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最終章 迷宮~labyrinthos
限りある時
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一方で、 ソロモン、 占いでルイの行方を追った。
水晶に映し出される要塞化した古い洋館。
「ヨハン……。 アイツ、 こんな所に潜んで居た訳か」
ソロモン、 眉間に皺を寄せた。
そこは、 既に廃墟と化した筈であるかつて、 ソロモンとヨハン一緒に居た屋敷だった。
「しかし……、 この過去・時空間と繋がるキーワードは日本の何処だと……この辺から然程離れない筈だ」
更に水晶を撫でるソロモン。
住宅街から少し離れた、 今は誰も住まない萎びた古い洋館に過去と繋がる歪があった。
「ここか……。 鬼と出るか蛇と出るか。 ふ、 どんな結果に成ろうとも、 覚悟ならできているさ。 あとは時計塔だな……」
ソロモンは微かに笑うと消え去った。
真っ暗な空。
洋館の古い屋根に立つソロモン。
ただマントの揺れる音だけがする。
まずはルイを救出することが先決だった。
屋敷内からソロモンがルイに渡した小箱から来る振動が伝わった。
「生きてる様だな、 ルイ……」
とりあえず屋敷に潜るソロモン。
ルイを探すうちにヨハンの使う傀儡達に遭遇した。
傀儡たちはソロモンに襲い掛かった。
本当なら一瞬で片づけられる程度しかない傀儡。 ヨハンが魔法書を手にした影響で強い魔力で操り、 なかなか退治できず、 ソロモンは疲弊、 傀儡を倒した時は既に傷だらけになった。
ポタポタと腕から流れる血だけ止めた。
この流れる血でヨハンに後を追われたら危険だった。
屋敷内をこっそり探し、 牢を見つけた。
ソロモンは小声で呼びかける
「ルイ? ……居るのか?」
聞きなれた懐かしいソロモンの声でルイは牢の扉へ駆け寄る。
「ソロモンさま……あぁ……、 血が」
「無事か? デカい声を出すな。 今此処から出してやる」
ソロモンは扉にある鍵に掌を翳し、 文言を唱えた。
「形ある物はいつかその姿を崩したりて 新たな物への礎となろう」
ガラッ……。 錠前は簡単に扉から壊れ落ちた。
急いで扉を開けるソロモン。
ルイは扉から出て抱きついた。
「怖かった……。 どうすればいいか解らなくて」
「ムダ話ならば後でいくらでも聞いてやる、 ここは今やヨハン……奴が作り出した強烈な結界内、 辛うじて仮の歪を開けたが歪は一時的だ、 歪が完全に消えたなら、 ベンジャミンの居ない今の状態では現在に帰れない。 急げ」
正直なところ時間がなかった。
暗い地下牢が並ぶ廊下を走る二人。
冷ややかな声でヨハンの声。
「お二人さん、 仲良く恋の逃避行かな……?」
現れた人物はヨハンだった。
ソロモンはルイを後ろへ庇い、
「ヨハン……、 お前……!」
余裕な薄笑いを浮かべたヨハンはソロモンを見下す様に、
「魔法書が無い今のお前は、 単なる下級魔族同然だ。 サタン系だと? 笑わせるな。 お前が居たら私は生涯延々と泥を啜り生きる運命だ。 葬ってやるさ……地獄へな。 お前に変わりサタン系として全てを支配する。 残念だが歪は先程私が閉じた。 お前達二度と此処から帰れぬ」
ヨハン操る傀儡達が二人に襲い掛かった時、 闇に赤い色閃光が走り、 誰かが傀儡を消滅させた。
「何だ?! 誰だ!!」
闇から現れたのは、 目を赤色に光らせたベンジャミンだった。
「何がサタン系として支配する、 だ。 笑わせるなヨハン。 この無節操なエロ男一人で充分だ」
ソロモンは驚いた。
「ベンジャミン……、 お前、 道に迷ったんじゃないのか?」
