈黙が流れた。口火を切ったのは男性の方だった。
「……あの、申し遅れましたが、私、アドワル侯爵家のルーカスと申します」
「あっ、私こそ申し遅れました、ポワン伯爵家のヴィオラです。よろしくお願いします」
「え、えっとヴィ、ヴィオラ様ってお呼びしても?私の言葉はどうかルーカスと」
「勿論です、ルーカス様」
ヴィオラとルーカスは互いに顔を見合わせ微笑んだ。
それからというもの、二人の距離はどんどん近くなっていった。
ルーカスはいつだってヴィオラに優しかった。
テリーヌの結婚式の時もルーカスはヴィオラのパートナーになることを申し出てくれて、お陰でヴィオラはテリーヌに笑い物にされずに済んだ。
このようなこともあり、ヴィオラは時代にルーカスに好意を抱くようになった。
だから婚約を申し込まれた時、これまでにないほど嬉しかった。
ヴィオラは自分がまさか恋愛結婚できるとは思ってもみなかったので、本当に夢のようだと何度も思った。
それから二人は無事結婚式を済まし、幸せな夫婦生活が始まった。
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