「君は保留だった」らしいです

カレイ

文字の大きさ
上 下
1 / 14

プロローグ

しおりを挟む
「君は保留だった」

 これほど、相手を見下す発言があるのか。
 ヴィオラは目の前の相手の言葉に驚きと動揺を隠せない。
 ぶるぶると手先は震え、目の前が真っ暗になる。

 何を言っているの、この人……。

 結婚してから早3年。
 ヴィオラと目の前の男、ルーカスはそれなりに……いやかなり順風満帆に夫婦としてこれまで愛を育んできたはずなのに。
 黙り込んだヴィオラに、ルーカスはさらに追い討ちをかけるように溜息を吐く。
 
「僕は、本当は彼女みたいな人と結婚したかった。でも当時は手の届く存在ではなかったから、彼女ではなく君で我慢したんだ」

 夫は開き直ったように言葉を並べていった。
 浮気を問い詰め、言い訳が通じないと分かった途端、これだ。まぁ浮気し始めた頃から明らかに様子はおかしかったけれど。
 夫はどこまで自分を馬鹿にすれば気が済むのだろうとヴィオラは俯く。
 先程のルーカスの台詞。
 彼は私を好んで選んだわけではなく、あくまで私を我慢して選んだに過ぎないと。
 ヴィオラは貴族には珍しい恋愛結婚で結ばれたと、周りに喜ばれたあの頃を思い出す。誰よりも幸せだと思ったあの時の自分を説得してあげたい。その先の未来はこれなのだ、と。

 保留、我慢……。
 夫の放つ言葉が次々とヴィオラの頭の中で流れていく。
 次第に、これまで散々この男に抱いていた愛情やら信頼やらが、自分の体からポロポロと剥がれ落ちていくのを感じた。次いで生まれたのは……嫌悪感。
 不思議なほどにヴィオラの心はスッと冷めていった。

 私、こんな男に人生を捧げようとしていたの?

 既にヴィオラの感情は、驚きから怒りへと変わっていった。そこには、愛する夫に裏切られた可哀想な女などもういない。

 きもちわるい。

 こんなに馬鹿にされたのは生まれて初めてだ。こんな男を愛していたなんて、吐きそうになる。

 ……保留、我慢。そこまで見下されているなんて。今まで散々愛しているやらなにやら言ってきて、その裏で実は値踏みされていたのだ。
 確かに今まで、愛してきたし、愛されてきたはずなのに。全てが彼の演技に騙されていただけなんて。
 手のひらで踊らされていた自分はいかに愚かで扱いやすかったのだろう。

「僕は貴族に生まれたけれど、浮気はしないし、ずっと君一筋だよ」

 ヴィオラはそこでハッと思い出す。
 夫が毎日のように言っていたこの言葉を。
 今考えれば明らかに胡散臭い。
 しかしこの言葉で夫の性質を見抜けなかったのは、恋に盲目になっていた私の落ち度だ。
 鮮明に思い出すこの言葉は、もしかすると、今日の裏切りのためにあったのかもしれないとヴィオラは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう無理だ…婚約を解消して欲しい

山葵
恋愛
「アリアナ、すまない。私にはもう無理だ…。婚約を解消して欲しい」 突然のランセル様の呼び出しに、急いで訪ねてみれば、謝りの言葉からの婚約解消!?

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

幼馴染の婚約者ともう1人の幼馴染

仏白目
恋愛
3人の子供達がいた、男の子リアムと2人の女の子アメリアとミア 家も近く家格も同じいつも一緒に遊び、仲良しだった、リアムとアメリアの両親は仲の良い友達どうし、自分達の子供を結婚させたいね、と意気投合し赤ちゃんの時に婚約者になった、それを知ったミア なんだかずるい!私だけ仲間外れだわと思っていた、私だって彼と婚約したかったと、親にごねてもそれは無理な話だよと言い聞かされた それじゃあ、結婚するまでは、リアムはミアのものね?そう、勝手に思い込んだミアは段々アメリアを邪魔者扱いをするようになって・・・ *作者ご都合主義の世界観のフィクションです

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結済み】私を裏切って幼馴染と結ばれようなんて、甘いのではありませんか?

法華
恋愛
貴族令嬢のリナは、小さいころに親から言いつけられた婚約者カインから、ずっと執拗な嫌がらせを受けてきた。彼は本当は、幼馴染のナーラと結婚したかったのだ。二人の結婚が済んだ日の夜、カインはリナに失踪するよう迫り、リナも自分の人生のために了承する。しかしカインは約束を破り、姿を消したリナを嘘で徹底的に貶める。一方、リナはすべてを読んでおり......。 ※完結しました!こんなに多くの方に読んでいただけるとは思っておらず、とてもうれしく思っています。また新作を準備していますので、そちらもどうぞよろしくお願いします! 【お詫び】 未完結にもかかわらず、4/23 12:10 ~ 15:40の間完結済み扱いになっていました。誠に申し訳ありません。

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

処理中です...