「土地勘無い場所じゃどうにもならない。 酷い目にあった。 だが……此処なら時空内、 私の領土になるさ。 ソロモン、 ルイ、 帰りたいなら私から離れるな」
ベンジャミンは懐から自分の魔法書を取り出し文言を唱えた。
「偉大なる賢者によりて生じたあらゆる因果とその力は又この壮大なる天地に於いて無限の力、 またそれらは勇者の真の力となり上限なし」
マントを広げ、 ソロモンとルイを包んで異空間を作り出すと消えた三人。
辿り着いた場所は、 ソロモン邸の門前。
「無事に帰れたようだ……。 おい、 ソロモン、 大丈夫か?」
「気にするな……こんな小さな傷……自分で治せる」
フラフラと寝室へ向かうソロモン。
「恰好付けるな。 まぁ、 惚れた女を一人で救出するなど洒落た行動すると思わなかったが。 闇を走り抜ける黒馬 (ナイト)さん」
「何勘違いをする。 ルイは単に時計塔を探す為と契約を全うする為に使うだけだ。 他に何ら意味など無い。 魔法書を取り返したら、 時計塔で奴と決戦になるのは必定。 もはや、 この女に必要ない。 契約解除。 足手まといになるだけだからな」
ルイは反論できなかった。 本当にただ足手まといになったからだった。
ベンジャミンはルイに語りかけていた。
「ルイさん、 ……気にするなって。 それより、 ソロモンを見ていて欲しい。 これ以上又一人で動かれたら困る」
ルイは控えめにソロモンの寝室へ向かった。
ソロモンはルイから顏を背けた状態でベッドで横になって居た。
躊躇いがちに尋ねるルイ。
「あの……」
「何だ……?」
「私……契約解除ですか? 足手まといになりますもんね」
「……」
「時計塔……、 せめて探す方法無いですか? 時計塔さえ探せたら魔法書も」
「時計塔探す手立てか……。 無いとも言えない」
「何処にあるんです?」
「お前次第……、 と、 言えばどうする」
ルイは意味に困惑をした。
「私次第……ですか?」
「こっちへ来い……ルイ」
ソロモンの傍へ行くとソロモンはいきなりルイの腕を掴んでベッドへ押し倒した。
「何するんですか!」
「今言ったろ? オマエ次第と。 即ちお前はクロス……交わるカードだ。 私とて、 こんな方法好まないから……今迄何もしなかった。 まずカードとしての意味。 私とお前が交わり、 ベンジャミンが過去の時計塔へ導く……これが、 本来の意味でな。 私とお前と交わらない限り、 時計塔を探すにも困難を極める……今は時計塔などどうでも良い……」
さらにソロモンはルイの耳元で囁いた。
「お前を抱きたい……理性で快楽を封印するお前を……狂わせたいだけさ」
ルイの首筋にキスをしながら胸元を肌蹴た。
ソロモンからの甘い口付けがルイの力を全身から抜いた。
「躊躇うな……自我を解放するんだ……、 ルイ。 ただ 『女』 になれ」
激しく甘いソロモンから受ける甘い声と愛撫は、ルイの中でエクスタシーに変わる。
甘い二人の息遣いだけがそこに有った。
ルイは今迄女性として抑圧し続けた理性を手放した。
ソロモンと重なるルイの体から金色の光で包まれた。
無言でソロモンに背中を向けたまま、 ベッドに居るルイ。
そんなルイに平然とした口調で抱き寄せるソロモン。
「怒っているのか?」
「いくらなんでも……ただ快楽の為だけなんて」
「快楽は快楽だな。 だが……、 謝らんぞ。 そこに愛とやら生ぬるい物が有っても不満か?」
「え?」
恐る恐るルイはソロモンの顏を見た。
「私とて何とも思わぬ女に……こんな行為に及ばないさ」
何か理解できないで少し責める様な痛い視線を送るルイ。
「だからっ……、 その、 私に対する愛とやらがお前にもあるならば……ベンジャミンの言った時計店にある扉を開けられる訳だ。 うまく言えない。 ただ、 お前を愛しているかも知れんな」
