魔性の輪舞曲【R18】

望月保乃華

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三章 傷跡

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 愛を確かめあった後ベッドで、
 「マリ、 良かったよ……」

 ニコラスは先程の激しい情熱から緩やかな表情に変わりマリを優しく抱きしめて囁いた。
 「魂全てから表す世界程……、 美しいものは無い」

 余韻に浸りながら眠る。

 ニコラスの夢の中。
 狼の哀愁に似た遠吠え。
 淋しい墓地が霧に包まれ一つ。

 「うぅぅっ……」
 いきなりベッドから飛び起きるニコラスにマリは驚いて尋ねた。
 「ニコラス?! ニコラス! どうしたの?」

 正気に返ったニコラスはマリを見た。
 「夢……か。 時々現れるイヤな夢だ……蘇生……、 ……墓から蘇る」

 額を抑え横になるニコラスをマリは優しく両手で包んで抱いた。
 「大丈夫だから……」
 「立場変わったな……ありがとうマリ。 『大丈夫』 不思議な魔法だな。 安心する言葉だ……。 起きたら又普段通りで居る。 朝までこうして居て貰っていいか……?」

 生きた人であるマリに、 ニコラスの夢の怖さが解る筈もなかったが、 疲弊した表情を見ると切ない。

 傍からマリを見たら悪魔に愛され憑りつかれたと映る光景さえ、情が移る相手が、 存在しない蘇生した死者で有っても、 心底愛し合う本人たちに関係ないと言えるかも知れない。

 愛されたと感じる悦びと、 幸せの隣で横たわる薄暗い霧の様な不安に包まれるマリ。
 傍に居るのに遠いところに居る様な複雑な感情を覚えた。

 翌朝

 冷静になったニコラスは上半身に何も身に纏わず、 気怠い雰囲気でイスに座った。
 「今日は夕方迄此処で休むか。 ずっと動いてマリも疲れるだろ……。 夕方から出よう」

 二人はホテルにある喫茶で朝を済ませ、 夕方迄束の間、 休憩を取った。

 似た者同士で寄り添い、 ただ見つめ合うだけで想いが通じる。

 日が暮れ、 ホテルから出た。
 夕方から移動すると後ろから声が。

 先日、 マリに絡んだチンピラ二人と怪しい長めに流す黑装束、 目迄深々黑い帽子被る男に遭遇した。
 「……」

 チンピラ二人から仕返しが考えられるが、 片方に居る変わった恰好をした黒装束男は?

 黑装束纏う男は銀の短剣を持って居た。 変形をした短剣が鈍い光を放つ。
 「蘇ったか、 ニコラス・オールドマン……お前ほどのヴァンパイアになれば……我々一族の努力で受継がれた、 この短剣使わないと永久に封じられない様だ……。 墓で大人しくして居れば良いものを
 人間の女と関係を持って……子孫を残したいか」

 ニコラスと黒装束を纏う男で視線が交差、 火花を散らした。
 「……」
 
 黒装束を纏う男は更に続けた。
 「あの時……、 完全に封じて居たら、 こうしてお前を復活させる様な野暮をしなかっただろう……」
 「甘かった様だな……。 二度も葬られる程バカじゃないさ」


 黒装束を纏った男は、
 「強がりな魔物め、 何処まで耐えられるだろか?」

 身構えるニコラス、 小声で囁いた
 「マリ……少し離れろ……」

 マリはニコラスを止めた。
 「危ないわ」
 「あぁヤツは……、 危険な存在だ。 私を一度葬ったのは……あの男だ」


 ニコラスの瞳に赤い光が増す。
 「マリ、……飛ぶぞ」

 マントを翻すとマリを抱いたまんま上空に舞い上がった。
 宙に浮いたニコラスに向かい、 黑装束を纏った男が弓矢らしい物を放ったが、 ニコラスのマントに弾かれ、 落ちた。

 二人一瞬で消えると建物の隅に移動し、 諭す様に呟いたニコラス。
 「マリ……、 此処のホテルで待て」

 何か嫌な勘の走るマリはニコラスを止めた。
 「行かないで……」

 「心配しないでいい……。 安穏な日を二人で過ごす為だ。 片付いたらずっと一緒にいて欲しい」

 ニコラスはマリを強く抱きしめてキスをすると一人、 再び宙に舞った
 「ニコラス!!」

 マリに止められる話でなかった。 どうにもならない……。

 ホテルに居る様に言われたマリだったが、 一人で部屋に居られる状態でない。
 迷っているうちに何かが貫いた鋭い音と共に男の呻く声が。

 マリは蒼ざめた
 「ニコラス!!」

 周囲を走り廻り無我夢中で探したが、 どちらも居ない。
 救われる道標、 方法などヴァンパイアにないと言うのか。

 運が悪かった為に人からヴァンパイアとなり、 魔性の者と葬られ蘇生したら又追われる……。
 虚ろな瞳で何を求めるのか。 破滅に導かれる憐れな魂。

 周囲をふらふら彷徨うマリ。 
 「どうして……? なぜ……それ程迄に彼を。 何処へ行ったと言うの……」
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