「本当に?」
ソロモンは悪戯な表情で答えた。
「試しで時計店に聞いた扉を開けるか? 無事帰れるか否か? しかし、 その前に……まだお前には私から受けて貰わんといけないことがある」
ソロモンはルイの頬を撫で首筋にキスをして血管に牙を立てた。
先程の余韻が残る中、 迷宮の中に居る様な更なる快楽が脳内に走る。
思わず声を出すルイ。
そんなルイを見たソロモンは
「私は吸血鬼でもある。 貪欲なんだ。 ルイ、 二度とお前を離さない……愛している……」
一方、
別室に居たベンジャミンは、 眩暈を起こし持っていた本を落とし、 膝を床に着いた。
先程ムダなエネルギーを傀儡に使ったせいでもある。
ベンジャミンの魔法書が赤い光を放つ。 床に着いた膝が少し透けた。
「待て……。 まだ終わってないんだ。 今少し時間をくれ。 せめて行動だけでも 『不完全』 にしないでくれ。 解ってるさ……。 時の違う私がここに居れば世の中が狂う」
強烈な睡魔に襲われたベンジャミンは、 ベッドに横になった。
過去から来たベンジャミンの滞在できる時間はあと3日で限界だった。
翌日の夜午後一一時。 ベンジャミンはソロモンとルイを連れ、 時計店裏に有る扉に向かう。
時計店に先日会った老人も居ない、 真っ暗だった。
ベンジャミンは魔法書を取り出した。
「常に万物の掟に従うが如し。
その極悪なる者に必ずや勝ち、 定められた時に全うせん……」
虹色の光を放ちながら扉が開いた。
冷や汗を頬に滲ませるベンジャミンにソロモンは、
「ベンジャミン……、 お前、 まさか……」
意外に涼しい潔い微笑みを浮かべたベンジャミンは、
「あぁ。 『賭け』 だな。 お前だけ恰好付けさせる訳にいかない。 私が万一消滅したら……お前一人傀儡が友達のあの化け物相手にせんといかんぞ。 ソロモン急げ」
三人は扉へ誘われる様に誘われた。
古い寂しい夜の街並にルイはベンジャミンに尋ねた。
「此処……、 どこ?」
「我々の居る過去……、 と言ったら正しいかな」
暗黒の街に午前零時を告げる鐘が妖しく響いた。
ソロモンはボソリと呟いた。
「一時間誤差があるな……。 日付が変わった。 猶予無と言うところか」
霧の中に巨大な姿を現せた時計塔にルイは驚いた。
「時計塔?!」
そんなルイにソロモンは時計塔を眺めながら答えた。
「占い通りだ」
「見つけられたのね……」
「安心するな。 今から本番だ……」
不気味な程に地鳴りがする。
急にソロモンはルイを抱いて左へ飛んだ。
「避けろ! ベンジャミン!!」
ベンジャミンは右へ飛んだ。 何体居るか数えられない程傀儡が居た。
傀儡後ろから声がする。 ヨハンだった。
「自分から来てくれるとは。 私も要らぬ手間が省けた」
ベンジャミンは空中に飛び掌から赤色に発光した魔方陣を出した。
「ふっ、 来たな、 傀儡。 ソロモン、 雑魚は任せろ!」
ソロモンはルイに小声で伝えた。
「時計塔裏に居るんだルイ。 私が放電をしたら走れ」
ルイに伝えた後、 紫の魔方陣を出したソロモンは文言を唱えた。
「異界から受継れたる法則は今まさに地に現れし、 闇の黒馬と呼ばれたるまさに我、 継承される唯一の者にそれを与えん」
時計塔に電流が走り、 地面に雷が落ち、 時計塔ガラス破片が飛ぶ。
ヨハン驚いた。
「何だ……? 一体これは!」
無数に襲い掛かる傀儡を、 投げ飛ばしながらベンジャミン答えた。
「お前、 ソロモンの従兄弟だと言うのに知らなかったのか? サタン系にはな、 我々ヴァンパイアにない力がある。 欲望を操る力だ。 悪しきと言われる欲望を含め何処に解放もせず封印し続けたらどうなるか。 それが積まれ底知れぬ破壊エネルギーに変わる。 積りに積る破壊エネルギー操りが放たれた時……ヴァンパイアでさえ敵わぬ底知れぬ強い力がある。 お前に勝算など無い」
「そんなバカな!」
ソロモンは掌を上空に向けた時、 魔法陣が発光した。
「ベンジャミン、 今だ!」
ソロモンとベンジャミンは同時に唱えた。
『選ばれし三つの存在が今 その証しなり』
紫と赤い二つの魔方陣で重なり発光しながら廻り始めた。
時計塔裏に居たルイの横にある路地から金色に何か光った。
「これ……、 魔法書?」
黒い革張りの魔法書らしい金色に光る本を拾うルイ。
時計塔路地裏隠して居たらしい。
ソロモンとベンジャミンから受けた強い光に蹲るヨハンはうずくまる。
ソロモンはプラズマを発生させた興奮状態でヨハンの胸倉を掴んだ。
「……」
自棄な口調でヨハンはソロモンに呟いた。
「どうした……? 私はお前に敗れた愚者だ。 私を地獄へ抹消しろ」
「……」
「ソロモン、 なぜ黙る! 魔法書をお前から奪った悪党だぞ私は」
ソロモンはヨハンの掴んだ胸倉から手を離した。
「ずっと……、 お前苦労をしたんだろう? 過去の忌まわしい戦乱の中……たった一人で」
「何でそんなに哀れむ様な目で私を見る! 止めろ!」
「お前を更に地獄へ落としたりしない。 ヴァンパイアのお前は……永遠に生きねばならんのだ。 替わりに……生きる為、 立て直しに必要な財をお前に与える。 好きな土地で暮らせ」
小切手をヨハンに渡した。
ソロモンにに近寄り呆れた口調で話すベンジャミン。
「ソロモン……意外と生ぬるい奴だな、 お前。 ルイがお前に惚れた理由か。 優しい悪魔め。 罪な男だ」
安心をした様に魔法書を抱いたルイが時計塔裏から現れ、 ソロモンに渡す。
ベンジャミンは少し考えた後で、 呟いた。
「善悪分別有、 又、 然程にワルでも無い、 破廉恥で無節操だが。 人の血を通わせたサタン系。 禁断の魔法書がお前に継承された本当の理由、 だろ。 お前なら危険な魔法書を悪用しないからな」
「褒めてるつもりか? お前……」
ソロモンはジロりとベンジャミンを睨ん時、 ベンジャミンは赤色に発光し、 既に透け始めて居た。
「ベン……、 お前」
「その様だな……。 間に合ったから良かった……。 ソロモン……、 ルイ、 ドタバタ楽しかったよ……。
私もルイに惚れてたんだが、 ソロモンの手がホントに早い。 まったく……ルイを大切にしないと……私が又過去から這って奪いに来るかも知れん」
少し寂しい表情を隠す様に答えるソロモン。
「バカ。 ルイは私の女だ。 誰にもやらんぞ……」
「ソロモン……、 ルイ……、 永遠の友と思っていいか?」
ルイは瞳に涙を溜めながらベンジャミンの薄れる掌を握る。
「ベン……、 貴方を、 忘れないから……」
ソロモンは顏を天に向けて呟いた。
「本当に……、 面倒な男だな、 お前……。 又招待状お前に贈りつけるぞ」
「ソロモン……あぁ。 待ってる……と言いたいところだが。 自分が何処から来たのか、 又何処へ行くか解っている。 ソロモン、 お前はどうする?」
「私自身解らぬさ……」
ベンジャミンの魔法書が赤く発光する中、 ベンジャミンはソロモンとルイを見た。
「そろそろ行かないとな。 元気でな!」
ソロモンはベンジャミンに言う。
「お前もな……。 グッド・ラック!」
ソロモンはルイと屋敷へ帰った後、 労いと友への永遠を一言だけ、 日記に認めた後、ペンを置いた。
『ベンジャミン・アドラス。 私の永遠の友へ……。ありがとう。
幸せであれとただひたすら祈る。
ソロモン・ダグラス・サンダーⅡ世』
finis.
【あとがき】
この作品は相当に古い作品で自サイトに掲載をして居ました。 まだデジタルでイラストの基礎も解っていない頃でイラストもかなり拙いです。
こういう小説描いて居たんだなと(笑)
最後まで読んで頂いて嬉しいです。
ありがとうございます。
水晶に映し出される要塞化した古い洋館。
「ヨハン……。 アイツ、 こんな所に潜んで居た訳か」
ソロモン、 眉間に皺を寄せた。
そこは、 既に廃墟と化した筈であるかつて、 ソロモンとヨハン一緒に居た屋敷だった。
「しかし……、 この過去・時空間と繋がるキーワードは日本の何処だと……この辺から然程離れない筈だ」
更に水晶を撫でるソロモン。
住宅街から少し離れた、 今は誰も住まない萎びた古い洋館に過去と繋がる歪があった。
「ここか……。 鬼と出るか蛇と出るか。 ふ、 どんな結果に成ろうとも、 覚悟ならできているさ。 あとは時計塔だな……」
ソロモンは微かに笑うと消え去った。
真っ暗な空。
洋館の古い屋根に立つソロモン。
ただマントの揺れる音だけがする。
まずはルイを救出することが先決だった。
屋敷内からソロモンがルイに渡した小箱から来る振動が伝わった。
「生きてる様だな、 ルイ……」
とりあえず屋敷に潜るソロモン。
ルイを探すうちにヨハンの使う傀儡達に遭遇した。
傀儡たちはソロモンに襲い掛かった。
本当なら一瞬で片づけられる程度しかない傀儡。 ヨハンが魔法書を手にした影響で強い魔力で操り、 なかなか退治できず、 ソロモンは疲弊、 傀儡を倒した時は既に傷だらけになった。
ポタポタと腕から流れる血だけ止めた。
この流れる血でヨハンに後を追われたら危険だった。
屋敷内をこっそり探し、 牢を見つけた。
ソロモンは小声で呼びかける
「ルイ? ……居るのか?」
聞きなれた懐かしいソロモンの声でルイは牢の扉へ駆け寄る。
「ソロモンさま……あぁ……、 血が」
「無事か? デカい声を出すな。 今此処から出してやる」
ソロモンは扉にある鍵に掌を翳し、 文言を唱えた。
「形ある物はいつかその姿を崩したりて 新たな物への礎となろう」
ガラッ……。 錠前は簡単に扉から壊れ落ちた。
急いで扉を開けるソロモン。
ルイは扉から出て抱きついた。
「怖かった……。 どうすればいいか解らなくて」
「ムダ話ならば後でいくらでも聞いてやる、 ここは今やヨハン……奴が作り出した強烈な結界内、 辛うじて仮の歪を開けたが歪は一時的だ、 歪が完全に消えたなら、 ベンジャミンの居ない今の状態では現在に帰れない。 急げ」
正直なところ時間がなかった。
暗い地下牢が並ぶ廊下を走る二人。
冷ややかな声でヨハンの声。
「お二人さん、 仲良く恋の逃避行かな……?」
現れた人物はヨハンだった。
ソロモンはルイを後ろへ庇い、
「ヨハン……、 お前……!」
余裕な薄笑いを浮かべたヨハンはソロモンを見下す様に、
「魔法書が無い今のお前は、 単なる下級魔族同然だ。 サタン系だと? 笑わせるな。 お前が居たら私は生涯延々と泥を啜り生きる運命だ。 葬ってやるさ……地獄へな。 お前に変わりサタン系として全てを支配する。 残念だが歪は先程私が閉じた。 お前達二度と此処から帰れぬ」
ヨハン操る傀儡達が二人に襲い掛かった時、 闇に赤い色閃光が走り、 誰かが傀儡を消滅させた。
「何だ?! 誰だ!!」
闇から現れたのは、 目を赤色に光らせたベンジャミンだった。
「何がサタン系として支配する、 だ。 笑わせるなヨハン。 この無節操なエロ男一人で充分だ」
ソロモンは驚いた。
「ベンジャミン……、 お前、 道に迷ったんじゃないのか?」
「土地勘無い場所じゃどうにもならない。 酷い目にあった。 だが……此処なら時空内、 私の領土になるさ。 ソロモン、 ルイ、 帰りたいなら私から離れるな」
ベンジャミンは懐から自分の魔法書を取り出し文言を唱えた。
「偉大なる賢者によりて生じたあらゆる因果とその力は又この壮大なる天地に於いて無限の力、 またそれらは勇者の真の力となり上限なし」
マントを広げ、 ソロモンとルイを包んで異空間を作り出すと消えた三人。
辿り着いた場所は、 ソロモン邸の門前。
「無事に帰れたようだ……。 おい、 ソロモン、 大丈夫か?」
「気にするな……こんな小さな傷……自分で治せる」
フラフラと寝室へ向かうソロモン。
「恰好付けるな。 まぁ、 惚れた女を一人で救出するなど洒落た行動すると思わなかったが。 闇を走り抜ける黒馬 (ナイト)さん」
「何勘違いをする。 ルイは単に時計塔を探す為と契約を全うする為に使うだけだ。 他に何ら意味など無い。 魔法書を取り返したら、 時計塔で奴と決戦になるのは必定。 もはや、 この女に必要ない。 契約解除。 足手まといになるだけだからな」
ルイは反論できなかった。 本当にただ足手まといになったからだった。
ベンジャミンはルイに語りかけていた。
「ルイさん、 ……気にするなって。 それより、 ソロモンを見ていて欲しい。 これ以上又一人で動かれたら困る」
ルイは控えめにソロモンの寝室へ向かった。
ソロモンはルイから顏を背けた状態でベッドで横になって居た。
躊躇いがちに尋ねるルイ。
「あの……」
「何だ……?」
「私……契約解除ですか? 足手まといになりますもんね」
「……」
「時計塔……、 せめて探す方法無いですか? 時計塔さえ探せたら魔法書も」
「時計塔探す手立てか……。 無いとも言えない」
「何処にあるんです?」
「お前次第……、 と、 言えばどうする」
ルイは意味に困惑をした。
「私次第……ですか?」
「こっちへ来い……ルイ」
ソロモンの傍へ行くとソロモンはいきなりルイの腕を掴んでベッドへ押し倒した。
「何するんですか!」
「今言ったろ? オマエ次第と。 即ちお前はクロス……交わるカードだ。 私とて、 こんな方法好まないから……今迄何もしなかった。 まずカードとしての意味。 私とお前が交わり、 ベンジャミンが過去の時計塔へ導く……これが、 本来の意味でな。 私とお前と交わらない限り、 時計塔を探すにも困難を極める……今は時計塔などどうでも良い……」
さらにソロモンはルイの耳元で囁いた。
「お前を抱きたい……理性で快楽を封印するお前を……狂わせたいだけさ」
ルイの首筋にキスをしながら胸元を肌蹴た。
ソロモンからの甘い口付けがルイの力を全身から抜いた。
「躊躇うな……自我を解放するんだ……、 ルイ。 ただ 『女』 になれ」
激しく甘いソロモンから受ける甘い声と愛撫は、ルイの中でエクスタシーに変わる。
甘い二人の息遣いだけがそこに有った。
ルイは今迄女性として抑圧し続けた理性を手放した。
ソロモンと重なるルイの体から金色の光で包まれた。
無言でソロモンに背中を向けたまま、 ベッドに居るルイ。
そんなルイに平然とした口調で抱き寄せるソロモン。
「怒っているのか?」
「いくらなんでも……ただ快楽の為だけなんて」
「快楽は快楽だな。 だが……、 謝らんぞ。 そこに愛とやら生ぬるい物が有っても不満か?」
「え?」
恐る恐るルイはソロモンの顏を見た。
「私とて何とも思わぬ女に……こんな行為に及ばないさ」
何か理解できないで少し責める様な痛い視線を送るルイ。
「だからっ……、 その、 私に対する愛とやらがお前にもあるならば……ベンジャミンの言った時計店にある扉を開けられる訳だ。 うまく言えない。 ただ、 お前を愛しているかも知れんな」
「本当に?」
ソロモンは悪戯な表情で答えた。
「試しで時計店に聞いた扉を開けるか? 無事帰れるか否か? しかし、 その前に……まだお前には私から受けて貰わんといけないことがある」
ソロモンはルイの頬を撫で首筋にキスをして血管に牙を立てた。
先程の余韻が残る中、 迷宮の中に居る様な更なる快楽が脳内に走る。
思わず声を出すルイ。
そんなルイを見たソロモンは
「私は吸血鬼でもある。 貪欲なんだ。 ルイ、 二度とお前を離さない……愛している……」
一方、
別室に居たベンジャミンは、 眩暈を起こし持っていた本を落とし、 膝を床に着いた。
先程ムダなエネルギーを傀儡に使ったせいでもある。
ベンジャミンの魔法書が赤い光を放つ。 床に着いた膝が少し透けた。
「待て……。 まだ終わってないんだ。 今少し時間をくれ。 せめて行動だけでも 『不完全』 にしないでくれ。 解ってるさ……。 時の違う私がここに居れば世の中が狂う」
強烈な睡魔に襲われたベンジャミンは、 ベッドに横になった。
過去から来たベンジャミンの滞在できる時間はあと3日で限界だった。
翌日の夜午後一一時。 ベンジャミンはソロモンとルイを連れ、 時計店裏に有る扉に向かう。
時計店に先日会った老人も居ない、 真っ暗だった。
ベンジャミンは魔法書を取り出した。
「常に万物の掟に従うが如し。
その極悪なる者に必ずや勝ち、 定められた時に全うせん……」
虹色の光を放ちながら扉が開いた。
冷や汗を頬に滲ませるベンジャミンにソロモンは、
「ベンジャミン……、 お前、 まさか……」
意外に涼しい潔い微笑みを浮かべたベンジャミンは、
「あぁ。 『賭け』 だな。 お前だけ恰好付けさせる訳にいかない。 私が万一消滅したら……お前一人傀儡が友達のあの化け物相手にせんといかんぞ。 ソロモン急げ」
三人は扉へ誘われる様に誘われた。
古い寂しい夜の街並にルイはベンジャミンに尋ねた。
「此処……、 どこ?」
「我々の居る過去……、 と言ったら正しいかな」
暗黒の街に午前零時を告げる鐘が妖しく響いた。
ソロモンはボソリと呟いた。
「一時間誤差があるな……。 日付が変わった。 猶予無と言うところか」
霧の中に巨大な姿を現せた時計塔にルイは驚いた。
「時計塔?!」
そんなルイにソロモンは時計塔を眺めながら答えた。
「占い通りだ」
「見つけられたのね……」
「安心するな。 今から本番だ……」
不気味な程に地鳴りがする。
急にソロモンはルイを抱いて左へ飛んだ。
「避けろ! ベンジャミン!!」
ベンジャミンは右へ飛んだ。 何体居るか数えられない程傀儡が居た。
傀儡後ろから声がする。 ヨハンだった。
「自分から来てくれるとは。 私も要らぬ手間が省けた」
ベンジャミンは空中に飛び掌から赤色に発光した魔方陣を出した。
「ふっ、 来たな、 傀儡。 ソロモン、 雑魚は任せろ!」
ソロモンはルイに小声で伝えた。
「時計塔裏に居るんだルイ。 私が放電をしたら走れ」
ルイに伝えた後、 紫の魔方陣を出したソロモンは文言を唱えた。
「異界から受継れたる法則は今まさに地に現れし、 闇の黒馬と呼ばれたるまさに我、 継承される唯一の者にそれを与えん」
時計塔に電流が走り、 地面に雷が落ち、 時計塔ガラス破片が飛ぶ。
ヨハン驚いた。
「何だ……? 一体これは!」
無数に襲い掛かる傀儡を、 投げ飛ばしながらベンジャミン答えた。
「お前、 ソロモンの従兄弟だと言うのに知らなかったのか? サタン系にはな、 我々ヴァンパイアにない力がある。 欲望を操る力だ。 悪しきと言われる欲望を含め何処に解放もせず封印し続けたらどうなるか。 それが積まれ底知れぬ破壊エネルギーに変わる。 積りに積る破壊エネルギー操りが放たれた時……ヴァンパイアでさえ敵わぬ底知れぬ強い力がある。 お前に勝算など無い」
「そんなバカな!」
ソロモンは掌を上空に向けた時、 魔法陣が発光した。
「ベンジャミン、 今だ!」
ソロモンとベンジャミンは同時に唱えた。
『選ばれし三つの存在が今 その証しなり』
紫と赤い二つの魔方陣で重なり発光しながら廻り始めた。
時計塔裏に居たルイの横にある路地から金色に何か光った。
「これ……、 魔法書?」
黒い革張りの魔法書らしい金色に光る本を拾うルイ。
時計塔路地裏隠して居たらしい。
ソロモンとベンジャミンから受けた強い光に蹲るヨハンはうずくまる。
ソロモンはプラズマを発生させた興奮状態でヨハンの胸倉を掴んだ。
「……」
自棄な口調でヨハンはソロモンに呟いた。
「どうした……? 私はお前に敗れた愚者だ。 私を地獄へ抹消しろ」
「……」
「ソロモン、 なぜ黙る! 魔法書をお前から奪った悪党だぞ私は」
ソロモンはヨハンの掴んだ胸倉から手を離した。
「ずっと……、 お前苦労をしたんだろう? 過去の忌まわしい戦乱の中……たった一人で」
「何でそんなに哀れむ様な目で私を見る! 止めろ!」
「お前を更に地獄へ落としたりしない。 ヴァンパイアのお前は……永遠に生きねばならんのだ。 替わりに……生きる為、 立て直しに必要な財をお前に与える。 好きな土地で暮らせ」
小切手をヨハンに渡した。
ソロモンにに近寄り呆れた口調で話すベンジャミン。
「ソロモン……意外と生ぬるい奴だな、 お前。 ルイがお前に惚れた理由か。 優しい悪魔め。 罪な男だ」
安心をした様に魔法書を抱いたルイが時計塔裏から現れ、 ソロモンに渡す。
ベンジャミンは少し考えた後で、 呟いた。
「善悪分別有、 又、 然程にワルでも無い、 破廉恥で無節操だが。 人の血を通わせたサタン系。 禁断の魔法書がお前に継承された本当の理由、 だろ。 お前なら危険な魔法書を悪用しないからな」
「褒めてるつもりか? お前……」
ソロモンはジロりとベンジャミンを睨ん時、 ベンジャミンは赤色に発光し、 既に透け始めて居た。
「ベン……、 お前」
「その様だな……。 間に合ったから良かった……。 ソロモン……、 ルイ、 ドタバタ楽しかったよ……。
私もルイに惚れてたんだが、 ソロモンの手がホントに早い。 まったく……ルイを大切にしないと……私が又過去から這って奪いに来るかも知れん」
少し寂しい表情を隠す様に答えるソロモン。
「バカ。 ルイは私の女だ。 誰にもやらんぞ……」
「ソロモン……、 ルイ……、 永遠の友と思っていいか?」
ルイは瞳に涙を溜めながらベンジャミンの薄れる掌を握る。
「ベン……、 貴方を、 忘れないから……」
ソロモンは顏を天に向けて呟いた。
「本当に……、 面倒な男だな、 お前……。 又招待状お前に贈りつけるぞ」
「ソロモン……あぁ。 待ってる……と言いたいところだが。 自分が何処から来たのか、 又何処へ行くか解っている。 ソロモン、 お前はどうする?」
「私自身解らぬさ……」
ベンジャミンの魔法書が赤く発光する中、 ベンジャミンはソロモンとルイを見た。
「そろそろ行かないとな。 元気でな!」
ソロモンはベンジャミンに言う。
「お前もな……。 グッド・ラック!」
ソロモンはルイと屋敷へ帰った後、 労いと友への永遠を一言だけ、 日記に認めた後、ペンを置いた。
『ベンジャミン・アドラス。 私の永遠の友へ……。ありがとう。
幸せであれとただひたすら祈る。
ソロモン・ダグラス・サンダーⅡ世』
finis.
【あとがき】
この作品は相当に古い作品で自サイトに掲載をして居ました。 まだデジタルでイラストの基礎も解っていない頃でイラストもかなり拙いです。
こういう小説描いて居たんだなと(笑)
最後まで読んで頂いて嬉しいです。
ありがとうございます。
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